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ぼんやり令嬢といいがかり

私のせわしない休日の話を聞いたシャルロットは、どこか楽し気に頬杖をついたまま口を開いた。

「へぇ なんだか濃い休日だったみたいね」

「濃いよぉ 無糖のコーヒーくらい濃いよー」

「わかりそうでわからない例えやめなさい」

 

呆れながらツンツン、とペンの頭でほっぺをつつかれる、我々の業界ではごほうびです。

シャルロット可愛いし、使ってるペン高いやつだし、ありがとうございますの極みですわ。

 

「じゃあ私 次の授業法学だからいくよ」

「遠いよねぇ 第二学舎だっけ?」

「そうそう、こんなことならあんたと同じ異国神話学にすればよかったわ・・・まぁ歴史とかそういうの、あんま好きじゃないけどねぇ」

「結構範囲広くて、あれはあれで大変なんだよー」

「あぁー……それもそっか、じゃあね」

「ん、じゃあね」

 

シャルロットに手を振って送り出したあと、次の授業の支度をしながら、ぼんやりそとを眺めてたそがれていると、控えめに肩をトントンと叩かれた。

「フルストゥルさん、ちょっと」

「うん?」

クラスメイトが困ったように声をかけてきて、何事かと思えば、視線の先には見たことがあるようなかわいらしい桃色の髪に、若緑の瞳をした女生徒がいた。

リボンの色からして上級生であろう彼女は、本来可愛らしいであろうお顔に、につかわないほどの怒気を孕んだ表情をしている、腹立たしげに足踏みをし、私含めクラス中がただらぬ空気の中それをさらに助長させるように、女生徒が大きい声をあげる。

 

「ちょっと、はやくしなさいよフルストゥル・ベルバニア いるんでしょ」

と敵意むき出しで叫ばれ驚愕と、何故こんなふうになっているのかわからずに、肩をおとした。

誰ですか、貴女は?と言う問いを呑み込み、なるべくイヤだなぁという顔をしないように、柔らかく笑い、カーテシーをする一瞬、クラスがざわついたが気にしないで続ける。

「ごきげんよう、私がフルストゥル・ベルバニアですけれど何かご用件がおありでしょうか」

「…お上品ぶって 嫌な女ね」


礼を尽くしたら暴言はかれるのは、さすがに辛いなぁ、もうなんなんだこの人。

もうめちゃくちゃだわぁ、こういうときに限って担任もシャルロットもいないし。

なんなら顔面国宝ギャラン様も不在。

クラスメイトらは、遠巻きに心配と好奇心が混ざった表情をしている。

わかるよ、私が同じ立場ならそうするもの。

「不快にさせたのなら申し訳ありません」

「ふん」


顔を背けたと思えば、思い切り手首を掴まれずんずんと進んでいった。

「わ、ちょっ」

「トロいわね」

どこにそんな力があるんですか、と聞きたいくらい手首は圧迫されるし、歩幅も歩くペースもはやすぎて圧倒されるうちに、人気のない階段の踊り場につくと壁際まで追いやられた。

「あの…いったいなんなんでしょうか」

「私はマリアン・オルドリン レヴィエには新興派同士でとても懇意にされているの」

「あぁ、子爵家の……」

 

 そこまで言いながら頭の中で、いや上級生だとしても、マナーとかめちゃくちゃすぎませんかね?

 一応うちみたいに古いだけの家門よりかはよっぽど貢献しているけれども、うち一応伯爵家なんだけれど、いや学院内だからそんなことは気にしなくてもいいのかなぁ。


 それにここ最近は、いろんな人が様々な功績で爵位をもらってたり、階級が上がってたりするし、キャシャラトは良くも悪くも実績さえあれば、上納金なしに爵位を授与されるから男爵、騎士爵位、子爵位もちは長い歴史を見ても、ここ百年で増え続けている。

 

 その結果、社交界で基本となるマナーをしらない方々が多いのが一時期問題になって学院の授業に淑女教育やマナー、社交が組み込まれてるんだっけな。

幸い私は、小さい頃からの教育と、月一に侯爵家での教育のおかげで苦労はしてないけど、結構新興派閥は苦労してるみたいだし、私年下だしとやかく言うのもなんかちがうよなぁ、と首をかしげている私なんか気にも留めてない様子で、彼女は続けた。

 

「これを見なさい」

 得意気な笑みで無理やり見せられたそれはダイヤモンドが3個連なった美しいネックレスだった。

叔父さんの店でかったのだろうか、なんて考えていると彼女は得意気に胸を張った。

「これはレヴィエ様にもらったのよ 彼からは沢山おくりものをもらったわ」

「はぁ、そうですか」


だからなんなんでしょうか、よかったねぇとか言えばいいんでしょうか。

こう適度な羨ましがりかたとか、ちょっとわからないんですけど。

こんなドレスや、あんなアクセサリーやら、どこそこにデートしたとかの自慢大会が終わったとたんに自信満々に指をさされた。

……あの、これマナーの先生が見てたらばちぎれよ?と心の底から言いたいのを我慢しつつ、抵抗せず聞きながす。

 

