ぼんやり令嬢は夫人とお話するようです
「ヨハンナ様がお認めになったわ」
ヨハンナ様が、他人の色恋についてここまで明言をすることは珍しいのか、周囲はさらに色めきだった。
「やっぱり、王女の側近は由緒正しき家門がいてくれた方が、安心だものね」
「それにハイルガーデン家って男爵家だけど、その資産って子爵家を超えるそうよ」
「だってフロルウィッチ人気ですもの……」
あぁ、よかったニーチェさんに対しても友好的……にならざる得ないか、でも嫌々言っているようでもないようだし、と安心していると、今度はニーチェさんが質問攻めにあっていた。
「それにしても、セレスのドレスなんて、本当に令嬢を大事にされてるんですね」
「えぇ、本当は全部、私がそろえたかったんですけど」
「相手は英雄姫様ですもの、無理もないですわ」
当たり障りなく、誰も不快にすることなく、会話を続ける能力のお陰か、雰囲気は全然崩れていなかったが、どなたかが爆弾を投下した。
「令嬢のどんなところが好きなんですか?」
…………あぁ、これは詰みましたわぁ、私たち仲がいいとはいえ、私お世話しかされてないからなぁ、でも優しいから息するように褒めてはくれるけれどもと、うんうん唸っているもののニーチェさんはさわやかな笑みのまま続けた。
「気が利くところは勿論ですが、自分の能力をひけらかさない控えめさと、誰にでも平等に優しくできるところもですが、どんな時も礼儀を忘れないところ、他人のいいところをちゃんと見ているところですかね」
「まぁ、まぁまぁ」
「本当に令嬢のことを、よく見てるんですね」
恥ずかしいというより、ここまで褒められるとどう対応していいか分からず、固まっているとこちらにも質問が飛んできた。
「令嬢は、彼のどんなところが好きなんですか?」
「ひぇっ……」
「ひぇ……?」
思わず漏れてしまった声に首を傾げられ、慌てて何事もなかったように、あたりさわりのない笑みを浮かべて、本人が見てる前で言うのは気恥ずかしいが、なんとか言葉を紡ぎだした。
「ぁ…ニーチェさんは優しいです。」
一言、口からその言葉が出たら、自分でもびっくりするほど言葉がするする出てきた。
「いつも、私が無理してないかとか、なにか苦労してないかとか、いつも気にかけてくれて、卑屈な私にもいやな顔せず、いつも優しい言葉をかけてくれますし、私のことをちゃんと見てくれるところです……。いや、もっとあるんですけど、私の語彙がなくてその……」
「フルル……あーうん、ありがとうな」
照れてるのか、少しいつもより歯切れ悪く返答するニーチェさんと、いった本人の癖に照れてる私をみて、周りはもっと盛り上がっていった。
「フルル、やったわね」
「シャロ、ありがとう」
「でも私も、ニィリエさんとの方がお似合いだと思うの」
レベッカ様は言った後なにかに気づいたのか慌てて首を振った。
「いや、フルストゥル様が、侯爵夫人になる素質がないというわけじゃなくて」
「あ、全然素質ないんで大丈夫です」
何をいまさら、と思いながら気さくに笑いながら続けるも、シャロに、笑顔でそれは速攻で否定された。
「いつもより綺麗な格好で、堂々と自己否定するんじゃないの、はいレベッカ様続けて」
「はい、一年生の最初のころ、フルストゥル様が半月ほど休んだでしょう?そのころ、授業の関係でよく上級生のクラスに行くこともあったんです。」
「その時、レヴィエ様がたくさんの女生徒に囲まれてたのを、見たことがあったんです。」
「ねぇ、レヴィエ様婚約者寝込んじゃったんでしょう?優しくしなくていいの?」
「いいって、アレは少し休めばすぐ機嫌が直るさ、全くこの程度で休むなんて恥ずかしい」
「ですよねぇ」
そんな会話を聞いたのだった。
けれど、その頃はまさか、婚約者が私だなんて知らなかったそうだが、休んでる婚約者の心配をしないどころか、嘲笑するなんて、なんていう男だろう、と呆れてしまったのだったそう。
