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ぼんやり令嬢の取引と忠告

さてさて、叔母様からのまさかのお許しも出たことだし、ブランデンブルグ侯爵家をおしばき……ではなく、非公式だが話し合いということで、ダイアン様と執事のジョエルさんを、伯父様のギャラリーに招待した。


「あーぁだから言ったのに、信用ならないって」


「約束くらいまもれっての、全くあきれるなぁ」


 私の10倍,もしくは100倍は軽く怒っているオルハとエマの後ろで、淡々とナイフを磨いているリノンがいるこの状況で、二人とも表情がこわばっていた。


 無理もないけれど年下……。リノンは年齢不詳だけど、にそこまで怯えなくていいのに、と思いながらふんわりと、敵意がないことを示すために微笑んだ。


「私の従者が申し訳ありません。ですが、彼らの言動は、私を心配するがあまりのこと……。お咎めはしないでください」


「……もちろんです。フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢」


 ダイアン様が苦しそうに答える反面、私は笑顔を崩さず対応した。


「ありがとうございます。ダイアン・ブランデンブルグ侯爵様」


「今回のこと……まことに……」


 何でこんなことに、という心の声が聞こえてきそうなほど、後悔のようなものに苛まれていながらも、謝罪しようとする姿が、すごい上から目線になってしまうが、哀れだなぁと思い、思わず途中で遮るように口を開いた。

 

「あぁ 大丈夫です。私の従者が護ってくれたので……、ですが勢いあまって、怪我をさせてしまって申し訳ありません。」


 今、思い返すもあれは見事すぎるハイキックと落下だったなぁ、と軽い感動すらも覚えつつ、万が一の可能性を加味して、ほぼ確定であちらが悪いとはいえ、伺いを立てるようにいうと、侯爵はうつむきつつ答えた。


「いや、気にしないでほしい…。それより償いをさせてもらいたい。」


 その返答に、一瞬ほっとしたのがすこし表情に出てしまっていたのか、侯爵はなにか眩しそうな表情で、ぽつりとつぶやいた。


「……フルストゥル嬢は、従者を大切にしてるんだな。」


「?えぇ、彼らは、至らない私にずっと寄り添ってくれている、血は繋がっていないけれど大切な家族です。」


「……君のように、心優しい令嬢に苦労を掛けて申し訳ない」

 

一瞬、レヴィエ様の所業でも思い出したのだろうか、また苦しそうな表情をするも、そんな表情を知ってか知らずか、もしくはわざとなのか、それを遮るように伯父様は笑顔で話をかえた。


「はい、さてさて今回のことだけどどうする?」


「慰謝料を……」


「今、ようやく立て直したところなのに?もしかしたら、接見禁止令がでるまで、何回も繰り返されるかもしれないよ?」


伯父様がそういうと、またまた少し重い空気が流れた。


 「金銭的な形での謝罪は結構です、こちらも過剰防衛をしてしまいましたし、けれど前回の言葉、覚えてますよね?」


 「もちろんだ、君らの気のすむ様に……」


 侯爵がそう言ったとたん、後ろに控えていた、オルハとエマは、銀色の瞳をそれはそれは凶悪に歪めて笑った。


 「いやぁ、最近からだなまってたんだよねぇ」


 「俺も、消化不良だったんですよねぇ」


 ……おいおい、二人とも凶悪さが隠しきれてないよ、リノン止めて止めて、と思うとリノンがぼそりと呟いた。


 「……成人男性の爪って剝がしにくいのかしら?」


 ……頼むからやめて?ベルバニア家、ないしはアーレンスマイヤ家が、暴力推奨とんでも貴族になっちゃうから。いままで国の裏で、そういうことやってた家みたいになっちゃうから、と突っ込みつつ、一度深呼吸をして、私は冷静ですよ、という表情で侯爵に話しかけた。


