ぼんやり令嬢は怒りを露にするそうです。
「……うまくあしらえたみたいだな」
どこからか、一部始終を見ていたであろうニーチェさんは、通常運転で話しかける。
「ニーチェさん」
「心配だったからそこで見てたけど、流石だな」
言いながらニーチェさんは、私に薔薇型のクッキーを渡してきた。
多分、私に何かあったらすぐ助けれるように、けれど私の行動を無暗にとめないあたり、私のことを信用してくれているのだろう。
「はぁ……人に怒った後のスイーツは美味しい……」
気が抜けてぽりぽりクッキーを食べてると、シャロは少し驚いた表情で呟いた。
「フルル、普段怒らないのにね」
「慣れないねぇ、こういうのは」
ほっと息をついていると、今度は背後から声をかけられた。
「見事だったわ、フルストゥル嬢」
「ヨハンナ様……。いや、もっと穏便に済ませれればよかったんですが、お恥ずかしいです。」
「いえ、時には感情を表すことも大事でしょう。それに、貴女は冷静に見えたし、恥ずかしく思うことなんてないのよ。」
ヨハンナ様の言葉をきき、心の底からありがたく思い頭を下げた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、娘を庇ってくれてありがとう。これからも仲良くしてあげてね、レベッカ嬢も楽しんでいってね」
「「はい」」
ヨハンナ様はそういった後、またゲストのもてなしに戻っていった。
「ヨハンナ様に褒められちゃった」
「よかったなぁ」
またまた優しい兄のように、ニーチェさんは答えると、それを見て、またレベッカ様はおだやかにほほ笑んだ。
「お似合いですねぇ」
「ありがとうございます」
先ほどまで凍りきっていた心が、ようやくほどけてきたころに、先ほどの、小さな喧噪をみていた令嬢や、夫人たちが集まってきた。
「お見事でした、フルストゥル嬢」
「流石、氷の伯爵と呼ばれているチェーザレ様の娘ですね。」
……お父様そんなあだ名あったんだぁ、と変に感心して聞いていると、周りはさらに盛り上がっていくのを和やかに眺めつつ、ニーチェさんに気になっていたことをつぶやいた。
「そういえばアイン様は?」
「ちょっとキリが良いところまで仕事してからくるって、言ってたからな、でも流石にもう来る頃だとは思うんだけどなぁ。」
「私は今日、アイン様のドレス姿を、目に焼き付けることを使命としてるんで」
ふん、と意気込むと、ニーチェさんが感心しながら、私の目の開き具合にびっくりしていた。
「……今日1で目が開いてるなぁ」
「いつもより頑張って開いてます……。ふぅ」
「お、いつもどうりだ」
どこか安心したような表情で、ニーチェさんが言うも、私はシャロの、それはそれは、天使も黙ってわっかを投げ出すくらいに可愛いシャロの顔を、まじまじと見てつぶやいた。
「……シャロみたいなパッチリな目になりたぁい」
「ないものねだりしないの」
ぴしゃり、と言い切るシャロにレベッカ様は続いた。
「そうですよ、フルストゥル様の目もまつ毛が長くて羨ましいです」
「そうよね、このまつげの長さで無加工はずるいわよね?」
目に入るとめちゃくちゃ痛いんだよこれ、と言いたかったが、なんかそれ逆に嫌みっぽいなぁと思い、ぼんやりしながらクッキーをぽりぽり食べていると、可愛らしいシャロともレベッカ様とも違う声が聞こえた。
「久しぶりです。フルストゥル伯爵令嬢」
「マリアン子爵令嬢、お久しぶりです。来てたんですね」
以前、レヴィエ様関係で言いがかりをつけられ、その後謝罪をしてもらった。
私の中で、素直で純情すぎる令嬢に入る、マリアン・オルドリン子爵令嬢だった。
……相変わらず桃色の髪と、ライトグリーンのぱっちりした目が愛らしく、なにより私には到底かなわない豊満なお胸が、眩しいこと眩しいこと、とやや破廉恥なことを考えていると、マリアン様は感心したようにつぶやいた。
「……さっきはすごかったわね、まさか侯爵夫人を黙らすなんて」
「見てたんですかぁ、お恥ずかしい……」
「もっと堂々とすればいいのに」
マリアン様の言葉にシャロとレベッカ様は深く同意した。
「マリアン様もそう思いますよね」
うんうんと頷いてくれるのはありがたいが、なんだか恥ずかしいなぁと思っていると、休憩から戻ってきたフィリア様が見えた。
「夫人……帰ってなかったんだ」
「帰れないでしょ、恥ずかしくって」
シャロの言葉の真意が分からずマリアン様と首をかしげていると、レベッカ様がうんうんと頷き説明してくれた。
