ぼんやり令嬢と波乱のガーデンパーティーは幕を閉じるようです。
気づいたら毎日投稿して二か月が過ぎてました。これも応援してくださる皆様のおかげですいつもありがとうございます。
フィリア様がどこかへ連れてかれ、シャロに案内された休憩室に通され豪奢なソファに座り、
私はまず、ニーチェさんのほほを氷で冷やした。
「あー染みるわ」
「口の中切れてません?」
「大丈夫、音はすごかったけど、威力はそこまでだったから」
それに、とニーチェさんは、私の頭を撫でながら続けた。
「フルルがひやしてくれたから、大丈夫」
「よかったです。じゃあスーツ、綺麗にしますね」
「フルルが?」
驚くニーチェさんを横目に、私はスーツに手を翳した。
「とりあえず、応急処置程度ですが、水魔法で洗って、風魔法で乾かせば、すぐできるので」
「ありがとうな」
そうしてスーツを綺麗にした後、ニーチェさんはまた、頭を撫でながら褒めてくれたが、私は申し訳ない気持ちで一杯だった。
それはそうだ。
貴重な休日に来てくれたのに、私のせいであんな言いがかりをつけられて、挙句ビンタされるわ、グラス投げつけられ、お前のせいだと言われても、おかしくはない。だが、ニーチェさんはただただ、こうやって優しくしてくれるのがありがたいのに、そのありがたささえ、涙腺を刺激して泣きそうになったものの、ここで私が泣くのは、意味が分からなすぎるだろ、とぐっと堪えた。
「フルル、大変だったろ?」
「へ?私が?」
唐突のいたわりに、何がだろうと、心の底から疑問に思っていると、ニーチェさんは肩を落とした。
「自覚ないんだよなぁ」
「え?」
私の、気の抜けた表情を見て、ニーチェさんは、困ったような笑みを浮かべ答えた。
「不貞や暴力三昧の子息に、話の通じない、根っからお嬢様の夫人を、ずっと相手にしてたんだ。そりゃ胃も痛くなるよ」
「呆れないんですか?」
「呆れる理由がないだろ。俺は、フルルと知り合って間もないけど、フルルが、真面目で優しいことは知っているし、努力していたこともしってるつもりだ。いたわりはするけど、そんなフルルのことを呆れたりなんてしないよ。」
言いながら私の髪飾りを直し、優しく、ニーチェさんは問いかけた。
「むしろ、なんでフルルは、そんな風に思うんだ?」
「だって……。10年も付き合いのある侯爵家に、ここまで蔑ろにされるのは、少なからず、私に何か問題があるのかなと」
それなのに、自分の至らなさを棚に上げたとか、思われないだろうか、と唸っていると、ニーチェさんは気軽に答えた。
「フルルは真面目だなぁ。でも、どう考えたって、過失はあっちだから気にすんな」
「はい」
「で、今日俺が叩かれたりしたのも、ぜーんぶ侯爵夫人が悪いんだから、気にするな。大丈夫、傷害罪で金取るし」
私のフォローだけでなく、しれっと傷害罪というワードが出てくるあたり、ウィンターさんが親代わりをしてたんだな、とわかってほっこりして、ぐちゃぐちゃな心が少し落ち着いた。
こんこん、と優しいノックが響いたと思ったら、その声は、聞き覚えのある可愛らしい声だった。
「フルル、大丈夫?入るわよ」
「シャロ……うん大丈夫」
「よかった、泣いてたらどうしようかと」
相当心配だったのか、侍女に大量のお菓子やジュース、紅茶類を運ばせてるのをみると、心底心配かけたんだなぁ、と分かる。
「……そんな泣くっけ私」
「あんま泣かないのは知ってるけど、いっぱいいっぱいになると、泣くの知ってるもの」
「純然たる事実なんだよなぁ」
シャロとのいつもの会話に、ゆっくりゆっくり、心が通常運転に戻っていくのを、感じ安心した。
「そういえばアイン様は?」
「あぁ、お母様といろんな家門の婦人方と一緒に、ブランデンブルク侯爵夫人と、話し合いという名の断罪してるから、もうちょっとかなぁ?」
「うちのお姫はわんぱくだからなぁ」
……今、とんでもない状況を、さらりと言われた気がしたが、今、ニーチェさんも、それをサラリと流してるから、うっかり聞き逃しちゃったけど、いいんだろうかともやもやしてると、扉が勢いよく開いた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「マリアン様……相手の返事待たないと……」
