眼帯従者はぼんやり令嬢が気にかかって仕方がない(ニーチェ視点)
初めて見たときの印象は、ロゼットロア公爵令嬢の後ろに隠れてることから、人見知りの気弱な令嬢だと思っていた。
そのあと、社交界でもお目にかかれないくらい綺麗なカーテシーとともに、告げられた名前は少し古い響きでとても奥ゆかしく感じたのと、課題に書かれた文字がとても綺麗だなくらいだった。
まさかここまで心配して気にかけるような存在になるとは当時思っていなかった。
目の前で何にも悪くないのに、罵詈雑言を投げかけられ、それでも、毅然と向き合う姿ははたから見たら凛々しいが、理不尽極まりないだろう。
ましてや、それを婚約者からされるって信じられないし、許せないだろう。
挙句の果て、友人を庇った彼女に、暴力を振るおうとしたとき、あまりの傍若無人さに、怒りそうな気持を抑え、いやあれは抑えられてなかったかもしれないが、なんの罪もない令嬢を暴力から守れたならいいだろう。
「あぁ~あのガキむかつくぅ~~」
「ニィリエ、うるさい」
昔から仕えているからか、もはや兄妹のような関係になりつつあるアイン王女に、たしなめられながら、作業を進めているも、思い出せば思い出すだけあのバカ侯爵子息の言動を思い出し、イライラが止まらない。
思わず頭を搔きむしるも、アイン王女は顔色を変えずに聞いている。
「なんで自分の婚約者にあんなひどいこと言えるんだよ、わけがわからない……」
すると王女はきょとんと赤い瞳を開いた後何かに納得したように頷いた。
「……世の中、ニィリエみたいな男だけだったら平和なのにね」
「……馬鹿にしてる?」
「してないよ。世の中ね、婚約者や恋人を、自分の道具のように好きにしていい、って思ってるゴミみたいな男はたくさんいるのよ」
信じられないけどね、といいうつむくと、あまりの理不尽な存在がまかり通ってるのが信じられなかった。
「そんな男ども絶滅してしまえよ」
「そこは同意するわよ。」
アイン王女は、ふぅと優雅にため息をつくと、ぼそりと呟いた。
「……何とかしてあげたい気持ちは、分かるけどね」
あまりの理不尽さに思うところがあったのだろう、珍しくそういうも、あまり他家のことに干渉できないからか、それ以上、それについてなにかいうことはなかった。
他人事とは言え、あんな当たり前に困ってる人助けれる、真っ先に友人を庇える善良な令嬢が、なんで、あんな理不尽な目に合わなきゃいけないんだ。
世の中に対する、理不尽への怒りだけがふつふつとわいていた。
それからしばらくして、必要なものの買い出しに行った帰り、王都の近くでフルストゥル嬢をみた。
その表情は、疲労と落胆と失望が色濃く映っていて、白い肌は心なしか青白く見えた。
「大丈夫か、元気ないみたいだけど。」
そう聞くと、しどろもどろになる様子をみて、そういえば、このあたりにブランデンブルク侯爵家があったなと思い返す。
……また、嫌なことでも言われたのだろうかと、思わず心配になった。
そのあと、雨が降ったせいで店で雨宿りをしている間も、自分を卑下する言葉が気にかかった。
母さんの言った言葉のとおり、もっと素直に賛辞は受け取っていいのに、と思っていたから、それを素直に聞いてくれて助かった。
まぁまさか、フルストゥル嬢があの後、自分が探していた多国語を自由にしゃべれる令嬢と知ったのは、驚きだったが、そのおかげかすぐにアイン王女が気に入り、一緒に仕事することになった。
慎ましく、ゆっくりだが、一つ一つの仕事は丁寧にこなすし、慣れてくると下女がやるようなお茶くみや、ごみ捨てなども、率先して嫌な顔をせず行ってくれる。
その姿は好感しかなかった。
しかも、この時点でもはや自身の力で証拠を集め、婚約破棄の準備が整ってたのを知ったときには、思わず驚いた。
「なんていうか、能ある鷹は爪を隠すを地でいくんだなぁ」
「ふふ、ますます気に入っちゃった」
と、アイン王女と感心してしまった。
その後、ブランデンブルク侯爵家が社交界で、どんどん失墜していく様はもはや見事すぎた。
