ぼんやり令嬢は唐突おデート接待をされるようです。
「でも結構開場まで時間があるな?」
「ちょっとお仕事しときます?」
「お前ら、若いんだから、もっとはしゃがないか?」
あまりにも、色気のない私とニーチェさんの会話に、ウィンターバルドさんは、深く深くため息を吐き、私に問いかける。
「てか、最近の若い子は、どういったデートをするんだ?」
「分からないんですよねぇ……。したことないですし……。」
婚約者時代はほとんど淑女教育と、会うといっても、私が、あちらの家に出向いてお茶会するだけで、正直、フィリア様とお買い物とかの方が多かった。お世辞にも、恋愛小説で読むような、甘酸っぱいおデートしたことないんだよなぁ。あちらさんはどうやら、いろんな方と会ったみたいですけど、流石に、夜会は義務であってデートじゃないしなぁ、とぼんやり考えている私に、二人はしまった、という表情でシンクロしていた。
「「あ……」」
「ごめん、俺が悪かったごめんな、おじさんがデート代全部持つから……」
まず、ウィンターバルドさんが、やや落ち込み気味で、財布を差し出してきた。
思わず、恐れ多くて首を横に振って補足をした。
「あ、いやいや別に大丈夫です。シャロにいろんなところ連れってってもらいましたし、沢山遊んでもらいましたから」
「あぁ……そうだよなぁ、うん。」
ニーチェさんもまた、落ち込んだまま頷いていたので、私は気にしないでくださいという気持ちで、意気揚々と答えた。
「正直、男の人怖くて苦手だったんで、大丈夫です。気にしないでください。」
「もういい、もういいから……な?」
「う?」
と、何故かニーチェさんに止められたため、閉口するしかなく、どうしようこの空気、と天井を見上げていると、それを見ていた受付のお姉さんが、ものすごく心配そうな顔でこちらを見てきてもう申し訳なかった。事情を三人でとぎれとぎれに説明すると、流石、首都に住んでる都会っ子なおかげで、すぐに案を出してくれた。
「えぇと、劇場近くでいろんな露店が出てるみたいなんですけど……どうですかね?」
「露店?あまりいったことないです。」
「……よし、行こう。あと欲しいものがあったらいいな?全部おにいさんが買うからな?」
「え?え?」
どこか戦地にでも行くんですか?と聞きたくなるほど険しい顔だったが、そこに触れることはできなかった。
「すごいですねぇ、テントがいっぱいあります」
「そうだなぁ」
劇場前の広場には、それはそれは、色とりどりのテントが並んでいて、様々なものが売られていた。
あとでわかったことだけれども、色んな商団が狩猟祭前に、いろいろ売り込むためにたびたびこういった催し物がされているらしく、異国情緒にあふれたものがたくさんあった。
それらを見て、物珍しさに、目をキラキラさせている私をみて、ニーチェさんは、少し、申し訳なさそうな顔をしていたので、思わず余計な言葉が口から出てきてしまった。
「あの……本当に私は、大丈夫ですからね?全然傷ついてないですからね?」
「うーん、そうじゃないんだよなぁ」
ニーチェさんはそれだけ言った後、いつもみたいに頭を撫で、普段の表情に戻っていた。
「さーて、いろいろ見てみるかぁ」
「はい、片っ端から見てやります。」
拳をぐっと握りしめて宣言する私をみて、ニーチェさんは、小さい子供を相手にするように優、しい声色で呟いた。
「そこまで、根詰めることじゃないんだよなぁ。」
その間も、ニーチェさんの手は、ずっと私の頭を撫で続けていた。
「まぁいろいろ見るかぁ」
「はい」
露店は、どこも活気があって賑わっている。むしろ、その圧におされてしまいそうなほど、皆、元気だった。
その中でふと目に留まった店は、ガラスを、宝石のように加工したアクセサリーを売っている店で、特に目を引いたのは、銀色の細工が美しい華を模した髪飾りで、チラチラと、サファイアのような輝きが目に入った。
