ぼんやり令嬢とお姉さまと、優しさのはき違え
療養期間が一応今日で終わるんですが未だに微熱と咳がひどいです。皆様も本当気を付けてくださいワクチン打ってても結構辛いです。
「へぇ、フィリップス辺境伯子息がねぇ」
「まぁ、恩を感じての行動みたいなんだけどそれで誤解されちゃったみたい。」
約束どおり、お姉さまとお昼を一緒にサロンで食べていると、どうしてああいったことになったのか経緯を説明すると、お姉さまはふぅとため息をついた。
「オルハとかから、王女付きの人と良い感じって聞いたけど、まさか学院でもいい感じな方がいるなんてね」
「いい感じってそういうのじゃないよ。」
「でもさ、ダンスが踊れるようになった恩があるとはいえ、ここまで尽くさないわよ?せいぜい高い菓子折り送っておしまい、ってのが普通じゃない」
「確かに……」
言われてみれば、と驚く私にお姉さまは肩を落とした。
「フルルはさ、小さい頃から私より厳しく育てられたから、あまり周りに目をむく時間がなかったかもしれないけれど、私はフルルの自分に無頓着な所が心配よ。」
「……ごめんなさい。」
「怒ってるわけじゃないのよ。ただ、心配してるだけだからね」
頭を撫でながら、そっと優しく姉さまは抱きしめて続けてくれた。
「ねぇ、フルルは、フルルが思っているよりできる子なんだから、もっと自分に自信もっていいんだからね?」
「お姉さま、ありがとうございます。」
「あと、もっと怒ったっていいんだからね、フルルお父様に似て怒らなすぎ」
「……はぁい」
お姉さまは年が離れているせいか、お兄様にもだけど、私にはうんと優しい、多分、小さい頃に婚約して、ずっと淑女教育を受けていた私に、かなりとくに優しい。
自分と比べて、だいぶお母様に怒鳴られてるのを、見てきたからだろうか、それはお姉さまが気にすることじゃなくて、そもそも私があまりにも物覚えが悪すぎただけで、気にしなくていいのになぁ、とはいえ、昔から優しいお姉さまのことが好きだからあえて言うことではないか。
「よしよし、最近王女様のところで頑張ってるみたいだけど無理はしてない?」
「ん、大丈夫」
お姉さまがおごってくれたアイスココアを、ちまちま飲みながら頷くと、お姉さまは、いつもアイン様が、私とニーチェさんの並びを見てるときみたいな、笑みでこちらを見てきた。
「で、ニィリエさんとはどうなの?」
「……とっても優しくしてくれるし、なんでも褒めてくれるし、困ったことがあったらいつも助けてくれる」
「へぇ、そうなの」
「多分私じゃなくても、困ってる人がいたら、誰でも助ける人なんだと思う」
だから、勘違いしてるわけじゃないよ、と暗に伝えるとお姉さまは考えてから口を開いた。
「そこまで卑屈にならなくてもいいと思うけど、好きでもない子に、男は優しくしないわよ」
「ううん、そうかなぁ」
そうこうしているうちにお昼休みが終わりかけ、お姉さまと別れ教室に戻り、午後の授業を眠気に負けじと何とか受け、ようやく迎えた放課後。
ニーチェさんの迎えを、玄関ホールで待とうと図書室からでてゆっくり向かっていると、廊下の柱の陰で、朝あったあの令嬢たちと何か話している様子が見えた。
何か取り込み中かな、こういった話はあまり聞かれたくないだろう。
迂回して教室に戻ろうと、するとふいにバーナード様の声が聞こえた。
「君の気持ちは嬉しいが、恩人に寄ってたかって言いがかりをつけるような女性とはつきあえない」
……それって朝のことなのでは、と謎の罪悪感に襲われて、思わず前に出てきてしまった。
「お言葉ですがバーナード様、それは誤解です。」
「ベルバニア伯爵令嬢……」
「フルストゥルさん」
突如現れた私におのおの驚いているが、私はそれに構わずバーナード様に向き合った。
「私は言いがかりなどつけられてませんし、何も傷ついてません、この子の感情と私のことは切り離して考えてください」
「それはできません」
頼むよ、そこは引き下がってくれよ、と頭を抱えながら、この騒動をどう収めようと考えあぐねていると、急に両手をバーナード様に握られてしまった。
「俺は、あの授業から、いやもっと前から」
「あの、バーナード様……手が」
はちゃめちゃに痛いんですが、と半分涙目になり、おおよそいくら何でも、この先何を言われるのかうすうす感づいてしまい、バーナード様の勢いに飲まれないように大きい声をあげる。
