傲慢な侯爵子息の歪んだ感情は加速するようです。(レヴィエ視点)
かつてはと言っても、数か月前まで、見事な噴水が目を引く贅を凝らした庭は、最低限の手入れしかされておらず、壁に飾られていた高価な絵画はその数を多く減らし、いろんなところに飾られていたはずの華は手入れがされていない。
華やかで、豪奢で、煌びやかで、と形容されていたブランデンブルグ侯爵家は、ただ広いだけの空虚な箱庭とかしていた。
当主である、ダイアンは頭を悩まし、侯爵夫人であるフィリアは行き場のない感情をレヴィエや、狂った金銭感覚のまま買い物を続けることでしか発散できず、諸悪の根源であるレヴィエは空虚な顔で、自身が虐げ続けていた婚約者、フルストゥル・ベルバニアの残骸をかき集めていた。
薄暗い、荒れ果てた広い部屋で、レヴィエは色とりどりの便せんで綴られた手紙を、この世で一番大切な宝物のように抱きかかえていた。
その表情は、かつてのような余裕そうな一種の高慢ささえなりを潜め、むしろ迷子の子供のようにすら見えた。
レヴィエ様、首都の生活はどうお過ごしでしょうか?
首都は、ベルバニアと違って寒いとお聞きしましたので、侍女たちに習って拙いですがマフラーを編んでみました。
つかっていただけると幸いです。体調にはお気を付けください。
レヴィエ様、ベルバニア領で珍しい色のインクが開発されました。とてもきれいな色なのでよければお使いください。中等部のカリキュラムは、とても大変だと聞きました。
お手紙の返事は無理しなくて大丈夫です。くれぐれも無理はしないで下さい。
レヴィエ様、レヴィエ様の瞳を溶かしたような、きれいな色のガラスペンを見つけたので、思わず買ってしまいました。扱いが難しい品なので、無理して使わなくて大丈夫です。
今日、下宿先の伯父様への挨拶のために首都に行ってきました。首都は、人も建物も多くて、おどろくことが多かったです。レヴィエ様は、普段から、こんなすごいところで暮らしているのですね、すごいです。
レヴィエ様、レヴィエ様、レヴィエ様……――。
丁寧な文字と、自分を慮ってくれる言葉の数々が綴られた手紙を見ることで、かつて、自分は婚約者に愛されてた事実が確かに存在していた。
その事実だけが自分を慰めてくれた。
かつては、この手紙を、女生徒の前でやれ字が汚いなどと馬鹿にしてしまったが、今思えば、権力や見てくれに惑わされた女たちより、よっぽど心配してくれていたのに、そんな後悔ばかりが今になって過ってしまう。
「フルストゥル……」
彼女が首都に来てから、一度も呼んでない名前を何度も呟いた。
けれど呼んだところで、彼女が現れるわけでもなく、思い返される彼女の表情は、呆れと、失望が入り混じった、こちらに何も期待していないのが手に取るようにわかるその顔と、社交用のまるで仮面のような完璧な淑女の笑み。
そして、他の令嬢と一緒にいても向けられる視線は、嫉妬や焦りなどは一切なく、あぁ好きにしたらどうぞ、と言わんばかりの他人事のような冷たい表情。
そして、視線を合わせることも無く、すぐに隣にいるロゼットロア公爵令嬢に笑いかける。首都に来てから、一度も微笑みかけてくれたことは無かったのに、その様があまりにも腹だたしかった。
いや、その前から母から受けていた暴言や、社交界での令嬢たちの醜さを見せつけられたことや、学院で、まざまざと見せつけられた自身の力不足、そのすべてが頭を支配していた。
そのころからか、より多くの令嬢と遊びまわるようになったのは、そして、そのころからか使用人らからも非難の声が聞こえた。
「坊ちゃん、もう少し令嬢に優しくはできないのですか?」
父の専属であるジョエルは、いたく彼女を心配し、めったなことでは口出しをしないのに、その時は苦々しい表情で苦言を呈した。
「レヴィエ様、他の令嬢と一切交流をするなとは言いませんが、正式な婚約者であるフルストゥル様を、もっと尊重できませんか?」
