ぼんやり令嬢の周囲は色々と驚くそうです。
美味しいごはんを食べて、ちょっと怖い思いをしたものの、何も病むことも無く、ぐっすりと眠れたので、誰も気づくことも無かったし、自分でさえ忘れていたが、竜が、まさかのほろ酔い状態だったことを、朝ごはんの時に伝えると。
「お嬢の不安が、的中しちゃいましたねぇ」
「何にせよ、お怪我がなくてよかったです」
と、オルハとリノンが心配そうに声を上げた後、エマは少し考えてから、ウォーレンさんに尋ねた。
「てか、もしうっかり竜が食べちゃったとかならまだしも、わざと食べさせたりとかだと、捕まりませんっけ?」
「捕まりますね、今回の場合ですと、10年以下の懲役か、80万程度の罰金てところですかね」
「へぇ、そうなんだ」
ウォーレンさんの答えを聞きながら、カフェオレを飲んでると、オルハが、不思議そうな表情で問いかけた。
「でもよく異変に気付きましたね、お嬢」
「うん、エフレムさんがくれたバングルが、教えてくれたの」
そうでなかったら、竜に全く詳しくない私が、疑問を持つだなんてこと、出来るわけがないし。
「お役に立てて何よりです」
どこか嬉しそうなエフレムさんに、エマは驚いたように口を開けた。
「へぇ、もう魔道具師じゃんそれぇ、すごぉ」
「エフレムは、呑み込みが早いからねぇ……助かるよ」
「ありがとうございます」
伯父様の言葉に、頭を下げるエフレムさんに、うんうんと頷くとこんどはこちらに問いかけた。
「そういえば、今日は二人で職人街に行くんだっけ?」
「あーそれが……、ニーチェさんが、ついてきてくれるみたいで」
そう、昨日その話をしたら、ニーチェさんが、心配だから行くよと、快く言ってくれたのだった。
「……すごいなぁ、あの人」
オルハはそう呟いた後、どこか遠くをみて、まだ朝なのに黄昏ていた。
「ねぇ優しすぎるよねぇ」
「…………うーん、これは同情せざるえないな」
「……うん?」
オルハは一体、何に同情してるかわからずに、首を傾げていると、オルハは小さく頷いた。
「お嬢はそのままでいーっすよ」
「うん、わかった。」
力一杯頷くと、その後ろで、エフレムさんはすこし困ったような笑みを浮かべていたが、伯父様とリノン、エマは小さな子供を見守るような、微笑ましさ全開な表情で、こちらをみていた。
その表情の意図がわからず、とりあえず、進んでいない朝食に手をつけたのだった。
「今日、授業午前中だけですよね?」
「うん、でも、お迎えはニーチェさんがしてくれるって」
「了解しました。」
のんびりと朝の支度を終え、学院に向かい、正門でシャロと教室まで向かうと、シャロも、どこかのんびりとした口調で、口を開いた。
「そういえば、狩猟祭のドレスは決まった?」
「ドレス、いるのかなぁ。私は、アイン様の補佐だし」
色々動き回るだろうし、不必要に着飾る必要をあまり感じず首を傾げると、シャロも納得したように頷いた。
「うーん、言われてみればそうかも?でも、前夜祭とか後夜祭には出るかもしれないから、聞いてみたら?」
「あぁ、あるんだねぇそんなの」
「…………本当に、今までそういうの、出てなかったのねぇ」
シャロは同情を含んだ表情でつぶやくも、べつになんとも思っていないからか、そんなことより、シャロのドレスが何色なのかの方が気になったので、疑問をそのまま口に出した。
「そんなことより、シャロは何色のドレスを着るの?」
「今、候補なのは、モスグリーンと淡いパープルとブルーグリーンかな」
ぼんやり、その色のドレスを着たシャロを想像する、シャロは可憐な顔立ちだけど、かわいいだけじゃなくて気品もあるし、どこか知性も感じさせるとこもあるから、かわいいのからシックなやつまで、何でも似合うのがわかりきってて、思わず心の声が濾過されず口からそのまま出た。
「へぇ、どの色もきっとシャロに似合うんだろうなぁ……」
「ありがとう、けど前夜祭とかのこと一応聞いておきなね?」
「わかったぁ」
……正直、今回も補佐だし、でなくていいのかやったね、と思っていたので、すこしだけ残念だった。