「恩を好意を混同しないでください。」
「混同なんてしていない」
私の言葉が何かに触れたのか、バーナード様は語気を強めて、何なら手の力を強めて迫ってくる。
それを見てる令嬢らは、もう、どちらの味方をしたらいいかわからない様子で見守って、というより動けない状況だった。
とにかくこのままじゃ、私の手が使い物にならなくなる、という危機的状況を脱すべく、教師曰く、便利だけど武器にも脅威にもならない魔力で小さく氷を作り、突然の温度差に驚いたバーナード様の拘束を解いたはいいものの、力が抜けて後ろに転びそうになった途端に、後ろで誰かに受け止められた。
「遅いから何事かと思ったら……大丈夫か?」
「ニーチェさん」
だめだ、あまりにも安心しすぎて涙が出そうだ。
「ん、痛かったか?怖かったなぁ……」
真っ赤になった私の手を見ながら、ニーチェさんはいたわるように言うと、自分が勢い余ってしてしまったことを、信じられないように呆然としているバーナード様に告げた。
「なぁ、行き過ぎた好意は、ただの暴力にしかならないんだ。」
「あ……」
レヴィエ様に告げる時とは違い、優しく諭すようにニーチェさんはそういうと、バーナード様は、先ほどまでの興奮が落ち着いたのか、いつもどおりの紳士的な態度で深々と頭を下げた。
「フルストゥルさん……すみませんでした」
「いえ、大丈夫ですから」
若さゆえの、というか元をただせば、恩義が暴走しただけだから、敵意とか私を害そうという意思がなかったからか、手の痛みはそこそこあったものの、割とすんなりと許せてしまった。
「行こうか、王女が待っている」
ニーチェさんに促され、車に乗ろうとすると、三人いたうちの一人の令嬢が、ニーチェさんに問いかけた。
「あの、二人はどんな関係ですか?」
「ん?あぁフルルとは特別な仲だよ」
言い淀むことなく、さらりと答えると、そのあまりの見事さに見ほれたのか歓声が上がることもなくただただ素敵、と視線だけで訴えていたが、バーナード様だけかなりショックを受けた様子だった。
ここで、変に声をかける方が空気が悪くなりそうだと思い、そのまま車に乗ると、ニーチェさんが優しく手を見てくれた。
「あー結構真っ赤だな、大丈夫か?」
「あ……えっと、その」
びっくりしたせいか、安心したせいか、言葉に詰まる私がかなりへこんでいると思ったのか、ニーチェさんは頭を撫でながら優しく笑いかけた。
「今日、急ぎの仕事もないし、パンケーキでも食べてから行くか。」
「え?」
突然の提案に、どういうことかと首をかしげるも、ニーチェさんは、私の頭をぽんぽん撫でながら優しい口調で続ける。
「そんな顔じゃ、アイン様心配するからな、落ち着いてから行った方がいいだろ」
「う……ごめんなさい」
「怒ってないって、とりあえず行こうか」
あまりにも自然に優しくしてもらえてるから、まるで本物の婚約者になったかのように勘違いしてしまいそうになるが、そこは踏み間違えてはいけない。
ニーチェさんは、王女の命で私の偽婚約者を演じてくれているだけで、この優しさは特別ではないことを、改めて自分自身に再認識させた。
そのあと、二人で有名なパンケーキを食べてから王宮に行くと、アインは
「えー私の分は?」
と可愛らしくむくれられたが、今日はいろいろありすぎて、それを瞳に焼きうつす気力さえもわかなかったせいか、逆にアイン様は心配してきた。
「どうしたのフルルちゃん元気ないみたいだけど」
「今日は色々ありまして……」
とほほ、という感じで今日あったことを伝えると、アイン様は頭を抱えた。
「ううん、フルルちゃん、そういうちょっと性格に難があるひと引き寄せがちじゃない?アギラ式のお祓いとか行く?」
「行った方がいいんですかね?」
と、結局占いとお祓いを強く推奨され、翌日、バーナード様に土下座されてしまいちょっと本気でお祓いにいこうか考えたのだった。
フルルは基本敵意や害がなければまぁそういうこともあるか、で許してしまうし
それらがあっても謝ればまぁ、謝ってくれたしなぁで許してしまうところが割と裏目に出た回です。
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