ぼんやり令嬢とやっかみとチートお姉ちゃん
「おはようシャロ」
「おはよう、フルルそういえば聞いた?マオ先生の授業で竜見せてくれる話、ちょっと延期ですって」
「あれ?どうかしたの」
「なんかいいサイズの子が見つからないみたいよ」
「へぇーそうなんだ」
久しぶりのように感じるシャロとの雑談を、楽しんでいるうちにあっという間に教室に着いた。
「おはよう、二人とも」
「レベッカ様おはようございます。」
「フルストゥルさん、この前でた小説の新刊読みました?」
「あ、それはまだです」
「よかったら貸しますよ」
ここ最近、レベッカ様とも話してみてると、読書という共通の話題が見つかってそれから、ぐんと仲良くなれて、嬉しいなと思うのだった。
「あぁベルバニア嬢、おはよう、今日は迎えがちょっと遅くなるって、ニーチェさんがいってたよ」
「ギャラン様、おはようございます。いつも伝言ありがとうございます。」
「いいってついでだし」
どこの国に、王子についでのようで伝言頼まれる令嬢がいるんだろう、と肩を落とすも、多分アイン様がついでに言っておいて、と笑顔でギャラン様に言う姿が目に浮かんで、それ以上いうのは憚られた。
どこの国に、王女の命を断れなんて言う王女付き見習いもいないよな、と肩を落とした。
「皆さん、おはようございます。」
「バーナード様、おはようございます。」
普通に返したつもりなんだけど、硬直したまま、こちらをじっと見ているバーナード様が心配でもう一度声をかけた。
「……バーナード様?」
「あ、あぁすまない何でもない」
「大丈夫ですか?胃薬いります?」
カバンから素早く胃薬を出すと、ギャラン様が少し驚いた表情で問いかける。
「なんで胃薬を常備してるんだ?」
「胃痛対策です」
「あぁ……」
なるほどな、とかなり憐みの視線を落とされたが、あえてそこには触れないようにした。
それよりも、どこか心あらずなバーナード様が心に引っ掛かった。
なにか心配事があるなら力になりたいけど、私にできることなんてあるのだろうか、分からず首をかしげることしかできなかった。
確かに心配は心配だけど、他人がそこまで深く立ち入るのも違うよなぁ、と思いながら、移動教室の準備をした。
「フルル、学年跨がないからって、油断しないようにね」
「はーい」
シャロにそういわれて、もう一度魔道具をしっかりつけてから授業へ向かい、何とか無事に一限目を終え、教室に戻ろうとすると、三人くらいの令嬢にあのぉ、と控えめに声をかけられた。
「はい、私に何か用でしょうか」
やましいことは何もしていないけれど、以前マリアン様に言いがかりをつけられたこともあるし、やや警戒しながら答えると、それが冷たく映ったのか、びくびくとその令嬢は怯えながら答えた。
「あの、バーナード・フィリップス様と、どのような関係でしょうかぁ?」
あまりにもびくびくと震えられて、え、私そんな怖いかな?と戸惑い、その子の友人である令嬢も、私に敵意を向けるというより、その子に叱咤するような感じでいるからか、こちらも変に緊張せずに事実だけを述べた。
「バーナード様とはクラスメイトであり、チェルシー先生からダンスのペア組む様に言われて組んでから、仲良くしていただいております」
「……それだけですか?」
「?えぇ、なにか特別な仲ではございません。誤解を与えてしまったのなら謝罪します。」
多分、おそらく何となくだが、恋愛小説大好きな私の推察だと、この子はバーナード様のことが好きだけど、なかなか行動に踏み出せない。
でも、そんなことしてる間に、バーナード様が私に甲斐甲斐しく尽くし始めたから、いてもたってもいられずってところでしょうかね。
それは確かに、気が気でなくなっちゃうよな、と思い頭を下げるとその子は戸惑っていた。
「謝罪なんて、そんなっそんなつもりじゃなくてぇ」
「ほら、やっぱり勘違いだって、だって貴女のが可愛いし、大したことないじゃないこんな人」
「そうよ、バーナード様がこんなぼんやり令嬢相手にしないって」