「自分の息子の元婚約者に言い負かされて逃げ帰るなんて噂たてられたらますます反感を買っちゃいますものねぇ」
「なるほど……いや、言い負かしたって私そんな勢いすごかった?」
「勢いはなかったけど、敵意はすごかったわね温度が下がった心地だったもの」
「うそぉ」
そんなに、と思いながらもさっきは頭に血が上ってたからなぁ、でもまぁ感情的になってしまったことは反省してるけど言った言葉に関しては後悔はしてないけどもと開き直る。
「まぁいいかぁ」
「でもやっぱフルルって人のために怒れるんだな」
優しいいい子だけれど、もっと自分のためにも怒ろうなと諭されるとシャロはうんうんと頷いていた。
「怒るの疲れるんですよねぇ」
「そこはマリアン様を見習えばいいんじゃない?」
シャロがいたずらっぽく微笑むと、マリアン様は頭を抱えていた。
「うっ……前科があるから否定できないわね」
「まぁまぁ、時効時効」
結構気にしてたんだなと思いながら、力なく微笑むと、マリアン様はすこし気まずそうにつぶやいた。
「本当にお人よしなのね、今度オルドリン製菓の高級ラインのお菓子送るわね」
「いいんですか?」
オルドリン子爵家のお菓子美味しいんですよねぇ……。しかも高級ラインって何使ってるんだろうと、のんきにわくわくしているときだった。
いつの間にか背後にフィリア様が立っていた。
けれど、その瞳は私やシャロたちではなくニーチェさんを睨みつけていた。
「……せいで……」
「夫人?」
「貴方のせいで、貴方がフルストゥルちゃんを誑かしたくせに、資産も大したことない男爵家の癖に………………」
フィリア様は、近くにあったグラスを手に取ると、思い切りそれをニーチェさんに投げた。
その瞬間、周囲の方々の悲鳴が上がったものの、当の本人であるニーチェさんは涼しい表情のままだった。
「……たしかにうちは男爵家で、名のある貴族に比べたら、資産は少ないかもしれません。」
「そうよ、フルストゥルちゃんは今まで、うちに嫁ぐためにどれだけ努力したことか、それをこんな男に取られるなんて」
「……先にフルルの努力を踏みにじったのはそちらなのでは?」
その声にはいつもの優しさは微塵も感じられず、冷ややかな軽蔑が上乗せされていた。
「フルルって……なれなれしいのね」
「えぇ、信頼されてるので俺は」
暗にお前の息子と違ってな、といってるのが分かったのか、フィリア様は反論しようとするがそれはニーチェさんに遮られた。
「いくら優しいフルルでも、会うたびに罵詈雑言を投げかけて、心配したら暴力を振るわれる……。挙句不貞三昧、私と出会わずとも、見切りをつけられていたのでは?」
「このっ」
パンっと聞きたくない音が聞こえた途端、ニーチェさんがフィリア様に叩かれてしまった。
……流石にこれは、図星だったからとか、ついとっさになんてことでは許せない、そう思った瞬間、心に再び冷たい感情が浮かび上がった。
「……あなた方のそういうところが嫌いなのです」
「フルストゥルちゃん?」
私の発言に、フィリア様は心底不思議そうに、幼い子供が自分が、なんで怒られているかも分からないような表情をしていて、さらに私の暗い感情を増加させた。
「どうして、自分の思いどおりにならないというだけで、すぐ暴力に訴えるんですか?それが礼儀ですか?」
「あ……ちが……」
うろたえても、言い訳を聞く気にもならず、私はフィリア様に詰め寄る。
「何が違うんですか、何も違いないですよ。私がレヴィエ様にされた仕打ちも、今、フィリア様がしたことも、何も嘘偽りはありません」
「フルル、俺は大丈夫だから」
あまりの私の怒りに、叩かれたニーチェさんがその場を収めるために、私に大丈夫だといって納めようとするが、割れたグラスと赤くなったほほに、ぬらされたスーツが目に入った瞬間、殺意めいたものが駆け上がる感覚のまま、私は口を開いた。
「ニーチェさんが大丈夫でも、私は許せません、絶対許しません」
「……そうよねぇ 許せないわよねぇ、私も同意見よフルルちゃん。」
その意見に賛同したのは、他でもないパールをふんだんにあしらわれた、美しくも可憐な水色のドレスを着たアイン様だった。
アイン様は美しい表情を曇らせず淡々と告げた。
「貴女……ニィリエが、私の側近って知ってるはずよね?」
冷たい毒を孕んだ微笑みで告げるアイン様をよそに、フィリア様はただ固まっていることしかできなかった。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