執事の一人であり、運転手でもあるラスターは、いつもいつも他の令嬢と遊びまわる自分に、不快感を隠すことなくそう意見をした。
「……あくまで交際費というのは、婚約者様に使うためのものです。ゆめゆめ忘れなきよう」
メイドであるソーニャは、淡々とそう告げるだけだったが、その瞳はとても冷たかった。
その頃、より一層婚約者である彼女を遠ざけ冷たくあしらっていった。
けれど彼女が動じることは一切なかった。
思えば彼女が驚愕した表情を見せたのは、彼女が学院に入学して一か月経つか経たないかと言ったところで、彼女が突如自分のクラスに不安げな表情であの公爵令嬢と一緒にいたが、あの藁にもすがるような表情が、はじめて見せるような感情が心なしか嬉しくて目が合ったが少し無視して談笑していると突如として彼女は扉の前から姿を消し、彼女はその後体調を崩し半月ほど学院を休んだがもしかしたら自分のせいかもしれないという思いから見舞いに行くことは憚られた。
そうして周囲の、というより家族や、使用人からの、落胆した表情や視線に耐え切れず、また令嬢らを囲い続けることは、やめられなかった。
むしろ、彼女たちを囲ってちやほやされることで、自分の中の何かを満たしていたのかもしれない。全く皮肉なことに、自分が散々嫌悪していた存在に、ここまで依存するようになってしまった。
けれど、そんな中でも、彼女はずっと手紙を送りづけてくれた。
それでも、夜会に一緒に出席してくれていた。
義務をほとんど果たしていない自分を、婚約者様と呼んでいてくれていた。
――婚約者様、およびブランデンブルグに、恥ずかしくないよう精進します。――
そう、それはただの義務の上に成り立っているだけで、自分のことを好いていないのは目に見えて明らかで、どう考えても悪いのはこちらなのに、どうしても彼女を罵倒してでもこちらを見てほしくて、彼女が他の男と少しでも話してるのが気に食わなくて、人見知りで社交的じゃないのを知っているのに、自分がそんなことをしているからか、彼女にあらぬ疑いをかけた。
模擬戦でけがをした自分を、今にも逃げ出しそうな顔をしながらも、心配してくれた彼女を壁にぶつけてしまったこともあった。
そういうことをするたびに、彼女の心はどんどん離れていくというのに、そのたびに嫌悪を向けられていても、彼女は絶対に離れないだろうとずっと思っていた。ここまで徹底的に距離をとられても、まだ心のどこかで取り戻したいと願っている。
婚約者様……――。
今から、今からでも取り戻したい。ずっと10年も心に寄り添ってくれていた彼女を、ずっとずっと、責めることも無く義務を果たしてくれていた彼女を……――。
その思いから、会うたびに声をかけても、その表情から感じ取れたのは怯えと拒絶。
自分とは踊ろうともしないのに、他の令息のダンスの相手を軽く引き受けたことも、すべてが許せない。
自分と縁を切ってからの方が元気だなんて許せない。
周囲の者が彼女と、あの、忌々しい眼帯の男との仲を応援したり、お似合いだと褒める声も、耳障りで許せなかった。
何よりも、あの男に向ける全幅の信頼の表情が、自分には向けられない、その柔らかい雰囲気も許せなかった。
今、もし彼女が助けを求めてくれるなら、手を取って誰よりも早く助けるのに、そうしたらあの男のいる場所を奪えるのに――。
そこまで考え、気づいた
何だ、簡単じゃないか。
また、彼女が、自分に頼らざる得ない状況を作ってしまえばいいんだ。
――ありがとうございます。レヴィエ様――
――やっぱり私にはレヴィエ様しかいません――
そう、空想の彼女が柔らかく微笑むのを想像したら、口角が上がるのを止められなかった。
これはヤンデレになるんでしょうか、ただの病んでるなんでしょうか疑惑の判定です。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




