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ぼんやり令嬢の得意科目

「何その女 めちゃくちゃじゃない 怪我してない?フルル」

 あまりの理不尽な出来事に憤慨するとフルストゥルは大きく肩を下しながらうなだれた。

「全く フルルほど人畜無害な令嬢はいないっていうのに」

「ねー」

「今度会ったら ただじゃおかないんだから」

「ありがとー」

 

可愛らしく頬を膨らませながら、自分の代わりに怒ってくれるシャルロットを見て自分は幸せ者だなぁ、と温かい気持ちになった瞬間にシャルロットは耳元でささやいた。

 

「このあとさ、異国歴史のレポート手伝ってくれない?」

「いーよー」

快諾してくれるフルストゥルに心底安心しつつ二人で図書室に向かった。

「フルルはもうレポートもう終わったの?」

「あぁ終わったよ、今回もシャロを手伝おうと思っていたし」

「ありがとぉ……本当に私世界史が苦手なんだよね」

「まぁ範囲が広すぎるよね、いくらシャルル先生が授業うまくても膨大だもんね」

 

 キャシャラトは様々な国と交易を結んでいる、その全ての国の歴史とまではいかないが主要な国の歴史だけでも莫大な量で、そこから自分が調べたい国の文化や歴史をうまいこと抜粋して調べてまとめることが全くできないわけではないがとても苦手で資料集めの時点で心が折れかけることが多く難儀でむしろ嫌いまである。

 

その一方でフルストゥルは世界史に関しては授業以外で勉強をしなくても常にテストでは平均点以上は余裕で取れており、レポートの提出なども早くかといって雑なわけでもない、寧ろ歴史の担当のシャルル先生からは

「いやぁ フルルちゃんは流石だねー早い、字が綺麗、くどくない!!!いーのいーのこういうので」

と良く褒められている、もし本気で勉強をしたら学年でもいい順位にはいけるのではなかろうか、まぁ本人はそんな気力もなさそうで勿体ないな、と思ってしまう。


「ねぇクティノスでは何で牛肉を食べないんだっけ?」

「あぁ 昔、クサリクっていう牛の守護神がいたんだけど 人間の愚かさに怒ってクティノスからいなくなっちゃったんだよね。そんなクサリクの許しを請おうとした結果。風習として残っているってやつかな」

「ふぅん、で結局その牛神は戻ってきたの?」

「神話の話だけど、クティノスを見限って愛し子と一緒に神の島へ行ったってやつが有名かな」

と、相変わらず授業で聞いていないこともスラスラと一般常識かのように答えるその様には感心せざるを得なかった。

「流石ねぇ あとここなんだけど」

「あぁ それはね」

 

上から目線でもなく、呆れるわけでもなく淡々と静かに教えてくれるフルストゥルのお陰でレポートが終わりかけた時、フルストゥルが淡々と説明してくれる背後に背の高い、都会らしく洗練された眼帯の青年がたっていた。

「へぇ、お嬢ちゃん詳しいな」

「あら、ニーチェさん」

「誰ぇ…」

「素直な反応だなぁ」

人見知りが発動して私の後ろに隠れるフルストゥルをみて男性は一瞬びっくりしたように目を見開いたあと少し申し訳なさそうに笑った。

「あぁびっくりさせたな、ごめんごめん」

知らないやつは知らないよな、とどこか取っつきやすい雰囲気で彼は話し続ける。

「俺はニィリエ・ハイルガーデン 一応王宮勤めをしている。気軽にニーチェって呼んでくれ」

ニーチェ、と名乗る彼は第一王女の側近、秘書のような役割を担っておりよくこの学園に出没している。

とはいっても人懐っこくフレンドリーで活発な彼は男子生徒とすぐ友達のようになったり、そのルックスのよさから女子生徒にも好ましく思われている。

 

わりと有名人なのだが他人に、特に男性とはとくに関わろうとしないフルストゥルが知らないのは無理はないだろう。

「申し遅れました。フルストゥル・ベルバニアと申します」

「あぁ いいっていいって、そんな懇切丁寧に。

俺部外者だし…にしてもこれお嬢ちゃんが全部書いたのか?」

「…はい」

「凄い字が綺麗だな、それにとても読みやすい 文官志望か?」

 

そうそう、フルルは字が綺麗なのよね。

と心のなかで同意しつつ友人が褒められたことを誇らしく思いながらも、視線をチラチラとこちらに送り助けを求めるフルストゥルがしどろもどろになっているのをみかねてそろそろ助け船をだそうとすると同じクラスの私同様に歴史が苦手な令嬢が藁にもすがりたいといわんばかりの表情をしていたのが見え手を止めた。

 