……いやぁ、流石にちょっとくらい心配してくれてもよくない?胃薬速達で送るとかでもいいからさぁ、とのんきに思っている私とは相反して、レベッカ様は心配そうに続けた。
「それにあの方、いつもフルストゥル様を見下していたでしょう」
「あぁ、まぁねぇ」
今思えば、あの時点で誰かに相談してればよかったかもなぁ、とのんきに考えていたがレベッカ様は心配そうに続けた。
「それに、なにより婚約破棄してからの方が明るくなられたもの」
「それはそうね」
シャロは深く頷くと嬉しそうにほほ笑んだ。
このまま和やかに終わって、周囲の圧倒的祝福ムードから、フィリア様が私のことを諦めてフェードアウトしてくれれば万々歳だな、と思っていたが、そこまでことはトントンと進まないようだった。
「久しぶりね、フルストゥルちゃん」
そうほほ笑むフィリア様の瞳は、当たり前だが笑っていなかった。
少し恐怖を感じたが、表面上には見えていなかったらしく、私は丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです。ブランデンブルク侯爵夫人」
「そんな他人行儀にいわないで?悲しくなっちゃうわ」
少し演技のかかった言い方と、今にも泣きだしそうな表情で夫人はそういうが、不思議かな、心はあまり動じず、あるのはただの拒絶だった。
「みたい、ではなく、私たちはあの日をもってして他人になったのです夫人、ご理解いただけるとありがたいです。」
自分でも驚くほど冷たい声音で告げると、シャロとレベッカ様も少し驚いた表情をしていたが、夫人は私の一言で何かが切れたのだろう、不愉快という感情をかくすこともなく私ではなくシャロとレベッカ様を睨みつけた。
「昔はそんなこと言う子じゃなかったのに、いったい誰の影響なのかしら?」
「……何が言いたいんでしょうか」
「友達選びは慎重になさいと、お姉さまにも言われてたでしょう?フルストゥルちゃん、女の子は貞淑でいないと」
夫人はそういうと、意地悪そうに口角を吊り上げた。
「女の子なのに、剣術や錬金術にかまけてる子や、権力を振りかざすような子と付き合って……」
それが二人のことを言っていることを察した私は、頭に血が上るを通りこして、この女を許してなるものかと、冷たい怒りが心を埋め尽くしていた。
「取り消してください」
「え……?」
呆気に取られている夫人に、私は冷たく告げる。
「今の言葉を今すぐに取り消して、二人に謝罪してください。」
あぁ、こんな感情的になってはいけないのに、他人にこんなことを言ってはいけないのに、不思議かな、罪悪感なく冷酷な態度で、表情でいとも簡単にできてしまう、固まっている夫人に私はさらに続けた。
「それができないなら帰ってください。私のことならいざ知らず、友人を侮辱するような方と話したくないです。」
その言葉を聞いてようやく夫人は頭を下げた。
「っ…………言葉が過ぎたようです。申し訳ありません。」
「いえ、夫人頭を上げてください」
「私たちは大丈夫ですから」
頭を下げる夫人にびっくりした後、二人は空気を気にしてか遠慮しながら夫人に促した。
そうすると夫人は、居心地が悪くなったのかそのまま場を後にしようと、うつむいたまま告げた。
「……少し、休みます」
そうして夫人が休憩室に行った後、二人はとても驚いた表情をしていた。
「フルル、すごいわね。あの夫人を黙らせるなんて」
「いや、感情をコントロールできず恥ずかしい……」
シャロの言葉にそう返すと、レベッカ様は首を振ったあと、私の手を握ってくれた。
「そんなことないです。私とても嬉しかったです。」
「私も、ありがとうフルル」
ちょっと言い過ぎたかな、と思ったものの、先ほど夫人に言った言葉は本心だったし、我慢しなくてよかったな、と二人の笑顔をみて確信した。
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