ぼんやり令嬢と勘違いと行き過ぎた謝罪
そうして、周りが慮ってくれたお陰で精神的には安定した。
一回、ゼダの華のことは、心の隅に置いておくことにし、いつものようにアイン様の元で仕事、もといお手伝いをしていると、流石王族というべきか、何かいつもと違うことに気づいたらしいアイン様に、優しく大丈夫?と聞かれ事のいきさつを話すと、アイン様は優雅な笑みを浮かべながら口を開いた。
「フルルちゃんは、周りに恵まれてるのねぇ」
「はい、皆優しいです。ありがたいの極みです。」
「うんうん、よかったわね」
アイン様は、小さい子の話をきく親のように頷いた後、少し考えながら続けた。
「……にしても、そのエフレムって子は、本当にフルルちゃんに感謝してるのね。まさか、そこまで手の込んだものをあげるなんて」
そういわれて、私は、エフレムさんからもらったバングルを眺めつつ、私も、心の中で大いに同意した。
ただ不安だと、しかも、ふわふわした理由なのに、心配してくれるだけでなく、ここまで手が込んだものをわざわざ作ってくれたのは、本当にうれしかった。
「あくまで私は、紹介しただけなんですけど、伯父様のもとで、いろんな方々と働けるのが、本当に嬉しいみたいで」
「そう、そういえば住居は一緒なの?」
「はい、伯父様の助手でもあるので……。もちろん、使用人用の住居ですけれど」
いつにもまして色々と聞いてくるアイン様に、どうしてそんなこと聞くのだろうと、すこし思ったが、まぁ新入りさんのことは誰だって気になるか、納得していると、アイン様はニーチェさんの方を向いた。
「ですって、婚約者候補さん?」
「何で俺に言うんですか?」
心底意外そうな表情でニーチェさんは答えるが、その表情に、何か思うところがあったのか、可愛らしく頬杖をつきながら答えた。
「あら、気にならないの?フルルちゃんに尽くす人が出てきて」
「気にならないといえば嘘になりますけど、別に根掘り葉掘り聞く権利、俺らにはないでしょう?」
「冷たい上につまらない男ねぇ、だからすぐ彼女と別れるのよ」
あ、やっぱ彼女いたんですねぇ。
まぁ当たり前かぁ。カッコよくて優しくてスマートで稼ぎもありますしね、なんも不思議ではないなぁ、とアイン様とニーチェさんの隣で、ぼんやりしてる私とは対照的にニーチェさんは、頭を抱えていた。
「なんでそんな昔の話を……」
頭をかかえるニーチェさんをよそに、私は、アイン様に聞こえるか聞こえないか分からない程度の声で、ぽつりとつぶやいた。
「ニーチェさんフラれる側なんですねぇ」
「そうなのよ、意外でしょう?」
「人の過去掘り起こして、それでお茶のむのやめてくれません?」
アイン様は、待ってましたと言わんばかりに私の独り言に答えるも、その後ろでニーチェさんは頭を抱えているものの、私はのんびりとした気持ちで、ミルクティーを飲んだ後、カップを凝視していた。
「うるさいわねぇ……フルルちゃん美味しい?」
「不思議な味がしますねぇ、これアギラ風のミルクティーです?」
「そうなの。フルルちゃんは、舌がこえてるわねぇ」
アイン様はまた小さい子供、ないしは犬猫を可愛がるかのように、私の頭を撫でる背後では、ニーチェさんがどこかくらい表情を浮かべた。
「すごいなぁ……じゃないんだよなぁ……」
と、呟いていた。
その空気を打破しようと、私は二人が気になっているであろう、エフレムさんの話を始めた。
「あっエフレムさんといえば、今度の休みに、宝石展と大図書館に一緒にいくんですよ」
「………………そうか」
うん?何故かニーチェさんの表情が暗いけれど、まだ過去の傷跡が癒えないのかな、と思いさらに私は話を続けた。
「あと、職人街にも行こうかと思ってまして……。職人街って男の人が多いですよね?」
「そうだな……」
「うーん、やっぱりそうですよね」