「フルストゥルさんちょっといい?」

「どうしたの?レベッカさん」

「もうレポート終わった?」

「終わったよ、私でよければ手伝おうか?」

 

 なんとなく言われることがわかっていたのだろうかいつの間にかさっきまで読んでた小説すらも閉じられているし手にはペンを握っている。

「ありがとう」

 参考になるかはわからないけど、と控えめにいうフルストゥルをレベッカ嬢は救世主を見るようなまなざしで眺めていた。

 わかるよ、私もおんなじ顔したことあるもの。

「じゃあ私は提出してくるね」

「うん、いってらっしゃい~」

 自身の友人を誇らしく思いながらも無事レポート課題を提出した結果、担当の教師が

「シャルロットちゃんも前より読みやすくなったよね オッケー」

と即行で直しもなく受け取ってくれたのは言うまでもない。

 

 不安そうなレベッカ嬢のレポートをなんとなくながめる、別段変わったことはないが文字数稼ぎのためにもうちょっとなにか書きたい程度で問題点らしき問題点はなさそうだった。

「ちょっと文字数稼ぎしたい感じですよね」

「そうなのよ、でも何を書けばいいか……」

「俺も見ていいか?」

「はい」

「あぁ これはこれで綺麗にまとまってるなぁ これに付け足しは難しいな」

 ニーチェさんも軽く目を通しそうつぶやく、そう本当に綺麗な文章だが資料が限られているせいかうまく文字数に響かないのがよく分かった。

 どうしようか、と少し首を傾げ考えていると、自分が使っていた資料を思い出した。

 「少し待っててもらって大丈夫ですか」

 「えぇ」

 

異国歴史の本と宗教を迷いなく見つけたがいかんせん高いところにあり、脚立がなければ取れないのでいつもいつもこの学院はもうちょっとこういうところに金に物言わせてもうちょっと改善してもらいたい。いいのか、こんなんでギャラン様通ってるんですよ?

と王子を引き合いに出して本棚をにらみつけているといつの間についてきたのか何か察したのかニーチェさんが声をかけてきた。

 「俺 取ろうか?あれだろ?」

 うなづくとニーチェさんは即座に手元に資料をおいてくれた。

 「ありがとうございます」

 なんでわかったんだろう、やっぱり王宮務めはゆうしゅうなんだなぁ、素直に感心しながら受け取るとニーチェさんはスマートに下りながらつぶやいた。

 

 「不親切だよなーこんな高いところに置かれたら」

 「正直、不便です」

 「なー」

 

 さっきまで少し緊張していたがこの方の雰囲気が柔らかいせいか、婚約者様のような傲慢さ、というか圧迫感も感じないしかといってクラスメイトのような距離感が分からないが故の意味の分からない緊張感もないし、まるで伯父や父と話してるような安心感のようなものがある

 

 あ、ギャラン様は別ですよ、あの人フレンドリーだしめっちゃいい人ですけど芸術作品なんでノーカンです。

 

 「レベッカ嬢、これ使って」 

 レベッカ嬢は少し資料をぱらぱらめくると目を大きく見開いた。

 「……これ主な宗教と僧院、神話の関連結構詳しく書いてあるからテーマにあってる」

 横からニーチェさんもそれを眺めうんうん、と頷いているのをみて、自分の選んだものが間違えてないことに心底安心した。

 「わ、すごいなお嬢ちゃんドンピシャじゃんこれ」

 「ありがたいわ、あとは自分でやってみるわ、ありがとうフルストゥルさん」

 レベッカ嬢は心底安心したような表情を浮かべた。わかるわかる、私も魔法の授業の時シャルロットに助けてもらうとそうなるもの、と同意する。

 

 「お力になれて何よりです」

 「フルストゥルさん、何か困ったことがあったら頼ってね、お互い様ですもの。」

 「いや レベッカ嬢にはこの前の授業でいろいろたすけてもらいましたし……」

 

 丁寧にお辞儀をし、レベッカ嬢が去ったあとぽつりとニーチェさんは呟く。

 「お嬢ちゃんはえらいなぁ」

 心底感心したようにニーチェさんはつぶやいたが、何か特別なことをしたっけと首をかしげているとニーチェさんが笑顔で答える。

 「困ってる人を当たり前のように助けれる人って案外少ないんだよ」

 「そうですか?」

 

 「そんなえらいお嬢ちゃんにチョコをやろう」

 「ありがとうございます」

 高級すぎて一度も見たことないチョコレートを受け取ったときに殺意を感じて横を見ると、

 そこにはもはや憎悪と見間違える表情をした婚約者様がいた。

 ――あぁ、これはめんどくさいことになる、絶対に。

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