ぼんやり令嬢とひさしぶりの法律事務所
侯爵家というより、ダイアン様と話をつけたその週末、ジョエルさんのお孫さんは来てくれた。
「エフレム・カニャークです。よろしくお願いいたします。気軽にエフレムとお呼びください。」
「こちらこそ、私はヴォルフラム・アーレンスマイヤ、そしてこの子は、フルストゥル・ベルバニア、私の姪っ子だよ。」
「フルストゥル・ベルバニアです。地方から来て、いろいろ不馴れなことがあったら、遠慮なく言ってくださいね?」
「貴女が……フルストゥルお嬢様……」
「ジョエルさんから何か聞いて……」
そういうとエフエムさんは小さく頷いた。
頼む、ジョエルさん、ネガティブキャンペーンだけはしないでいてくれ……。いいところがあるかといわれれば、それは疑惑の判定だけど、と軽く冷や汗がたれるのをかくし、エフレムさんは淡々と答えた。
「はい、祖父は貴女のことをいたく心配してましたから」
「あぁ、そうですよねぇ」
私が、侯爵家でどんな目に遭い続けてたかよくみていたしなぁ、と遠い目をしていると、エフレムさんはさらに続けた。
「ですが、こうも言ってました。令嬢はいつも冷静で、よく人のことを見てるし、人が言ったことを覚えていると、だからこそ適切に人に優しくできる御方なのだと」
「ジョエルさんが、そんなことを……」
そんな風に思っててくれてたことが嬉しく、一瞬泣きそうになるがぐっとこらえて、私はエフレムさんに、手を差し出した。
「これから、伯父様のもとで頑張ってくださいね、応援してます。」
「はい、全身全霊をかけて精進します。」
エフレムさんは、私の手に騎士が誓いを立てるように、頭を下げて、まっすぐにこちらを見据えたが、あまりの真摯な瞳に、命をなげうってしまうのではないかと思い、つい本音が出てしまった。
「…うん、無理はしないでね?」
「はい」
「って、わけなんですよ」
そうして今はその翌日、前に約束したとおりに、ニーチェさんと、ペルシュワール法律相談事務所に向かっている途中に、事のいきさつを説明し終わると、ニーチェさんはうんうんと頷いていた。
「へー、何にせよ良かったじゃん。ヴォルフラム様は人手不足解消できて、エフレムさんは美術関係の仕事につけて、侯爵家はお金を払わずに済む、どこも痛手はないけどさ。フルルは何も得がなくないか?」
「うーん言われてみれば?まぁでも、慰謝料は沢山もらってますからねぇ」
「当たり前の権利なんだよなぁ。」
本当に言われるまで、何とも思っていなかったけれど、今となっては、まぁ侯爵家に貸を作ったと思えば悪い話でもないのかなぁ、と自分の中で納得できたのでもういいかぁくらいの気持ちである
そんな話をしているうちに、ペルシュワール法律相談事務所の前までついていたらしく、突如として、ドアが開いたと思えば、ウィンターバルドさんがいたずらな笑みを浮かべて、私に話しかけた。
「いらっしゃい、ベルバニアの妖精さん」
「えっとぉ ごきげんよう?」
突然の、耳慣れない呼び名に驚き、疑問符をたくさんつけたままの状態だが、なんとか頭を下げるも、ニーチェさんが、子供のようにウィンターバルドさんに話しかけた。
「やめてくれよ叔父さん、フルルの顔見てみろ、疑問と戸惑いとが混ざって、無表情一歩手前になってるんだから」
「ごめんごめん、からかいたくなってな、上がってくれ」
久しぶりに、ペルシュワール法律相談事務所に足を踏み入れ、ソファへ座るように促されると、前置きもなく話は始まった。
「とりあえず今回のことだけど、法的に、接近禁止令を出す条件がそろってるから問題なく出せるなぁ……。なぁ、お嬢ちゃんまだ10代だよな?」
「ええ、そうですけど?」
何を当たり前なことを言ってるのか分からず、首を少しかしげると、ウィンターバルドさんはがっくりと肩を落とした。
「……苦労してるなぁ、とりあえず、書類関係は俺がやっておくから、ほかに何かあればまたニーチェ使って伝えるな」
「え?俺?」
ニーチェさんは意外そうな顔で言うも、ウィンターバルドさんは悪びれもなく返答した。