と小声で励ましてるのかなんなのか、さりげなく私をけなしてるのを聞いて、あえて聞こえないふりをした。
おいおいおいおい、聞こえてるよー、聞こえてんだよー、私だったからまだいいけれど、シャロだったらとんでもないことになってるんだからやめときなって、と心の中でつっこみながら、これで私、金髪ないしは銀髪縦ロールとかだったら悪役令嬢にでもなれたのかななんてぼんやり考えていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あらぁー、フルルじゃない」
「お姉さま、どうして学院に?」
「あぁ、ちょっと旦那様の仕事がこの辺であってね?折角だから校内を見学させてもらってたのよ」
「あぁ、そうなんですか、お昼休みになったら案内しましょうか?」
そこにいたのは、ディルフィニウム侯爵夫人こと、アメジストの華、ツィリアーデ・ディルフィニウム、旧姓ツィリアーデ・ベルバニア、社交界でディルフィニウム侯爵と運命的な出会いを果たし、トントン拍子で侯爵夫人に収まり、その美貌とセンスの良さから社交界ではあこがれの的であり、私とは正反対に社交的な年の離れた姉だった。
「え、ツィリアーデ様、え?お姉さま?」
目の前で狼狽える令嬢らを見て、まぁそうなるよね、と肩を落とした。
私は目元と、このふわふわの髪質以外は、不愛想で何を考えてるかわからないうえに、寒色だからか、冷たい印象を与えがちなお父様に似ているのと、お姉さまと年が離れてるせいか、姉妹であることはあまり知られていない。
別に言いふらすこともする必要もないからねぇ、と思いつつ令嬢らに絡まれたことを伏せるも、お姉さまの目はごまかせないようだった。
「いいのよ、もっと面白いものが見れたから、まさか、白昼堂々と私の可愛い妹を貶すなんてどういうつもりなのかしら?」
「あ……いや、そのそんなつもりじゃ……」
お母様にそっくりのアメジストの瞳を、スゥっと吊り上げて、冷たい怒りを含ませ、お姉さまは何処からか出した扇子で口を隠し続けるが、その口元が吊り上がってるのが容易に想像できた。
「じゃあ、どんなつもりで私の、ツィリアーデ・ディルフィニウムの、可愛い可愛い愛してやまない妹を侮蔑したのかしら?」
あえて侯爵夫人であることを強調して、なおかつ私を溺愛しているということで、自分たちが侯爵家を敵にまわしたと思ったのか、彼女たちの顔色は悪くなる一方だ。
いや、だったら最初から本人を前にそういうこと言わなきゃいいのに、お姉さまは静かに静かに問い詰める。
「すごいわね、あなたたちはベルバニア伯爵家だけでなく、ディルフィニウム侯爵家も敵にまわせるほどの権力があるのかしら?すごぉい、どこの家かしら?もしかしてロゼットロアよりも資産がおあり?」
「あ、あのその」
もう、罰としては十分だろう、そう思い、お姉さまの肩にそっと手を置いた。
「……お姉さま、ありがとうございます。私は大丈夫です。彼女たちも本気で私を傷つけようとしたわけじゃないですから」
「フルル、あなたは優しすぎよ。でもまぁ、こんなのに時間を割くのももったいないわね」
こんなのって、と声には出さず肩を落とし、お姉さまに笑いかけた。
「今日はしばらく学院にいるんですか?」
「ええお昼まではね、それ以降は王宮で会合があるから、お昼は一緒に食べましょうねフルル」
軽やかに去っていく姉を見送った後、先ほどの令嬢たちが気まずそうに口を開いた。
「すいませんでした。フルストゥル嬢」
「言葉が過ぎました」
謝ってきたしそもそも、私も怒るような気力もなかったため、静かに淑女の礼をした。
「いえ、私の方こそ姉が失礼いたしました。」
確かにおいおい、とは思ったがお姉さまのせいでかなり委縮してしまって逆に申し訳ないな、と思い頭を下げ、これ以上大事にならないようにことをすましたが、流石に人の口に戸は立てられず、私とお姉さまが姉妹であることがあっという間に知れ渡ってしまったのであった。
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