ぼんやり令嬢とガーデンパーティー
「夫人、ごきげんよう」
「皆様、お集りいただきありがとうございます。今日は楽しんでいってください。」
ヨハンナ様がそう言うと、タイミングを見計らったかのように、飲み物や軽食がのせられたワゴンがきた。
流石公爵家、美味しそうなだけでなく、一つ一つ花を模していたりするのは、センスがいいとしか言いようがなかった。
「さぁ、皆様グラスをお取りください」
給仕に渡された、スパークリングドリンクからはほんのり薔薇の香りがした。
これもロゼットロアの薔薇なのだろうか、と眺めているとニーチェさんは呟いた。
「流石、ロゼットロア。これ去年の品評会で優勝した薔薇だろ?」
「え?それをこんな沢山?」
すっごぉい、と間抜けな感想しか出なかったが、そんなことはよそに、ヨハンナ様がグラスを掲げた。
「では、この良き日に乾杯」
「「乾杯」」
そうして、ガーデンパーティーは幕を開けた。
ていっても、私はニーチェさんの隣でつったてるだけかなぁ。
シャロとたくさん喋れればいいなぁと思っていたのだが、ホスト側のシャロは少しやることがあるようで、シャロが落ち着くまで私は、夫人や令嬢らに質問攻めにあうことになってしまった。
不幸中の幸いは、王宮でいろんな方々と接しているからか、以前よりかはひるむことなく受け答えれるようになったのと、常にニーチェさんが隣にいてくれるので、しれっと助け舟を出してくれることがとても救いだった。
「フルストゥル令嬢はツィリアーデ様と姉妹というのは本当ですか?」
「えぇ、年が離れているのと、あまり似ていないからよく聞かれるんですよ。」
「確かに令嬢はチェーザレ様に似てますものね。」
というあたりさわりのない会話や。
「婚約破棄の件、聞いております大変だったでしょう?」
「その件はご心配かけて……」
とさらりと流そうとすると、やっぱり人の色恋沙汰は気になるのか、次から次へと質問攻めにされたが私が困っていると、ニーチェさんが引き寄せて答えた。
「あまり、私の婚約者をいじめないであげてください、彼女はこういう場に慣れていないので」
「あぁ、ごめんなさい」
「あは……大丈夫です。」
悪意がある、とはいってもブランデンブルク侯爵家に対してだとは思うが、それの出汁に使われるのは避けたいので、ニーチェさんには本当に感謝しかなかった。
「そういえば、その宝石はどこのですか?アーレンスマイヤ伯爵の新作ですか?」
そう指さされたのは、ミドガルド様から頂いたミントグリーンのペンダントだった。
「あぁ、これはミドガルド様から頂いた魔石です。」
正直に答えると周囲はわっと盛り上がった。
「ミドガルド様から下賜された……?」
「あの、ミドガルド様から?」
「えぇ、いつものお礼だと」
馬鹿正直に答えると、またさらに周囲は盛り上がった。
あぁ、やっぱり、みんな英雄姫であるミドガルド様のことお好きなんですねぇ、あぁ語りたい……。
ミドガルド様、あのかっこよさで、実は甘党なんてハチャメチャ可愛くないですか?とか、よく王妃殿下に、もはや呪いみたいなそのカリスマ、なんとかしなさいっていわれてちょっと驚かれてるとことか、本当に可愛いんですよ、とか、でも何より強者ゆえの慈悲深さというのか、そういうのが垣間見えると、うっかり心捧げちゃいそうになるとか、言いたいのを抑えて抑えて、終始ほほ笑むだけにとどめている自分を、後で自分でほめよう。
……と考えていると、やっぱり私があまりこういった場に来ないのもあるせいか、事情をあまり知らない方々からも質問された。
「フルストゥル嬢は、普段、王女様の側でどのような仕事をされてるのですか?」
「えっとぉ……」
大したことじゃないですよ、と答えようとしたらまさかのニーチェさんに遮られた。
「彼女には主に、貴賓の方々の給仕や、私の書類仕事の手伝いをしていただいてます。」
「あら、そうなんですか?」
そこで話は終わるのかなと思ったものの、ニーチェさんは私の肩に手を置いて続けた。