「いいだろ別にほぼ毎日一緒にいるんだから」
「別にいいけどさぁ」
「ごめんなさい、仕事増やして」
「いやいや、大丈夫だから」
ニーチェさんは謝る私を撫でる、その様を見てウィンターバルドさんは、うんうんと、何やら感心した様子だった。
「まぁ、そういうことだから」
「はい、お時間作ってくれてありがとうございます」
只でさえ忙しいのに、申し訳ないと頭を下げたあと、に持参した手土産を渡した。
「これ……よかったら、いつもお世話になってるので、受け取ってください。」
「そんな気を遣わなくていいのに……開けてもいいか?」
「はい」
「へーワインかぁ、ベルバニアのワインなんて初めて見た。」
ウィンターバルドさんは、不思議そうに、ベルバニアの紋が入っているワインラベルを、めずらしいものを見るかのように眺めていた。その意見は正しく、ベルバニアから首都まで流通するにしても、関税とか業者の関係で、首都まであまり卸せていないから無理もないが、逆に、目新しく映ってくれてよかった。
「しかも赤白セットとは、楽しめそうだ」
気が利くなぁ、とまたまたニーチェさん同様、息をするように褒められ、本当に、育ての親なんだなぁと思った。
「喜んでいただけてよかったです。あと、これもおつまみにどうぞ」
ウィンターバルドさんに差し出したその箱は、ベルバニアで作られた、一口サイズのチーズが入ったアソートボックスで、それを見たウィンターバルドさんは、少し驚いた表情をして、つぶやいた。
「至れり尽くせりだなぁ。わざわざありがとうな」
「いえ、こちらのほうがお世話になってますから」
「いいんだよ別に、仕事なんだから」
何故かその返答を、ニーチェさんがすると、ウィンターバルドさんは苦笑しつつ答えた。
「何でそれをお前が言うんだ まぁ事実だけどさ」
そこまで言うと、私に向き直り、優しくウィンターバルドさんは、優しい表情で答えた。
「まぁ、気にしなくていいよ本当に」
そこまで言った後、何か思い出したように書類ケースの中から何かを取り出し、ニーチェさんに確認をした。
「ニィリエ、お前今日休みだろ?」
「そうだけど?」
それだけ聞いたら今度は私の方に向き直った。
「フルストゥル嬢は何か用事あるか?」
「ないですけど」
「よかった、よかった。」
「「うん?」」
何が何だかわからないまま、私とニーチェさんは、同じ方向に首をかしげると、ウィンターバルドさんは吹き出した。
「いや、本当の兄妹みたいだなぁ。」
「仮とはいえ、婚約してんだよ。もっと気の利いたことを言ってくれ」
「いや、でも可愛いな、二人して同じ方向に首傾げて……っふ」
「ありがとうございます?」
思わず、吹き出してしまったウィンターバルドさんに、私はとりあえず頭を下げると、どうにか平常心を取り戻したのか、一度咳ばらいをすると、二枚の紙をテーブルに置いた。
「さて、そんな可愛い二人に、おじさんがプレゼントを上げよう。」
「言い方が、怪しい人のそれなんだけど、ちょっとフルル後ろいな?」
「う?」
いいながらニーチェさんは、私を腕でガードするが、それを気にせずに話は進んでいく。
「まぁまぁ、最近はやっている舞台があるだろう?そのチケットを、お客さんからもらってなぁペアチケットなんだけど、ほらおじさん独り身だから、無用の長物なんだよ」
冗談交じりに差し出されたチケットをよく見てみると、私が好きな小説が、もとになっている話題作で、おもわずまじまじ見てしまったのを、ニーチェさんは気づいたらしく、私の頭を撫でながら優しく答えた。
「じゃあ行くかぁ。フルル、最近いろいろあって疲れただろうしな?」
「え?いいんですか……でも、せっかくのお休みなのに……」
「いいよ、俺もたまにはそういうの見て、心を養わないといけないし」
そうして突如として、観劇おデートが決まったけれど、不思議かな、まったく嫌な気はしなかった。
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