ぼんやり令嬢と授業の見通しと一抹の不安
「ようやくだ……」
お昼休み、マオ先生がひとりでに、廊下でぽつりと呟いてるのを聞いた。
なんか、この前よんだ小説の悪い科学者みたいだなぁ…。死んだ奥さんよみがえらせるために、すごいことやる感じの…。と、眺めていると気まずかったのか、マオ先生はこほんと咳払いをして、いや自分何にも言ってませんよといった顔をした為、担任の顔をたてるべく、私も、えぇ何にもきいてませんよ、という澄ました顔でやり過ごそうと横を向いた瞬間に、それは崩れ去った。
「マオちゃーんっよかったね。よかったね~竜の申請ようやく通って僕は嬉しいよ~~」
ルル先生はマオ先生に、文字通りの意味で飛び付くも、マオ先生は嫌な顔も素振りも、一切みせず、むしろ大事そうにルル先生を抱えて答えた。
「あぁ、あぁ ありがとうなルル」
「ふふーん、あっフルルちゃんだぁ、やっほ」
「ご機嫌よう、先生」
友達のように、気さくに話しかけてくれるルル先生に頭を下げて、なるほど、マオ先生が言ってたようやくって、竜を借りることだったのかと納得した。
シャロから一応、聞いてはいたが安全確認とか、そもそも、今自由に出来る竜がいなかったりだとか、でなかなか難航しているとは聞いていたので、良かったなぁと心から思った。
一応、首都にきてから竜はちらほらとはみるが、きちんと授業で解説されたことはないから、楽しみだなぁと、窓の外の飛んでる竜をみながら、ぼんやり考えていた。
「ねぇ、フルルちゃんは近くで竜みたことある?」
ルル先生はいつの間にかマオ先生に降ろされたらしく、可愛らしくそう問いかけた。
「えっと、竜車の竜はみたことありますけど、飛竜は愛玩用の、小さいのしかみたことないです。」
「あれ?パレードとかお祭りとかは?」
問いかけるルル先生の隣で、マオ先生も意外そうな表情で首をかしげていた。
「ほとんど領地にいたので、行ったことがないんですよね」
「へー、じゃあきっと驚くよぉ」
「こらこら、あまり期待値をあげるな」
マオ先生は優しく、ルル先生を窘めたあと、私に優しく告げた。
「まぁ、そういうことだ……。また、詳細や、授業の変更があったら伝える。」
「はい、わかりました。」
その事を、シャロとレベッカ様に伝えると、ふたりとも少し驚いていた。
「本当に借りてくるんだ…」
「他の先生そこまでしませんよ…?」
二人の発言に、逆に私は目を丸くした。
「え?そうなんですか?」
「だって、管理とか安全面とか大変だもの、せいぜい、竜騎士のところに、すこし見学して終わりって言うのが例年通りなのよ。」
「へぇ……」
シャロの言葉にただ、ただそうなんだ、と納得することしか出来ない私に、レベッカ様が優しく微笑んでくれた。
「でも フルストゥル様、よかったですね。」
「はい、楽しみです。」
「でも意外ですね。ベルバニア領広いから、竜飼ってるかと思いました。」
「よく言われます」
本当はここで、隙あらば自分語り。もとい、自領の歴史語りをしてしまいそうになるが、なんとかそこを抑えて、微笑むに留めた。
ほら、だって、休み時間まで嫌いな方面の話なんて聞きたくないだろうし、と思い会話を反らした。
「でも、ガリアーノ伯爵家も土地広いですよね?」
「あぁでもうちは殆ど、錬金術のための素材を取るための土地……って感じですね、母方のほうが、馬とか竜とか居ますけど」
「すごいです、たしかお母様は騎士の家門ですものね。」
「ありがとうございます。」
そうはにかむレベッカ様は、とても可愛らしくとても癒された。
それにしても竜かぁ、楽しみだなと言う思いが表情から漏れていたのか、迎えに来てくれたニーチェさんに
「おっフルル、何かいいことあったか?」
とすぐさま見抜かれてしまった。あれ?ニーチェさんってそういう超能力有ったっけ?と疑問に思ってしまう。
「えっと……今度、マオ先生の授業で、竜を見せてもらうんです。」
「おー、良かったなぁ」
「正直楽しみです。」
「そっか、そっか 大丈夫だと思うけど、怪我には気を付けような?」
