ぼんやり令嬢と小休憩
なんかよくわからないけどとりあえず私になんかこう問題があることはわかったものの、最終的にもうそのままでいいよと言われたので若干疑問は残りつつその日の授業は終わった。
「よっお疲れ様」
いつもお手伝いがあるときとは違い、自家用車で迎えに着てくれたニーチェさんは当たり前だが私服だった。
……相変わらずセンスがいいなぁ、あと相変わらず脚も長いなぁ、と見惚れているとその横にはエフレムさんがそれはそれは姿勢正しくたっていた。
「お疲れ様です。あっエフレムさんも」
「お嬢様、お疲れ様です。お荷物お持ちしますね」
言うや否や、エフレムさんは、私の鞄を持ってくれたが申し訳なさから思わず口が開いてしまった。
「あの……エフレムさんはあくまでも伯父様の助手だから、私にここまで尽くさなくてもいいんだよ?」
そう言う私にエフレムさんは、凛々しい瞳でこちらを見据えて答えた。
「いえ、確かに私はヴォルフラム様の助手兼弟子ですが、そのヴォルフラム様が、大事になさってるフルストゥルお嬢様に尽くすのは至極当然です。」
その言葉にニーチェさんは深く感心したのか、頷くことも忘れ
「忠義ものだなぁ……」
と呟き、私はとりあえずすこし首を傾げたまま、エフレムさんに答えた。
「えぇと……ありがとうね?」
そう答えると、エフレムさんは小さく頷いた。
そんなやり取りのあと、車に乗ると、ニーチェさんから、とあることを提案された。
「そういや、一回うちの店にいっていいか?」
「はい」
「店?」
エフレムさんが珍しく首を傾げる、その様は、まるで、初めてそれを知ったときの私と良く似ているなぁ、と思いつつ、エフレムさんの疑問に答えた。
「あぁ ニーチェさんのお母様、フロルウィッチの店長さんなの」
「え?そうだったんですか…知りませんでした。」
「ははっいい反応だなぁ」
ニーチェさんは明るく笑うと、こちらを見た。
「今日、職人街にいくだろう?まぁ首都は治安がいいとはいえ、制服のまま行くのは、ちょっとなーって思ってたから」
確かにそれもそうだよな、と納得しながら、それはそれとして、疑問がたくさん出てきてそのままニーチェさんにぶつけた。
「もしかして私だけお着替えです?」
「そうだなー」
後部座席でエフレムさんも頷いていて、あぁこれは確定事項らしいと目をつむった。
「……もしかして、フロルウィッチの服です?」
「そうだなー」
ニーチェさんの答えを聞いて、私は思わず財布のなかを確認するも、ニーチェさんは私の行動をみて柔らかく否定した。
「あっ金はいらないから」
「えぇ……悪いですよぉ……」
「いいって、母さんが、セレスのドレスさわらせてくれたお礼だってさ」
いや、それをいうと、お直ししてくれたことで、チャラになりませんかね普通は……と、思ったものの、どうやらこれも確定事項らしく、ありがたさと申し訳なさが混じったまま、フロルウィッチへと連れていかれた。
「……貴方たちお昼たべた?」
ノージュさんは、開口一番にそういうと、まずニーチェさんが答えた。
「食べてないよ」
それに同調するように、私とエフレムさんが頷くと、どこか、気遣わしげな表情でこちらを見つめていた。
「そう、二人は嫌いなものあるかしら?」
「ないです」
「……そう、じゃあ座って待ってて」
「……はい」
ノージュさんはそういうと、台所へと向かった。
ハイルガーデン家は男爵家で、ノージュさんはそこの当主なのに、そういったこともするんだ、と意外な気持ちだったけれど、そもそもこの家には従業員はいても、侍従や侍女もいないから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。そもそも新興貴族だし……と、考えているとニーチェさんが、こちらを覗き込んだ。
「意外?」