心配のあまり、返事を待たずに入ったマリアン様と、それを止めようとしていたレベッカ様をみて、ニーチェさんは気やすい雰囲気で笑っていた。
「ははっ元気だなぁ」
「あっごめんなさい」
ニーチェさんの言葉に、マリアン様はハッとしたのか、頭を下げる。
マリアン様、思い立ったら即行動を地で行く方だから、本当に悪意とかないし、これも、ただ私を心配してたんだな、とわかっているからか、嫌な気は全くしなかった。
「大丈夫ですよ、今は私たちしかいませんし」
「ありがとう、ねぇでも本当に大丈夫なの?」
「まぁ、ちょっと疲れちゃったかな?」
と、いうが、本当は自分一人でもしいたらハチャメチャへこんでいたんだろうな。そう思うと、ニーチェさんの存在が、本当おおきいなぁと、感謝しきれない気持ちになっていた。
「にしても、すごかったわね夫人。あんた、あんな人と、10年くらい、付き合いがあったんでしょう?よく平気でいられたわね」
「うぅん。私が世間知らずだったからかなぁ?首都の高位貴族ってこんなんかぁって、思ってたからなぁ」
「……まって、それ、すごい風評被害じゃない?」
マリアン様の問いかけに、答えた私の言葉を聞き、思わずシャロがつっこむ、それはそうだろう。みんながみんな、あんな自分本位な母親なわけないんだけれども、幼いころから関わってるせいか、と思いつつぼそりと本心が漏れていた。
「まぁ、私の前では、化けの皮どころか、頭からつま先までフルセット、オーダーメイドでって感じでしたし」
その言葉に、ニーチェさんとマリアン様は、笑いを抑えられず吹き出していた。
「何それ、もう皮じゃないじゃない」
「ははっ、ちがいないなぁ」
それに続いて、シャロも小さくつぶやいた。
「絶対そのフルセット、高級素材よねぇ。」
「ちょっと、シャルロット様……っく」
それが、レベッカ様ツボに入ったのか、どうにか抑えて上品に笑っているが、肩がふるふると震えていた。
そんなとき、扉がゆっくりと開いた先には、アイン様とヨハンナ様たちがいた。
「ニィリエ、フルルちゃんお待たせ」
「アイン様」
アイン様の姿が見えた途端、全員で頭を下げようとしたが、やんわりとアイン様は、首をかしげ可憐にほほ笑んだ。
「あぁ、いいよみんな楽にしてて、大した話しないから。」
それを聞いたとたんニーチェさんは私の耳元でささやいた。
「……フルル、胃薬用意しときな?」
「……はい?」
言いながらニーチェさんは私の腰を、エスコートの時よりも強く支えているということは、この先、私が倒れる可能性が、高いということなのではと思うと、冷汗が止まらなくなっていった。
「ブランデンブルグ侯爵家に、今回のパーティーを台無しにされた賠償金と、ニーチェにビンタしたから慰謝料と、フルルちゃんに今後関われないように、接近禁止令出しただけだから」
さらりと聞き流してしまいそうだが、思わずシャロに、小声で聞いてしまったのがいけなかった。
「……シャロ、なんとなくでいいんだけど、このパーティーにかかったお金って馬何頭くらい?」
「なんで毎回、たとえる例が馬限定なんだ?」
ニーチェさんは、少し戸惑いながら聞くが、それを遮るように、少し計算をしてたシャロが、答えた。
「血統のいい馬を満杯にした状態の牧場を軽く三個くらいかしらね。」
「わーすごいなー」
もうもはや、つっこむまいと思っていたが、あまりのお値段、といっても素人計算なのだが、それを考えた途端、急激に胃が痛くなったのだった。
「……すいませんちょっと胃薬ありますか?」
「ほらな?」
ニーチェさんは、それみたことかと困ったように笑うが、私は、胃薬を飲んだ後、聞かなきゃいいのについ聞いてしまった。
「ちなみに、慰謝料の相場はどんな感じですか?」
「馬以外で例えるとするなら、セレスのドレス一着買えるかな?くらいかな」
「……すいませんちょっとお医者様呼べます?」
「あぁそこまでいくのかぁ。」
そんなこんなで、少しぎすぎすしてしまったガーデンパーティーは、まさかの、お金と権力によって、問題が解決したのであった。
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