うぅん?まだ暗いな……もう少し話した方がいいのかな、どうしようと思っていたら、流石アイン様、私がこのやや薄暗い空気に耐えかねてるのをみて、助け舟を出してくれた。
「えっとぉ フルルちゃん エフレムさんといくんだよね?」
「そうですよ?うーん、やっぱ魔道具があるとはいえ、女性二人で職人街いくのって、危ないですかね?」
アイン様の問いに素直に答えると、何故か二人は、心底意外そうな表情でこちらを見ながら、声を上げた。
「「え?」」
「え?」
思わず返事をする形で私もそう返すと、アイン様は不思議そうな顔で、首を傾げつつ、口を開いた。
「女性……二人……?」
「えぇ、私とエフレムさん二人ですから。」
何を驚くことがあるのだろうと、私もアイン様と鏡合わせになるような形で首をかしげていると、不意に横をみると、ニーチェさんが深く落ち込んでいた。
「……ごめん」
「え?」
「本当にごめん」
謝罪の理由が全く分からず固まっていると、突如ニーチェさんがお財布を差し出した。
「それでエフレムさんと遊んできていいよ……」
「えぇ?本当にどうしたんです?」
慌てる私の隣で今度はアイン様もそれに続いた。
「フルルちゃん……一瞬でも疑ってごめんね」
「はい?全然、点と点が線にならないんですけど」
私は二人の謝罪の意味が全く分からず、その後、ゼダの華の不安が消しとんでしまっていた。
「あー、エフレムさんを男の人と勘違いしてたと……。まぁ、確かに男女どちらもありそうなお名前ですしねぇ」
「怒ってないのか?」
「何を怒る必要があるんです?別に罵詈雑言を言われたわけでもないですしねぇ」
私が天井をながめそう呟くと、ニーチェさんは、何とも言えない表情で私を見ていたが、本当に私は怒ってないし、辛くもないから気にしなくていいのに、と考えていると、ふととある考えが頭をよぎった。
「あぁでも、エフレムさんの恋愛対象が女性も含まれてたら、性別関係ないんじゃ……?」
「「確かに」」
思わず重なった二人の声と、表情に、私は小さく笑ってしまった。
「本当に悪かった フルル」
「いやいや、本当に怒ってないですし大丈夫です。お気になさらず」
むしろ、自分の非を即座に気づいて、こうして謝ってくれただけ、かなり心のわだかまり、ってほど何にもないのだけれど、元婚約者の場合開き直ってきたからなぁ……。しかも、ものすごく棚に上げてたからなぁ、と遠い目をしていると、ニーチェさんは何を勘違いしたのか、かなり焦っていたが、いつもスマートなニーチェさんのそんな姿が、何だか意外で思わず笑ってしまった。
「フルル?」
「いや、ニーチェさんが私なんかのためにあたふたしてるのをみてると同じ人間なんだなって思って」
「元から人間だし、フルルなんかってことはないよ。とにかく、疑った俺が全部悪い。本当にごめん」
……なんていうか、今までこんなに謝ってもらったことが少なすぎて、しかもそんな傷ついていないのに、と呆然としている間に、もうタウンハウスの前についてしまった。
「えっと……本当に大丈夫です。気にしないでください」
「ありがとう、フルルは優しいな」
そうして、その話を冗談半分でエフレムさんにすると
「わっ私ごときが、お嬢様の恋路を邪魔するような真似して、本当に申し訳ございませんでしたっ」
と、それはそれは、きれいすぎる土下座をかまし、逆に私が、最近はやりの、悪役令嬢にでもされた気分になった。
「いやいやいや、なんともないから、本当に大丈夫だから、本当にお願いだから頭上げてください」
「恩を仇で返すような真似を、……っく、カニャーク家の恥です。」
「いや、本当に、ただの勘違いだから気にしないでぇ」
と、もはや、何が何だかわからないやり取りを、伯父の前で繰り広げ、伯父さまは小さく
「僕は一体、何を見せられているのだろう……」
と困り笑顔で呟いたのだった。
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