ぼんやり令嬢と叔母様と因果応報
「フルルちゃん大変だったわね。馬鹿な親子の相手っていうのは、無駄に疲れるものね」
「それは同意です」
アイン様の言葉に、ニーチェさんは迷いなく即答するところから仕事が始まり、そうしていつも通りに仕事が終了した。
「いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ、いつもありがとうございます」
「じゃあ、ニィリエ、ちゃんと送ってあげなさいね」
「はいはい」
そうしてまた、ニーチェさんと馬車に乗ると、ニーチェさんは、今朝同様、心配を隠さないまま、私に話しかけた。
「そういえば、あの侯爵家はどうするつもりだ?」
「とりあえずお父様に相談して、接見禁止令を出してもらうつもりですけど」
今回の件の処遇は別として、今後何かされないようにしたいなぁ、と思いそうつぶやくと、ニーチェさんはまるで、ペンを貸すような気軽さで、とんでもない提案をしてきた。
「俺、ウィンターおじさんに話付けとこうか?」
「……いいんですか?」
本来なら、いやいや、そんなコネ使ってまでと思うところだが、あまり、法律事務所に詳しくないから、ついありがたさから、そんな言葉が出てしまった。
「別にいいよ、減るもんじゃないし」
「いつもいつもありがとうございます」
「うん、いいよ」
深々と頭をさげた後、ニーチェさんは、頭を撫でて続けた。
「何か困ったことがあったら言いな?仮とはいえ、婚約者なんだから」
「ありがとうございます」
「ん、いいよ気にするな……。あと、本当に、怪我もなんもなくてよかったよ」
そういって、もはや習慣のように、頭を撫でるニーチェさんの表情は、本当に安心した表情だった。
私は、ニーチェさんのそんな表情がめずらしく、思わず言葉に詰まってしまったのだった。
けれど同時に、どうしてこんなに私のことを慮ってくれるのだろう、と不思議に思ってしまったのだった。
そして、家にはいろうとすると、見覚えのある、お父様と私そっくりの、青いさらさらのストレートヘアに、眼鏡をかけた知的な美女が、そこにはいた。
「久しぶり、フルストゥルちゃん」
そう涼やかな声で答える人に、わたしは驚きながら返した。
「ロクサリーヌ叔母様」
彼女はロクサリーヌ・ユスーポフ子爵夫人。旧姓、ロクサリーヌ・ベルバニア。通称・ロクス叔母様、お父様の双子の妹であり、現在は、二人いるユスーポフ子爵夫人の一人でありながら、王立図書館の司書をしている方。
とても知的で、でもそれをひけらがすことをしない 私と違って人見知りもしないし、お父様同様、氷属性の魔術が得意な、自慢の叔母…………なんだけれど、どうしたんだろう、と固まっていると叔母さまはほほ笑んだ。
「ふふ、そうやって呆けてる顔はチェーザレそっくりね ヴォルフラムさんにはいってあるの、とりあえず上がりましょう?」
「あ……はい」
「お帰り、フルル……ロクサリーヌ様もお久しぶりです。ユスーポフ子爵と、ギーゼラ様には、お世話になってます」
「あら、二人にもいっておきますね」
そう、ユスーポフ子爵はロクサリーヌ叔母様と、もう一人ギーゼラ様という奥さまがいる。一応、キャシャラトは一夫多妻、もしくは一妻多夫が認められているから、おかしな話ではないが、ユスーポフ子爵家の三人は、それはそれは理想的な形で三人とも仲良く、いっさい、愛憎渦巻くなんかとかはないらしい。
いやユスーポフ子爵すごい器量だなぁと感心している間にリノンが鞄やらなんやらを片付けいつの間にか、楽でありつつもかわいらしいフロルウィッチのワンピースに変わっていた。
そして、夕食の時間になり、叔母様は、世間話のような気軽さで口を開いた。
「はぁ、まったく、どこもかしこも噂話ばかりで困っちゃうよ」
「ロクサリーヌ様も大変ですね」
「本当だよ、過去の傷ってほどでもないけど、それをひっぺがされてつつかれてる気分」
「まぁ……特定されてないだけましと思いましょう?」
