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ぼんやり令嬢の噂と燃えないゴミ。

私、フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢はよくも悪くも目立たない。

毒にも薬にもならない、自他ともに認めるぼんやり令嬢で、基本的に、うわさとか賞賛とかそういったものとは程遠かったのだが、ここ数か月間で、いろいろと注目を集めることが多くなった。

 

 理由は色々、正規とはいかずとも、王女の侍女見習いに抜擢されたこと、そして、婚約破棄とレヴィエ様がしたことの拡散。そうしてニーチェさんとの、偽とはいえこの仮の婚約者状態を、王女が公認していることが、最初のきっかけだった。

 

 まぁ、ほぼ認知もしていなかった田舎のなばかり伯爵令嬢が、いきなり王族つきになるわ、侯爵家との婚約を破棄するわ、王女公認で、婚約者候補をつくるなんて、私が第三者でも、三回くらいは説明を求めてしまうし、何なら、その推移を詳しく聞きたくなってしまうだろう、無理もない。


 さて次に、シャロが、私の陰口をたたいた相手をこっそり粛清したこと。バーナード様の好意をお断りしたこと。また、この時ニーチェさんに助けられたこと、あと、どこからか漏れたのか、クティノスの王子から求婚される私を庇ったことからの、この前のガーデンパーティのドレスは、王妃から、アイン様経由で購入したということ。そしてアクセサリーは、私が、ミドガルド様にいただいたものということで、さらにさらに噂は広がった。


 そうして、ちょっと事実と乖離しているのが、私が、フィリア様を断罪したことになっていて、あまりの私の冷たさに、フィリア様は、怯えて這い蹲っただなんだとあるが、そこは誇張しすぎだろう。

 そこより前、レベッカ様らへの態度の矯正や、ニーチェさんへの暴言に怒ったことは、まぁ認めますけど。


 ともかく、私は、いつの間にか廊下を歩いているだけで、ひそひそと噂話をされ、ときには羨望のような視線を向けられ、時には質問責めに会うという、有名人のような扱いになったのだった。

 ……普段から、これに耐えてるギャラン様の精神力、果てしないなぁ、とぼんやり空を見上げているとマオ先生が心配そうに声をかけた。


「大丈夫か?」


 具合悪いのか、などなど度々心配されたが、心から疲れていた私は机に突っ伏した。


「もう、のんびりすごしたいですー」


 といったのだが、マオ先生は


「まぁ元気そうだな」


 とスルーを決め込んだ。いや元気だけどさ?もうちょっと心配してくれてもよくない?

 なんて思ったが、まぁ病んでるわけでもないしなぁ、と再び空を眺めていた。


「疲れてるわね~」


「疲れるよぉ、私が何をしたって言うんだぁ」


 そう項垂れる私に、シャロは、テキパキと説明する。


「うーん、王女の護衛に溺愛されてて、それをお母様と王女も、認めてるのが明るみになって、侯爵夫人を論破……。そりゃ噂も広がるって」


 肩をすくめて笑うシャロの隣で、レベッカ様が困ったように微笑んで続ける。


「まぁ、王女様の側仕え見習いになった時点で、うっすらとは噂されてましたけどね?」


「初耳すぎるよぉ」


「はいはい。だれてないでごはんいくよー」


「うー」

 

 そうして、シャロに引きずられる形で食堂……ではなく、図書室に、併設されてるカフェテラスで、昼食をとることにした。


「そういえば、今日放課後、マリアン様と会うんだっけ?」


「うん。オルドリン子爵家のお菓子くれるんだって、楽しみ」


 ほわほわと喜ぶ私に、シャロはどこかの母親のように、私にずいっと迫り、語気を強めて言い聞かせた。


「楽しみはいいけど、絶対魔道具つけること、いいね?」


「わかったぁ」

 

 素直に聞いてる私の横で、レベッカ様が首をかしげてつぶやいた。


「そういえば、レヴィエ様はどうしてるんでしょうね?学院じゃ、あまり姿見ないですけど」


「まぁ、学年違うから当たり前じゃない?」


「会いたくないし、いいよぉもう」


悪夢にうなされたようになってる間に、ランチプレートが届き、和気あいあいとした空気が、流れた。


 「それにしてもフルストゥル様、あのセレスのドレス、すごく似合ってました。」


 「あれって、ニーチェさんが選んだんでしょう?」


 二人に褒められ、質問され頭がぐるぐるしながら、というより、事実を思い出して、眩暈を覚えつつなんとか答えた。

 