 「こほん、すいません。色々あって殺気立っているようで」


 「無理もない、それだけ令嬢が慕われている証拠だ」


 侯爵はこのきまずい空気のなか、私に微笑みかける。その表情は、昔と変わらないものの、ここまで関係が変わってしまったんだな、と改めて感じた。


「ありがとうございます。それで、今回のことなんですけど、お金ではなく、人材という形で補填してもらいたいのです。」


「人材……でも今ブランデンブルグ侯爵家にいるのは……」


 そう、私への慰謝料もろもろで泣く泣く退職させ、今では、あの大きいお屋敷に見合わないほどの、限られた人数しかいないのは、ラスターさんからの情報でしっていたので、私は小さく首を降った。


「……いえ、今年、民間の学園を卒業されたジョエルさんのお孫さんを、伯父様の家で、執事見習いとして、働いてほしいのです。確か、今は、ご実家の方を手伝われていると聞きました。」

 

そう、私の中で勝手に、侯爵家の良心と呼んでいる、家令であるジョエルさんには、お孫さんがいて、いつもなら学園を卒業したら、すぐにブランデンブルグ侯爵家に仕えるのだが、お孫さんは侯爵家につかえずに、実家であるカニャーク家の、芸術品の管理や鑑定を主とした家業を手伝っている。

 ゆくゆくは、そういった、芸術に関わる仕事がしたいと言っていた。と、かつてジョエルさんから聞いていた。それに加え、かなり計算や帳簿の管理などが得意らしいと聞いており、よく伯父様と、そんな優秀な方がもし来てくれれば、とよく話していたのだった。

 もちろん、こちら側のただの希望だから、断られるのを覚悟しての提案だが、ジョエルさんは目を輝かせていた。


「いいんですか?」


「ええ もちろん、もちろんお孫さんの意思もありますけど、検討してもらえますか?」


「ええ 勿論です。なんなら今からでも呼びましょうか?」


 浮き足だつジョエルさんを、まぁまぁ、と制していると、侯爵様は相変わらず、沈んだ様子で口を開いた。


「……もし、断られたらどうするつもりで?」


 そう問いかける侯爵は、あまりにも小さく見えた。それを少し哀れにおもいながらも、淡々と私は答えた。

 

「ノルドハイム伯爵に全部話すだけです。」


「そうか……」


 ノルドハイム伯爵は、いわずもがなフィリア様のお父様で、よくも悪くも昔からの貴族であり権威主義者だ。

 そんな彼の事だから、もしかしたら、捨て置けといわれるかもしれないし、呆れて絶縁されるかはわからない、けれど伯爵と侯爵様の仲が悪いのは有名な話なので、衝突は必死だろう。だが、侯爵は自分の言った言葉を反故にするわけにもいかず、ただうつむくばかりだった。


「まぁ断られたら、ですし、それよりいい考えがあれば、言ってもらって結構です。」


「そうか、わかった」


 そうして、おしばき……、もとい取引が終わり、侯爵が車に乗った後、ジョエルさんが私のそばに来て頭を下げた。


「孫の事、覚えててくれたんですね」


「いえ、結局利用するような形で申し訳ないです」


 そういうとジョエルさんは全力で首を横に振った。


「いえいえ、伯爵のことを、孫はとても尊敬してます。きっとすぐにでも来るでしょう。」


「ふふっならよかったです」


 その言葉に安心し少し笑うも、何か思うことがあるのか少しためてからジョエルさんは口を開いた。


「…フルストゥルお嬢様」


「はい?」


「レヴィエ坊っちゃんにはお気をつけ下さい。ラスターやソーニャからは、聞いていると思いますが、今の坊っちゃんは普通ではありません」


「わかりました。忠告ありがとうございます。」


 そうしてジョエルさんと侯爵が去った後、ラスターさんの言っていた異常な様子を、思い出したのもあったせいか、胸に少しだけ不安がよぎり、その日はあまり眠れず、翌日の朝の授業の内容はあまり思い出せないままなのであった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


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