「はぁい」
いいながら、またいつものごとく、頭を撫でられる私と言う図を、もうもはや見慣れたといわんばかりに、御者は穏やかな笑みを浮かべていた。
「相変わらず仲がいいですねぇ」
と感心していた。
「そうですか?」
私がそう小さく呟くも、御者は大袈裟に首を横に振った。
「いやいや 王宮内では噂ですよ?王女付きの二人は、まるで本当兄妹のように仲が良いと」
それを聞いて、私は他人事のように聞き流していたが、ニーチェさんは、軽く頭を抱えながら私のほうを見た。
「兄妹ねぇ、一応仮とはいえ婚約者なんだけどな?」
「まぁ、仲が悪いよりかはいいじゃないですか。」
「そういうものかねぇ?」
まぁ、いいけどなとニーチェさんは付け加え、二人でアイン様の元へと向かうと、アイン様は、ぱちんと両手をあわせて可愛らしく告げた。
「さてさて、狩猟祭まであと1ヶ月になったわね」
「そうですね……ってそういえばですけど、私たちって、参加しなくてもいいんですよね?」
「そうよ、私の補佐だからね。まぁといっても、フルルちゃんは通訳とか案内とか、いろいろ任せようと思ってるけど……。もしかして参加したかった?」
心配そうなアイン様とは反対に、私は潔く、それこそ、首が取れそうなほどの勢いで、首を横に振って答えた。
「いえいえ、全然、これっぽっちも」
「そこまで堂々ということあるか?」
ニーチェさんは、私の乱れた髪の毛を直しながら、意外そうな声をあげるも、私は遠い目をしながら、それに答えた。
「狩人側なんて絶対無理ですし、ましてや、動物の死体贈られてお姫様扱いされても、困りますよぉ。あれどう喜ぶんですか?怖くないですか?」
「……あー、確かにな」
そのやり取りをみてたアイン様は、私の頭を物凄い勢いで撫でながら答える。
「そうよねぇ、怖いわよねぇ。うんうん、フルルちゃんは、ずーっと私のそばにいればいいからね?」
「ちょっと、仮とはいえ、婚約者口説かないでくれます?」
「えー、ニィリエのケチ」
ニーチェさんに舌をだしつつも、私をしっかりと抱き締めるアイン様の美貌とカリスマに、私はうっかり骨抜きになって呟いた。
「アイン様…………好きぃ」
「フルルーもどってこーい」
……と、王宮内で、ここでしか許されない茶番をしたあとに、アイン様はにこにこと続けた。
「さてさて、気を引き締めましょうか。とりあえず、リストのチェックからやるわよ?」
「かしこまりました。」
「俺は計算漏れないか見ますね。」
三人で書類とにらみ合いながら、淡々と、時には相談もしながら仕事を進めていくうちに、集中しすぎたのだろうか、いつの間にか日が暮れ始めていた。
「思ったより結構すすんだねぇ」
「そうですね。」
「キリがいいから、今日はここまでにしようか」
「はい」
アイン様のその言葉で、各々その場を片付けている時にふと、窓の外をみていると見覚えのある金の髪が目にはいった。
それは、お母様やお姉様、伯父様ではもちろんない。
オルハでも、ラスターさんでも ましてやネスィリル様でもない……。
元婚約者である、レヴィエ・ブランデンブルグに見えた。
さすがに、気のせいだろうと目頭を押さえてもう一度みてみると、あの、ルビーのように赤い瞳と目があった気がして、何か、得体の知れない恐怖が背筋を駆け巡った。
「ル…フルル」
「ぁ……ニーチェさん」
何回か呼ばれていたのだろう、ニーチェさんは、ものすごく心配そうな表情で覗き込んでいた。
「フルルちゃん大丈夫?」
「ごめんなさい ちょっとぼーっとしてたみたいで……」
「それは別にいいんだけれど」
アイン様も心配そうにそういうと、頭を撫でながら続けた。
「無理はしないようにね?」
「はい」
そうして、いつものようにニーチェさんに送ってもらったときには、もうそんな人影はなかった。もしかしたら、自分の考えすぎかもしれないと思おうとしたが、拭えない不安が、頭を埋め尽くしていた。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