 「厳密に言うと、ニーチェさんと、王妃様なんだよねぇ」


 「えぇ、竜妃さまに?」


 「は?なにそれすっごい…。でも本当に似合ってたわよ。髪飾りとかも綺麗だったし、さすが、ベルバニアの妖精ね」


 レベッカ様の驚きに紛れて、さらりと聞き逃せない言葉がきこえ、二、三回シャロを見てから私は肩を落とした。

 

 「なに?そのたいそうなあだ名ぁ」


 「知らないの?これフルルの社交界でのあだ名よ?」


 「えー大層すぎるよぉ、だったら、社交界のゴーストレディ、とかがいいよぉ」


 「しれっと厨二心が旺盛な所、私嫌いじゃないわよ。」


 「え?大丈夫軽率にデートする?」


 「私はいいけど、そっちのが最近忙しいじゃない?」

 

 あっさり事実を突きつけられ、しょんぼりするもシャロは、私の頭を撫でながら続けた。


 「まぁまぁ、夏の長期休暇にまたうちに来なよ。もちろんレベッカ様も」


 「え?いいんですか?」


 「もちろんよ」


 少し先の楽しみが決まり、少しわくわくしながら、午後の授業を乗りこえ、放課後になりマリアン様と合流した。


 「ごきげんようー」


 「ん、ごきげんようじゃあ行きましょうか。」


 学院内だからか、いつもより、おしとやかにしているマリアン様に、成長を感じつつ、オルドリン子爵家にすぐ行くわけではなく、お買い物をしてから、のんびり王宮前の通りを散策することにした。

 

 「ふぅ、学院はやっぱ息が詰まるわね」


 マリアン様の言葉に、私は心の底から同意しながら、普段より緩い口調で答えた。


 「みんな、いいとこの家の方ばかりですしね~」


 「……貴女もそうでしょうに」


 「うちは歴史が古いだけですし~」


 そう、のんびりとしすぎた会話をしていると、歴史がある文房具屋さんが目に入った。

  そういえば、ニーチェさんの書類入れボロボロだったなぁ、と思い出し、足を止めていると、マリアン様が気づいてくれ、足を止めてくれた。


 「入る?」


 「え?いいんですか?」


 「別にいいけどー」


 そうして入ると、どれもこれもしっかりとした作りと素材で、値段も少し高いけれど、むしろこの丁寧な縫製ならやすい程度だろう。

 その中で見つけた革製の書類ケースは、今、ニーチェさんが使っているのと同じサイズで、中の仕切りも使いやすいと、理想がガチっとはまり、速攻でお会計を終えるも、いや、別になんもない日にものあげて引かれないだろうか、と一瞬、不安がよぎるも、多分、優しいから、嫌な顔しないんだろうな、と変な安心感があった。


 そうしてようやくオルドリン家に向かおうとしたとき背後から嫌な気配がしたその時、マリアン様が腕を引っ張り引き寄せられた反動で私はそれと目が合った。


「久しぶりだね、婚約者殿……」


 マリアン様がその異常さに気づいたのか、私を背に隠してくれているが、マリアン様ごしでも、フィリア様にそっくりの欲に染まりきった瞳に、甘すぎて、もはやくどささえ感じる声の主である、もう何の縁もない相手に、私は冷静に対峙した。


「……何の用でしょうか、元婚約者様」


 そんな私を心配して、マリアン様は私に小さく問いかけた。


「ちょっと……大丈夫なの?」


「大丈夫です。無視した方が、この人は暴走します」

 

 そんな、私たちの会話を無視して、目の前の男は続ける。


「俺のために、俺を虐げ続けたあの母親に、恥をかかせてくれたんだろう?」


 「ちがいます、彼女が私の大切な方々を侮辱したからです。」


 「やっぱり、俺のことなんだろう?」


 もはやここまでくると、呆れを通り越して、お腹変えて爆笑してしまいそうになるが、淡々と答えた。


 「いいえ、シャロとレベッカ様とニーチェさんです。あなたのことでは、断じてありません」


 「なっ……嘘だろう?」


 「いいえ、事実です」


 「ふざけっ……ぐぇ」


 そういったとたん、目の前の男は私に暴行を振るおうとしたが、それは叶うことはなかった。

 何故なら、突如現れた、私の側近であるオルハのハイキックで、地面に落下し、ぐちゃっとなったからだった。


 「お嬢、ゴミ捨て場ってどこっすか?」


 「怒られるからやめようねぇ」

 

 そうして、無様に地面に突っ伏す男を無視して、オルドリン子爵家へむかった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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[一言] うわ〜すっかり粗大ゴミ扱い(笑)
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