最近、周りにめぐまれているからうっかり忘れているけど、私、不特定多数の場って、本当に苦手なんだよなぁ……。
「ところで、狩猟祭って、本当に動物の死体を渡されても、喜ばなきゃいけないの?」
私の素朴な疑問に、隣から、笑いを噛み殺したような声が聞こえた。
「……くっ」
「ギャラン様……ごきげんよう」
「あー……ごきげんよう」
ギャラン様は、どうにか笑いを押さえつつ、挨拶を返してくれたが、ちょっと目尻に涙が浮かんでいる。
…………うん?私相当変なことをいったのかな?でもわからないからなぁ、不敬なことをいってなければいいけど、ともやもや悩んでいると、ギャラン様は私の疑問に答えるように、口を開いた。
「まぁ、そうだよなぁ。フルストゥル嬢は、狩猟祭でたことないもんなぁ」
「はい。いつもお兄様が出席してましたし、婚約者様に誘われることもなかったので、いつも領地に戻ってました。」
「え?そうなの?」
シャロは驚いたような表情をするが、私はそれをみつつ、脳内から、渋々言われた言葉を引き出した。
「うん、あっちがいうには、婚約者様はお優しいから、動物の死体なんて見れないだろうって」
「はー詭弁ね」
「まぁいいけどねぇ……心底、どうでも」
「いいきるなぁ……。一応、10年の付き合いあったんだよな?」
ギャラン様はすこし驚くも、私はためいきまじりにそれに答えた。
「会ってない期間が、長かったですけどねぇ」
多分、あっちにとっては、婚約者って名前の、体のいい感情の捌け口くらいにしか思ってなかったでしょうけど。
……まぁ、あそこまで歪んでしまうまで、放っておいた私が、なんも悪くないかといわれたら、それはちょっぴり違う気がするけれど、だからといって、全部許せるとはいえないしなぁ、とぼんやりしてると、ギャラン様は口を開いた。
「フルストゥル嬢の優しさに、胡座をかいたあっちが悪いだろ」
といってくれ、シャロもそれに同意してくれたが、そんな優しいかな私、ってと疑問が残るばかりだった。
本当に優しい人間は、王太子の写真売って、お昼ごはん代稼がないと思うけどなぁ、と考えていると、ギャラン様はまたまた笑いを抑えていた。
……私そんなへんな顔してたかな?
「いや、ごめん、なんでもない……っとそれで狩猟祭のことだけど、直接獲物を渡す訳じゃなくて、大きさや難易度をみて、その獲物同等の、宝石と交換して、それを渡すってかんじかな」
ギャラン様の説明に、私は安心から、深く息を吐いて胸を撫で下ろした。
「あーよかった……もらう予定ないけど……」
「ないのね」
シャロの、意外そうな顔をよそに、私は気の抜けた顔で続けた。
「ないない、私、多分ずっと、アイン様のとこにいるし」
アイン様も、怖いだろうから一緒にいていいよ、と快く承諾してくれたし、何より、私の上司でもあるからなぁ…と思い返していると、シャロもなるほどと頷いていた。
「まぁそれもそうよねぇ、ニーチェさんも参加しないだろうし?」
「?何故そこでニーチェさん?」
意味がわからず首をかしげるとシャロは一瞬驚いたように目を見開いた。
「いや、だって婚約者候補じゃない?」
「仮だし、偽だけどねぇ」
私の返答に、シャロは信じられないといわんばかりに、私の肩を揺さぶる。
「……嘘でしょ?フルル正気?」
「うん?」
「あー、流石にこれは」
どこか呆れたような二人の反応の意味がわからず、私はただ、首をかしげているも、
ギャラン様もそれを止めるわけでもなく、天井を見上げていた。
そして、まさかの通りがかったマオ先生に、シャロは問いかけた。
「……どう思います?」
「ニーチェの努力不足と、ベルバニア嬢の、自己肯定感の低さ…だろうな」
先生のいっている意味が、魔法の授業と同じくらい意味がわからず、綺麗な挙手をしてから
「先生、当事者なのに、なんにもわからないんですけど?」
と、尋ねると、マオ先生は眉間を押さえて、なんともいえない表情をしていた。
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