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ぼんやり令嬢の不安は杞憂ではなかったそうです

「……本当だな、ベルバニア嬢よく気づいてくれた」


 先生は少し考えた後、すぐさまに竜を生徒から離れさせた。


 「さて、そろそろ授業は終わりだ。闘技場から教室は遠いから、気をつけて戻るように、片付けは、こちらでやるからな」


 マオ先生は、動揺させないようにそういうと、何かに気づいたらしいギャラン様が、マオ先生と私の間に入り小声で告げた。


 「何かあったみたいだな、俺が殿で戻ろうか」


 「……ありがとうございます。」


 マオ先生が小さく頭を垂れると、私はその横で、王族であり、幼いころから竜と親しんでいるギャラン様は、なにか知ってるかと思い、小さい声で問いかけた。


 「ギャラン様……。竜の目の色がピンクの時って、何かあるんですか?」


 「酩酊状態というか一種の催眠状態だな」


 その言葉を聞いた時、とある会話を思い出した。


  ――……ゼダの華は、少量ならただの触媒にしかなりませんけど、少量とはいえ毒があります。その毒は人間には無毒ですけど、竜種には催眠効果があって、怪我をした竜が暴れないように使用していた……。という過去の経緯がありますね。――

 

それは、昨夜、ウォーレンさんが教えてくれたゼダの華の効能だった。


 「もしかして……ゼダの華……?」


 思わず呟いてしまった私をみて、マオ先生は納得し、私と殿下を交互に見た後、即座に判断を下した。


 「……なるほどな、とりあえず殿は任せます。ギャラハッド殿下」


 「ベルバニア嬢は、みんなと戻りなさい」


 「はい」


 そのあと、マオ先生の采配のお陰か誰もケガすることなく、ましてや、パニック状態になることも何事もなかった。

 

 何もことが起きなくてよかった、という安心感で教室に戻り、脱力してしまったが、今日はもう授業は無かったのがありがたかった。

 脳内で、竜に襲われる最悪の映像が何個も勝手に再生され、目は開いているのに魘されている気分で、思わず、ニーチェさんを待ってる間に教室で机に突っ伏していた。


 「ふぃー」


 「ベルバニア嬢、気づいてくれて本当に助かった。」


 いつからいたのか、マオ先生はそんな私を、とても心配そうに眺めてるのに気づいて、一瞬でなんとか取り繕った。


 「マオ先生、すいません脱力してました。」


 「……今日のこともあるからな無理もない、これ飲むか?」


 「わぁい、ありがとうございます」


 先生は、一応伯爵令嬢の、私の令嬢らしからぬ先ほどの脱力っぷりに、怒るわけでもなく、ホットチョコレートを手渡してくれた。


 「熱いからゆっくり飲みなさい」


 相変わらず、どこか母親のような物言いに戸惑いながらも、忠告通り、息を吹きかけて冷ましていると、マオ先生は口を開いた。


 「……竜のことだがな」


 先生はそう言った後、一度深呼吸をし、私を気づかわし気に見てから、ゆっくり口を開いた。


 「ベルバニア嬢が気にしていた、ゼダの華の成分を、かがされていたみたいだ。」


 「そうなんですか……。体調とかに異変をきたしたりとかは?」


 先生は首を横に振って、優しい口調で答えた。


 「幸い微量だったらしく、なんて言ったらいいのか……。ほろ酔い状態といえばわかるか?」


 マオ先生の言葉に、心の中で安堵し、ほっと息をついたまま返事をした。

 

 「あぁ、なるほど」


 「……でも、朦朧として、人を襲う可能性も考えられたから、本当に助かった。」


 マオ先生は、そう頭を下げるも、私はあわてて首を振った。


 「いえ、たまたま偶然でしたし。先生のおかげで怪我しなかったですし」


 そこまで話した後、いろいろ落ち着いたせいか、とある可能性が浮上した。


 「はっでも、ゼダの華かがせたの。私じゃ無いですからね」


 「わかってる。わかってる」


 マオ先生は、心底何をわかりきったことを、という表情をするも、私はまたも続いた。


 「管理の先生も疑ってませんかね?」


 「疑ってないから、大丈夫だから」


 マオ先生に諭され、なんとか納得していると、マオ先生の声より聴いた声が……っていう、ともっと担任の声を聴け、と言われそうなことを思いながら、聞きなじみのある声が聞こえた。