「私の方が愛されているのよ、貴女なんてどうせ家同士が組んだ形だけの婚約者でしょう」

「まぁ、そうですけど」

 

素直に答えると彼女は勝った、とばかりに腕を組んで得意げな表情をする。 

……もういいよ、あなたの勝ちでよくわかんないけどおめでとう、おめでとうよかったねぇ。

 

でも補足すると、貴族同士っていまだに結構そういうの多いんですよ。

今では自由恋愛が主流ですしそこまで階級意識とか、選民主義とかそういうのはだいぶ薄れてますけど、政界に進出したいとか、後盾がほしいとかになってしまうと、家と家のつながりって大切なんですって結構。

うちの両親も、姉も、恋愛結婚だけど、否定するのもなんか違うしなぁ。

どっちにしろ、本人たちが納得しているならいいんじゃないかな、

ぼんやりそんなことを考えていると、彼女は腹だたしげにそっぽをむいた。


「嫌味な女、余裕ぶっちゃって、どうせアンタも私のことを成金貴族だなんだって見下してるんでしょう」

「見下すとかそれ以前というか」

「やっぱりバカにしてるじゃない」

そう言って怒りのままに振り上げられた掌を、反射的に防御するが、それは私に届くことはなかった。

「…お?」

「何をしている」

私の間抜けな驚きと同時に、意味の分からない暴力が炸裂することはなく疑問に思い、

反射的につぶっていた目を開けると、気づかなかったがいつの間にか、婚約者の背中に庇われるような形となっていた。

それを見て彼女は、さらに怒りのメーターが上がったように後ろにいる私を指差す。

こらこらやめなさいって、と突っ込む気力すらない私に敵意むき出しにこたえる。

 

「この女はレヴィエ様に相応しくありません、こんな野暮ったい田舎娘との婚約なんて破棄すべきです」

……すごい 罵詈雑言いうじゃんこの人、とここまでくるといっそ心が冷えてきて乾いた笑いさえ浮かんでくる。

すごい自信がおありで、いや まぁ事実か、事実ですわ。

だって貴女巨乳だもん、あとなんかいい匂いするし、お似合いなんじゃないですかねぇ、私は止めませんよ。

 

「君は華やかなのは認めようマリアン、最近オルドリン子爵家が勢いに乗っているのも事実だ 」

そこまで言うと、彼女は得意げな表情に自信をさらに加味させた。

それに怒りや悲しみやらは一切わかず、むしろですよねぇ、と同意しながら明後日にでも婚約破棄の相談をしようかしら。とりあえず実家に報告かなぁそのあと役所に行ったりとかしないとな、と算段を立てていると予想に反したことを婚約者様は続けるのであった。

 

「品性は劣るようだ。下級生を呼びつけて罵詈雑言を浴びせ暴力を振るおうとするとは呆れたものだな」

まじか、この男上げて落とす天才なのでは?

私、上げられたこともないけどこれは辛いでしょうよ、見なよあれ顔面蒼白よ?

かわいそうに、誰か保健の先生よんであげて?

……私しかいないけども。

 

「な……な…」

「来るときに聞いたが、大声で叫び散らしたらしいじゃないか?下品にもほどがある」

 それに、と続けようとする婚約者様を見て、もうこれ以上は心が壊れてしまうのでは、精神崩壊すらしかねないとおもい、おずおずと手を上げると黙ってろと言わんばかりに眉をひそめられたが、気にしないふりをして続ける。

 

「幸い私には婚約者様のお陰で傷のひとつもないですから、これ以上責めなくても大丈夫です」

すると、上級生はさっきまで真っ青な顔をしてたとは思えないくらいの元気さで、私に向き直った。

「なんで私を庇うのよ」

「いやかわいそうだなぁって」

「同情はいらないのよ」

 

 食ってかかろうとする彼女を見て、思ったより元気そうだな、と少し安心しつつハンカチを渡した。

「まぁでもハンカチどうぞ」

「ふんっ」

「あ、そこは使うんですね」

私の言葉を無視しながら、ごしごしと目を拭く彼女に見向きもせず、婚約者様は忌々しそうにこちらをにらみつけたまま、さっさと教室に戻っていった。


……自分が蒔いた種のくせになにがしたいんだ、この人は全く、と、心の底から呆れることしかできなかった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子爵家の娘が、伯爵家の娘に文句を言う。それも婚約者に対して、私の方がふさわしいとの文句。色々とあり得ないように思えますが、周囲の人たちは何とも思わないのかな?
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