ぼんやり令嬢と露店おデート
「わ、本がたくさんある」
「古本市場だからなぁ」
私の当たり前すぎる言葉を、サラリと受け流した後、ニーチェさんは続けた。
「にしても、見たことない本がいっぱいだな、珍しい国のもたくさんある」
「みたいですね」
そう答えつつ、私は何冊か興味のある本を眺めていると、ニーチェさんは不思議そうに私の目を覗き込んだ。
「それって古代語……って、そうかそういえば、フルルは、目と耳に妖精の祝福があるんだっけ?」
「えぇ、一応っ……」
あまりにも顔が近く、思わず照れて顔をそむけてしまうも、ニーチェさんは、いやな顔せず続けた。
「あー悪い悪い。フルルの目が綺麗なのは、そのせいかなって」
「うー、多分親の遺伝ですよ」
頬が赤くなってないか確認し呟くと、ニーチェさんは、うんうんと私の反応をよそに、何かに納得したように続けた。
「確かに、チェーザレ様と、ティルディア様の特徴、半分ずつって感じだな。」
「でもやっぱ、目に何か紋章とかあるんですかね?」
「うーん見た感じ、分からないけどなぁ……ってえ?紋章とか欲しいの?」
「欲しいですよ、かっこいいじゃないですか」
ニーチェさんの問いかけに、私は力いっぱい返すと、ニーチェさんは、小さい子供を相手にするような表情になった。
「あぁ、意外とそういうの好きなんだな」
と呟いた後、ポンポンと頭を撫でた。
……もしかしなくても、これは子供扱いなのでは、と一瞬よぎったものの、実際ニーチェさんより子供なので、まぁそれもそうかと納得して、そこには目を閉じた。
そうして、なかなか書店などには出回らない、様々な本を買ったり、眺めていると、店主さんは珍しそうな顔で、こちらを眺めていた。
「いやぁ、ここまで楽しそうに見てくれるとは、しかも若いお嬢さんが……嬉しいねぇ」
「ありがとうございます。」
その後、店主さんと少し話をして、テントからでると、劇場前がにぎわい始めていた。
「お、そろそろかな?」
「あ、ほんとうだ。」
「じゃあ行くか」
自然と差し出されたその手を、さも当たり前のように握り返し、私たちは劇場前へ向かった。
「やっぱ、人気なんだなぁ、当日券は売り切れだってさ」
「相変わらずこの劇団は人気ですねぇ」
にしても、こんな大人気の舞台のチケットを、簡単にくれるウィンターバルドさんの人脈、本当におそるべし、とひしひしと感じるのだった。
席に案内されると、そこはボックス席のようになっていて、なんだか個室のようになっていた。
「そういえば、フルルは、舞台とか昔から好きなのか?」
ニーチェさんの問いに私は詰まることなく答えた。
「えぇ、昔、父と観てからずっと好きです。本だけじゃ分からない臨場感とか、味わえますし」
むしろ私の読書や、観劇が好きな所は、ほとんど父に影響されているといっても、過言ではないだろう。あともしくは伯父かなぁ、とぼんやりしていると、またまたニーチェさんは問いかけた。
「へぇ、確かにな。今回の舞台はどんな話なんだ?」
「今回のは、竜とお姫様の恋物語です。いやぁ、いいですよね異種族恋愛って」
「ん?なんて?」
戸惑うニーチェさんをよそに、注意事項のアナウンスが流れ始め、舞台の幕は上がった。
私は内容を知っていたので、ニーチェさんの反応もチラチラと見ていると、その表情からは引き込まれていることを察するのは容易だった。
あぁ、よかった、退屈だわこんなの、とか思ってはなさそうと安心し私は観劇に集中した。
「いや、面白かったなぁ」
「よかったです。」
二人で思わず、パンフレットを買ってしまうほどすごくて、一言感想をいったあと、しばらくして、ニーチェさんは感慨深そうに呟いた。
「やっぱ、あそこまでの純愛もの見せられると、感動するよな。」