 

 「えーっと、これはどういう状況です?」


 戸惑いを隠すこともなく、ニーチェさんは口を開いた。


 「ニーチェさん、待たせてしまいましたか?」


 「大丈夫だよ」


 私に対して、いつもの優しい対応をした後、マオ先生がいつもより気軽な雰囲気で、ニーチェさんに声をかけた。


 「おぉ、元気か」


 「はい…………本当にフルルの担任だったんですね」


 「嘘ついてどうする」


 驚いたニーチェさんの反応に、少し呆れつつも、嫌そうなではない返事をした後、こんどは私の方を向いた。


 「さて……迎えも来たみたいだから行きなさい」


 「はぁい」


 本当に先輩後輩のなかなんだなぁ、意外に思いつつも、ニーチェさんのお迎えに、素直に従うことにしたのだった。


 「竜が、ゼダの華をかがされて酩酊状態って……。それに気づいたフルルも流石だが、先輩相変わらず冷静だなぁ」


 「おかげで誰もケガしなかったです」


 「よかったよかった……。けど、なんでちょっと元気ないんだ」


 ニーチェさんは、私の頭を撫でながら聞くが、私はやや憔悴しつつ答えた。


 「竜に襲われる最悪な映像が、こう、ずっと再生されてて」


 「消せ消せ、そんなもん」


 「頑張りますぅ」


 そういわれ、脳内でたくさんの計算をして何とか恐ろしい映像を消そうと頑張ってうんうん唸っていると、ニーチェさんは撫でるのをやめずに続けた。

 

 「よしよし、今日はそこまで仕事もないから、終わったら少し付き合ってもらってもいいか?」


 「わかりました、お供いたします。」


 「うん、何かでかい使命を背負ってるわけじゃないから、そこまで力まなくていいからな?」


 「はい」


 そうして、ようやく正門までいき馬車に乗ると、ニーチェさんは、私のおさげ髪を手でいじりながら呟いた。


 「……たまに見るけど、今日は髪の毛縛ってるんだな。毎回いうが、可愛いよなそれ」


 「ありがとうございます」


 ……そんなに言ってくれるなら、毎回この髪型にしようかなぁ、と一瞬考えてしまうのだった。


 「怪我がなくてよかったけれど……。何か嫌な感じね。」


 アイン様は、ぽつりとそう呟いた後、私の頭を撫でながら続ける。


 「でも、すぐ気づいて先生に報告出来て偉いわね」


 美しいアイン様に、撫でられて褒められて……。おかげで、ささくれていた心が、どうにか補習されてきた。


 「はぁ……生き返ります」


 「死んでもなかったけどなぁ」


 ニーチェさんの静かなつっこみが、小さく執務室に響いたのだった。


 仕事が終わり、ニーチェさんの促されるままについていくとそこは今学院でも話題に上がっていた、なんと、ご飯を食べながら、いろんなお魚が見れると、言われているレストランだった。

 ……まさか入ったりしますか?まさかね、だって、ここ予約がなかなか取れないって、マリアン様言ってたし……と思ったら、なんと中から店員さんが出てきて驚くべきことをいった。

 

 「お待ちしておりました、ハイルガーデン様、個室をご用意させていただいてます」

 「ん、いつもありがとうな」


 …………えぇ、こんなあっさり入れるものじゃないよねぇ?と思い硬直してる私をよそに、ニーチェさんはにこやかに答えた。


 「疑った詫びは別でするけど、とりあえず今日は大変な目にもあったし、綺麗なもの見て、美味しいものでも食べたほうがいいって」


 「とはいえ、こんなすごいところ、余裕ではいれちゃうんです?」


 もはや文脈ぐちゃぐちゃだが、ニーチェさんは気にせずに答えた。


 「まぁおにいさん稼いでるからな」


 それだけではないような気がして、少しだけ、ニーチェさんの財力が恐ろしく感じたが、そのことを、すっかり忘れるほど魚は綺麗だったし、ごはんはどれも手が込んでて美味しかったし、帰りにお土産も渡してもらって、ものすごく充実した気分で、帰路についてしまった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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