その精巧な作りが珍しく、じっくり見ていると、商人さんはここぞとばかりに口を開いた。
「この飾りは、全部ガラスで出来ていてね。本体は、純銀じゃあないが、その代わりに銀よりも丈夫なんだ」
「そうなんですかぁ。でも、パッと見ただけじゃ違いが分からないです。」
「そりゃよかった。うちの職人も喜ぶよ」
商人さんは気をよくしたのか、心から笑った。そして今度はニーチェさんが口を開いた。
「へぇ、でもどれもすごいな、フルルに似合うのはやっぱ青かな?」
「青色系統だと此方ですかね?」
ニーチェさんの呟きを聞いて、商人さんは商品を手早く並べ、ニーチェさんはそれらを眺めて、私が最初に気になっていた髪飾りを手に取った。
「うん、どれもいいな、でもやっぱこれが一番似合うな」
いいながら、私の髪にあてがうと、そのまま商人さんにお代を渡した。
「じゃあ、これ買ってくな」
「お買い上げありがとうございました。」
そうして、そのテントから離れたベンチで、ニーチェさんは私の髪を優しく整えながら、先ほどの髪飾りをつけてくれた。
「うん、やっぱり似合うな~」
「ありがとうございます……」
こうやって、リノンや伯父様以外に、髪を触られることはほぼ初めてで、緊張のあまりに固まっていると、ニーチェさんは少しバツのわるそうな顔をした。
「あ……でも、嫌じゃなかったか?」
「はい?」
「ほら、アーレンスマイヤ伯爵家って、宝石鉱山をもってる資産家だし、現伯爵から、沢山宝石をもらってるだろう?見た目が宝石と変わらないとはいえ、思う所とかないか?」
「?ないですよ……。伯父様の作品が嫌なわけじゃないですけど、これも充分素敵です。むしろ丈夫だと聞いたので、普段からガンガン使いまわしてやってやりますよ。」
そう、これは本心です。
もちろん貴族令嬢として、ある程度宝石などは持っていますが、流石に学院や、こういった街での出歩きに、軽く馬が買えてしまうほどの値段のものを、ポンポン気軽につけれるほどの心は、未だにないせいか、今もらったものが丈夫ときいてかなり心が楽になったのだった。
「ははっ、それはよかったよかった。」
私の言葉をきいてニーチェさんは、安心したように、またまた自分でなおした頭を、またなで続けたのだった。
「あ、苺飴があるな?フルル食べるか?」
「本当ですか?………えぇ」
いつの間にか、私の味の好みも知ってたらしく、ニーチェさんの提案に、私は目を輝かせたが、苺飴の長さに絶句していると、ニーチェさんは、そんな私の手のひらくるくるな様子をみて、思わず笑ってしまいながら提案をした。
「確かに長いよな。じゃあ半分ずつ食べるか」
「あれ?ニーチェさんは、甘いの好きですっけ?」
「普段あたま使ってるからなぁ、こういう時糖分取らないと」
店員さんは、その様子をみてにこにこと笑いながら、苺飴を渡してくれた。歩きながら食べるという、なかなかやったことのない芸当に、戸惑っている私を気遣って座って食べつつ、ふと周りを見ると、たくさんの楽しそうな人々が目に入ってきた。
「やっぱ、活気があるなぁ」
「そうですねぇ。」
「これ食べ終わったら、さっきあそこで、古本市場があったから行ってみるか。」
「いいんですか?……あ、でもニーチェさん、行きたいところとかは?」
私ばかり優先してもらって悪いなぁ、と思いながらニーチェさんを見上げると、ニーチェさんは苦笑交じりに答えた。
「んー、俺はこういう雰囲気だけでも十分楽しめちゃうから、いざ、何がしたいとかはないんだよ」
「あぁ、なんとなくわかります。雰囲気だけで、楽しいですもんね」
「俺の今日の目標は、フルルに楽しんでもらうことだから、フルルはなんも気にしない、わかった?」
「わかりました、今日は全部任せちゃいますね?」
嬉しい提案に、つい笑みが自然とこぼれてしまったのだった。
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