「彼女の仕事はとても丁寧ですし、かなり、異国の歴史や文化にも明るくてとても助かってます。何より彼女は、異国の言葉を道具なしに読み書きだけでなく、問題なく行えますから。」
「まぁ、それはそれは」
「彼女のおかげで、快適に業務を行えてるんですよ。彼女には感謝しかありません」
ニーチェさん、私のことあまりにも褒めすぎなのではと思ったが、慣れないものの、嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、ちゃんと私のことを見てくれていることが嬉しいな、と思ってしまった。
「皆様、ごきげんよう」
「シャルロット嬢、本日はありがとうございます。」
いろいろ仕事が終わったのか鮮やかな、けど強い印象を与えすぎない、可愛らしいピンクゴールドの光沢のあるドレスを着て現れたシャロは、いつもと違うヘアセットも相まって、薔薇の妖精にしか思えない。
控えめに言って最高だなぁ、と感動していると、シャロは優しく微笑んだ。
「いえいえ、彼女は私の親友なんです。お手柔らかにお願いしますね?」
「はい」
……一瞬にして、この場の主導権をあっさり握ってしまうあたり、ヨハンナ様の血を感じずにはいられなかった。
「……それにしても流石セレスのドレス、国宝級とはこのことですね。」
「えぇ、それに令嬢によく似合ってますもの、誰が選んだんですか?」
「それは自分が王妃殿下と」
ニーチェさんがそう言った瞬間、その場が凍った。
そりゃそうだろう、いわば私たちの関係を、王妃が後押ししていると暗に言ってるようなものだ。多分、王妃様的には、息子の同級生くらいしか思ってないだろうけど、受け取り方は自由なので、勝手に解釈してもらうとして、こちらへ視線が一気に集まってきてしまった。
その視線に戸惑いつつ、自分を落ち着かせるために、自身の着ているドレスを改めてみていた。
あっこれ、ミントグリーンだけじゃなくて、淡い水色とラベンダーが淡くグラデーションされてるし、オフショルダーと思わせて、首までうっすら蝶々の刺繍のレースがあるし、みればみるほど発見があるなぁと心を飛ばしていた。
ちなみに、髪に散らされている花のような飾りは、伯父様の見立てだがすごくきれいだったなぁ、後でちゃんと見ようと、ぼんやりしている間に私抜きでも、話がものすごく盛り上がっていてほっと息をつくと、ニーチェさんに促され、テーブルのところまで行くと、よく見知った顔があり思わず声をかけてしまった。
「レベッカ様」
「フルストゥル様」
ミモザのように鮮やかな黄色いドレスを着たレベッカ様は、こちらからの声掛けに、嫌な顔せずほほ笑んでつづけた。
「ふふ、みんなフルストゥル様の話ばかりしてますね。」
「こっちは気が気でないです」
「まぁまぁ、何も食べれてませんよね?よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。レベッカ様」
そういいながらレベッカ様は、トレイにサンドイッチやクッキーなどをのせてくれた。
「ニィリエ様は……」
「様なんていいよ、俺の方が爵位は下だし」
「いえいえ、王女様の側近であり友人の婚約者候補ですもの、礼は尽くさせてください。」
レベッカ様はそういいながらも、ニーチェさんにもトレイを渡した。
「今日は記念日ですねぇ」
「え?何のです?」
「レベッカ様に、友達って言われた記念です」
「まぁ、フルストゥル様ったら」
そんなやり取りを見ていたニーチェさんは、妹を見守る兄のような表情で
「よかったなぁ」
と呟いていた。
そうして、シャロも合流して楽しく話していると、ヨハンナ様がこちらへ近づいてきた。
「ふふ、仲睦まじいようで何よりだわ。」
「ヨハンナ様、本日はお招きありがとうございます。」
「いいのよ、それより本当にあなた方ってお似合いね、応援してるわ」
その言葉一つで、その場はさらにこちら側に傾いたのを、肌でひしひし感じたのであった。
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