二人にはわかっているんだろうが、私には全く会話の意味がわからず、ただただ あー今日の紅茶はオレンジ・ペコーかぁ、とのんきに考えている、とウォーレンさんがごほん、と咳払いをした。
「お二人とも、お嬢様に、意味がわかるようにいってくださらないと困ります」
その発言で、私がぼんやりしているのに気づいたのか、二人は頭を下げ始めた。
「あぁごめんごめん」
「フルル、ごめんね」
「う?あぁ」
謝られた直後でも、まだぼんやりしている私に、伯父様は苦笑しつつ優しく話しかける。
「今 ブランデンブルグの噂が広がってるだろう?」
「あー、まぁまぁ」
色々ありすぎて、全部は追えてないけれど、なんとなくでよければ大体わかるので、曖昧に返事をしていると、伯父様は気にせず続ける。
「そのうちの一つ、ダイアン様が、権力欲しさに、当時の恋人を振ったってあるだろう?」
「なんとなくはききましたけど……」
なんで今、そのはなしを、と思っていると、気まずそうに、ロクス叔母様が手を上げた。
「その恋人が私ってわけ、まぁかなり昔の話なんだけど」
「はい?え?」
色々と、衝撃的な話をもってこられると、人間って思考が止まるというのを、今、身をもってしったのだった。
「まぁ簡単にいうと、まだ、フルストゥルちゃんぐらいの年だった私とダイアンは、お互いの身分はしらないまま、市井で出会ったの、お互い本が好きでね。すぐに意気投合したわ」
そこまで一気にいうと、叔母様はすこし懐かしそうな顔をしたが、すぐに話に戻った。
「うちは、チェーザレもそうなんだけど権力とかに固執しない家だからね。相思相愛ならダイアンが平民でも、べつに構わないとさえ思ってたんだけど、まさかの逆でね」
そう、まさかの自分の家より全然高位の貴族で、なんなら着々と権力を高めようとしている家だった。当時から、ブランデンブルグ侯爵家は、上昇意識がつよかったらしいことを、補足しつつ話は進んだ。
「ダイアンは当時、家を出てまでも、私と一緒になろうとしたんだけどさ。あっちの家が止めたんだよ。でもきかなかったからさ。一方的にわかれたってわけ」
「すごい、恋愛小説みたい」
と少し場違いに感動するも、叔母様は気にした様子もなく続けた。
「若気の至りだよ。わたしは今の旦那と義姉との出会いに感謝してるし、万が一にも、ダイアンとよりを戻そうなんて、考えてないんだけどね。」
「……あぁ、それであの噂話につながると」
「そうだね。はぁ、まさかこんなとこまでくるとは」
「すみません。私のせいでこんなことに」
まさか、こんなところにまで、飛び火するだなんて露とも思わず頭を下げると、叔母様はあわてて首を振った。
「いやいや。これは全部レヴィエと夫人が悪いでしょ。フルストゥルちゃんは悪くないって」
「え?じゃあ なんでここに」
「誰かにきいて欲しくてね。旦那と義姉には言えないし。ベルバニアは遠いし、お爺様も遠いしね」
叔母様はそういったあと、私に向き直って力強く話しかけた。
「フルストゥルちゃん。私の話をきいたからって、侯爵家に容赦しなくていいからね?むしろ、とことんやっちゃっていいから」
「え?」
「チェーザレから詳しい話はきいてるけど、ここまでこんなことになったのは、ダイアンの監督不行きが大きいよ。いくら昔馴染みだからって、かわいい姪を傷つけた罰は、受けてもらわないと」
「あー、ぅえぇと……?」
困り果てて、伯父様をみるととてつもなくいい笑顔だった。
「まぁ、ロクサリーヌ様の許しがあってもなくてもやるけどね」
「でしょうねぇ」
二人は和やかに笑っているが、間に挟まれた私は、ただひたすら胃が痛くてしかたがなかったが、その後リノンに労って貰えたので、まぁいいかと思うことにした。
それにしても、かつての恋人にすら匙を投げられるとは、やっぱり、因果応報ってあるんだなぁと感心してしまった。
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