「そうですね、創作の中じゃないとみれないですし」
「え?」
ニーチェさんの意外そうな声に、私も思わずそっくりそのまま、意外そうな声で返してしまった。
「え?この世に純愛なんてあるんですか?」
「年頃の女の子が、曇りなき瞳で悲しいこというのやめない?」
「あんま夢ばかり見ても、痛い目見るんですよ」
「人生何回目なの、フルル……」
ニーチェさんは戸惑いつつ、どこかかわいそうな子供を慰めるようにいったあと、諭すかのように呟いた。
「現に、フルルの両親恋愛結婚だろ?あとお姉さんも」
「あー……そういえばそうでした。運いいなぁ」
そういえば、うちの両親、そこらへんの恋愛小説と同じくらい、奇跡的な恋愛してたなぁ。お姉様も、それはそれは綺麗な恋愛結婚だし、なるほど、灯台もと暗しとはまさにこのことか、と変に納得していると、ニーチェさんはまるで難題を解いてるかのように、疑問符をたくさんつけながら、かろうじて言葉を吐いた。
「運、なのか?でも否定できないんだよなぁ」
ニーチェさんは、ため息交じりに呟き体を伸ばした後、まぁまぁと頭を撫でつつ優しく諭した。
「まぁ、あんな奴と義務とはいえ、10年付き合ってたら、悲観的にもなるよな」
「あぁ、いましたねぇそんなの」
最近、オルハにハイキック経由からの、侯爵家に直送、着払いされてたけどねぇ、とのんきに思い返していた。
まぁ確かに、首都に来てから散々思い知らされたしなぁ。努力は報われないこともあるし、裏切られることもある。
自分が尽くしたところで、相手のなかで、何かが変わることの方が少ないとか、色々と……。おかげさまで、ほどほどに力を抜いても死にはしないことと、相手に期待しないほうがいい、ということが、学べたので、今はなんとかなってるけれどもって、もしかして私、そのせいで、なんか悲しい思考回路してない?
こう、乙女心的なもの削がれてない?大丈夫そう?いや、大丈夫じゃないよなぁ、と少しだけ悲しい気持ちになったのだが、ニーチェさんはそれを察してフォローするように答えた。
「まぁ、夢見がちで、なんも見えないよりかはいいけどな?」
「でも、それが許される人種、たまーにいますよねぇ」
ニーチェさんは、その言葉に肩を大きく肩を落としつつ、同意していた。
「不思議なことになぁ」
「「はぁ」」
何故だか二人で、架空の人物のせいでブルーな気持ちになってしまったものの、ふと視線を上げた先に見えた景色をみたら、そんな気持ちはすぐに吹き飛び、それを共有すべくついニーチェさんを呼び止めた。
「わ、ニーチェさん見てください」
「ん?」
劇場横に流れる河に、露店の明かりが反射して、きらきらと光ってとてもきれいだった。思わずニーチェさんの袖をつかんでそれを伝えると、ニーチェさんもそれに気づいたのか、感動した表情で呟いた。
「綺麗だなぁ……。川沿い歩いて戻るかぁ」
「はい」
そうして私とニーチェさんは、二人でキラキラ光る川辺を歩きながら、舞台の感想を言ったり、雑談しながら歩いて帰ったのだが、その話を聞いたシャロに
「いやもう、とっとと正式に婚約してくれない?頼むから」
と言われ、マオ先生には
「健全な付き合いで安心したよ」
といわれ、レベッカ様には目を輝かせた。
「ちょっとその髪飾り、見せてもらってもいいですか?」
と興味津々に言った後、何故か後ろでその話を聞いていたバーナード様は、何故だかものすごくショックを受けた表情をしていたが、とりあえず楽しい休日が過ごせてよかったなぁ、とほわほわした気持ちになったのだった。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