それに一枚かんでるロゼットロア公爵家も、流石としか言いようがなかった。
なんにせよ、問題が解決したからもう心配することはないのに、あのふわふわと揺れる青い髪が視界に入るたび、思わず何か困っていないか、何か嫌な思いをしていないか、学院では元気でやっているか、思わずいらない世話をたくさん焼いてしまいそうになる。
……アイン王女曰く、もう焼いているらしいが。
とにかく仕事はできるのに、自己評価がとことん低い彼女が心配で気がかりだった。
それは思わず進路についての話になったときもそうだ。
「個人的には、もうちょっと異国のこととか勉強して、そういったことを学べる院に入れればなぁ、と」
という言葉を聞いた時、アイン王女は推薦書を書いてあげるといった隣で、だったら俺は送り迎えしてやろうかな、なんて思っていたのはここだけの話だ。
それだけでなく、ファジィル王子に絡まれて固まってるのを見たときも、言い知れない感情が沸き上がり、思わず引きはがしてしまったこともあった。
勘違いでなければ、自分を見て安心したその表情に、少しだけ、こちらも信頼されてるんだなと安心したこともあった。
その後も、愛称で呼ぶことが許されたり、守るためだが仮の婚約者になったり、とどんどん距離が近くなっていくなかで、少しずつ表情が明るくなっていく彼女が、どこか抜けている彼女が、今までの努力が当然のように、今までの苦労ごと報われるようにしてやりたい。
そんな思いが、ただただ深く思うのであった。
「ニーチェ、本当にフルルちゃんが気に入ったのね」
「何でそうなるんです?」
「だって、フルルちゃん来るときとか、見てるときすごい優しい顔してるもの」
「まぁ妹みたいなもんですよ」
突然の問いかけにそう答えると、アイン王女は少しだけむくれつつ頷いた。
「ふーん、まぁいいでしょう、でも私もフルルちゃん好きよ。出しゃばらないし、静かだけど仕事は確実だし?いまは学校終わりと、都合のいい時しか来てもらってないけど、将来的には本当に専属になってほしいくらいよ」
王女はそうゆっくり頬杖をついた。
それもそうだろう、幼いころから淑女教育が身についているからか、刺繍や社交もできるし、学院に通っていることからか、理解力も高いし。
なにより貞淑で、もくもくと仕事をこなすだけで野心は全くない。
流石、あのチェーザレ伯爵の娘といったところだろうか、淡々としつつ、やるべきことはやるその様はそっくりだ。
「まぁそうなれば俺も嬉しいですけどね、本人自覚ないけどかなり優秀ですし、何より、俺にない部分補ってくれるからありがたいですよ。本当」
「ニーチェ、歴史とか神話苦手というか、興味ないもんね」
「俺は数字とかは好きなんですけどね、本当その点、フルルにどれだけ助けられたことか。」
たとえば、クティノスの肉を食べる周期や食器などの色や、イズゥムル人の前では、神を崇めてはいけないとか、ミドガルド様は心が広いからだいぶ許されているけれど、本当は多くのタブーがあること。
それだけでなく、紅茶とコーヒーの味付けやお茶請けはどのようなものが好まれるか、とか細かい情報まで、こっそり厨房や侍従に教えてくれてるらしく、こちらとしてもだいぶ助かり、また来賓からの評判も良い。
神話にもくわしいからか、さりげなく話も合わせてくれるおかげできまずくもならない。
そのたびに、ファジィル王子から迫られるのを守るのが、最近のタスクである。
「まぁなんにせよ、偽とはいえ婚約者候補なんだから、守ってあげなさいよ」
「わかってますよ」
「何なら本当に婚約してもいいのよ?」
どさくさに紛れて、とんでもないことを提案する主人に、がっくりと肩を落とす。
「それは本人次第でしょう」
「ふーん」
と、少しだけつまらなさそうな顔をしたあとに、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「式にはよんでよね?」
「なんのです?」
愉快な会話が執務室に響いたのであった。
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