「えぇ……お母様も一応料理は出来ますが普段からはしませんし」
「へぇ、そっちの方が意外だけどなぁ」
「そうですか?」
ニーチェさんの驚きの声に、私はそう答えたが、他人からみれば、お母様は、資産家の娘で伯爵夫人だし、身内ひいきを引いたとしてもあの美貌。そりゃあ、扇子より重いものを持ったこと無さそうだ。と思うと、ニーチェさんも同じ思いだったのか、ぽつりとつぶやいた。
「だって、あのティルディア様が、台所に立つなんて……」
「あー……、でも結婚する前から、家事はやってたみたいですよ?いざ、何かあったときのためにって」
「何か……とは」
エフレムさんは、全く見当がつかないのか、珍しく顎に手を置いていた。
「うーん、例えば飢饉とか自然災害とかもそうだし、それこそ、平民落ちや没落とか、何があるかわからないのよって、良くいってましたし、お母様も言われていたみたいです。」
「あぁ、なるほどな」
「あぁ……」
そうなりますよね、だって最近、ブランデンブルグ侯爵家、えらいことになってますしねぇ……。主にやったの、うちの家なんですけどねぇ。
とのんきに考えつつも、そういえば、ジョエルさん大丈夫かな、と少し心配していると、エフレムさんがそれを察したのか、ゆっくりと口を開けた。
「祖父は、当主様の執事ですから、あまり割は食ってないですけれど、やはり、以前の勢いはないようですね」
「そうなんだぁ」
「どうぞ」
もはや、本当に他人事になった侯爵家の話をしているうちに、ノージュさんが、ものすごく美味しそうな、クリームパスタをよそってくれた。
「ありがとうございます。」
「お口に合えばいいのだけれど……」
ノージュさんはそう遠慮がちにそういうが、出されたパスタは、まるでお店で出てくるような出来栄えで、一瞬ノージュさんって本業料理人だっけ?と思うほどのおいしさで、ノージュさんに、何回も美味しいですと答えていると
「そう、よかったわ」
と少し涼し気な対応だったが後でニーチェさんに聞いたところ。
「母さん、あれ猫とか見るときの顔だったぞ」
といわれたがそれは褒められているのかどうなのか疑惑の判定だなぁ、と思うのだった。
嫌われてないなら、もう何でもいいやなんて、思っていたのはここだけの話にしよう。
食後、しばらくしてノージュさんが渡してくれた服は、淡いカフェオレのような可愛いブラウスと、ちょっとハイウェストなキュロットスカートと、なんと太ももまである編み上げのブーツを貸してくれた。そしてそれに着替えた私をみて
「……帽子があってもいいわね」
といった後、髪の毛をおさげにしてくれた上に、ブラウンのキャスケットをかぶせてくれたのだった。
「おおー、可愛いなぁ、フルルは何でも似合うなぁ」
と、ニーチェさんはその後もかわいいかわいいと言ったあとノージュさんを振り返った。
「これも試作?」
「えぇ、リボンの素材をどうしようか悩んでいてね」
と、親子での会話に挟まれつつ、服の素材や、ディティールに細かくこだわるところをみると、本当にノージュさんは洋服がすきなんだなぁ、と思うし、相変わらず、こんな可愛い服を作れるのはすごいなぁ、という思いから、ぼそりと出てきた言葉は
「……ベルバニアの近くにも、フロルウィッチあればいいのになぁ」
という欲の塊だったが、意外にもノージュさんとニーチェさんは一度深く頷いた後。
「……考える価値はありそうね」
「地方かぁ、とりあえず流通を……」
と真剣に考え始め、しまいには空き物件まで探し始めたところで、おずおずと私は手を上げた。
「あのぉ、そろそろ出発したいですぅ」
「あぁ、悪い悪い」
そうして、食事と着替えを終えてようやく今日のメインである職人街巡りへと向かうのだった
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