ぼんやり令嬢は眼帯従者との仲を使用人に促進される。
にこやかに笑うニーチェさんを見ながら、リノン、オルハ、エマは、一瞬固まってはいたものの真っ先にリノンが頭を下げた。
「お嬢様がいつもお世話になっております。お嬢様の侍女を務めております。リノン・アイヒェルです」
それに続いてエマとオルハも頭を下げる。
「同じく、エマ・アクイラと申します。」
「従僕のオルハ・アクイラです」
「あぁ、俺はニィリエ・ハイルガーデン、王女付きの護衛をやらしてもらってる。フルルにはいつも世話になってる」
ニーチェさんが私を愛称で呼んだ途端、さっきまで頭を深く下げてた三人が、どういうことか説明しろという顔で、こちらを見てきて、思わず後ずさりするとニーチェさんは苦笑していた。
「ははっ愉快だなぁ……とりあえずお昼がまだなら一緒に食べに行くか?」
「はい」
三人の同意を視線で受け頷くと、ニーチェさんはにこやかに嫌みなく聞いてくれる。
「好き嫌いとかあるか?」
「辛いのはダメです」
「あぁなら大丈夫だ。それにしても」
「どうしました?」
言いながら、視線を落とすニーチェさんに、何かあったのかと首を傾げると、ニーチェさんは私の服装を見て頷いた。
「いつも制服ばっかだから、この前のドレスもすごい似合ってたが今日のワンピースも可愛いな。この前も思ったけどフルルはそういう優しい色が似合うなぁ」
とさりげなく褒めてくれた。その様子を見てたオルハは小声でつぶやいた。
「え?そんな流れるようにしれっと褒めるとかすご……」
と呟いていてそれには同意しつつ、ニーチェさんのあまりのスマートさに、気絶しないようにするのに必死だった。
オルハの運転と、ニーチェさんの案内でついたのは、海辺の、少しこぢんまりとした白い壁が特徴的な可愛らしい外観のシーフードレストランだった。
「初めて見ましたこのお店」
「意外と穴場なんだよここ」
と、ニーチェさんが、私を流れるようにエスコートするのを見たエマが呟いた。
「さらっと王子様みたいなことするじゃん……」
小声の意見に賛同しつつ、エスコートを受けて、店内に入り席に着くと、ニーチェさんは心配そうにこちらをみてきた。
「ブランデンブルク侯爵家から出てきたってことは、話してきたんだな」
「はい」
「その様子だと無事だったみたいだな。よかった」
あまりにも自然に心配してくれるその様子に、優しいなこの人は本当に、と優しさが染みた。
「まぁここは俺のおごりだから好きに食べな、もちろん君らのも」
「え、そんな悪いですよ」
「大丈夫、おにーさん稼いでるからさ」
遠慮するも、王女付きの仕事を正式にしてるニーチェさんには逆に失礼かなぁ、と思いその言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます」
「うんうん、素直でよろしい」
といい笑顔で答えると、このお店のおすすめを教えてくれ、みんなでそれを参考にしながら、注文をして待っていると、今度はオルハが純粋な疑問を投げかけた。
「それにしても、お嬢がここまで異性になつくのって、珍しいっすね」
「ニーチェさんは、高圧的じゃないし、優しいから」
「ありがとうなってかそんな珍しいのか?」
心底、不思議そうな表情でニーチェさんは私を眺めると、リノンがこほんと説明した。
「お嬢様は昔から婚約者がいましたからね。誤解を招かないように、あまり接してこなかったのです。ですが、数少ない接してきた身内を除く異性である婚約者様が、あんなんでしたから、男性に対して年々苦手意識がこう……」
「あぁ……ああなるほどな、デザートも頼んでいいぞ」
ニーチェさんは、小さい子供をなだめるように、スイーツメニューを手渡してきた。
「リンゴのミルフィーユが食べたいです」
「それ決めるのは早いな」
「俺この塩キャラメルアイスがいいです」
「何しれっと頼んでるのよ」
どさくさに紛れて注文したオルハを、エマは窘めるも、ニーチェさんは一切嫌な顔をせずに笑顔で手をひらひらさせた。
「いいよいいよ頼みな、リノンさんとエマちゃんも」
と、快く言ってくれてあまりの気前の良さに二人は頭を下げた。
「ありがとうございます。」
と言っている間、やっぱりこの人、心が広すぎなのでは?と好感度がとどまることを知らなかった。
そうして、各々食事が届きもくもくと食べていると、ニーチェさんがじっとこちらを見てることに気づき、どうしたのだろうと思い目を合わせた。
「相変わらず所作が綺麗だなぁ」
「……そうでしょうか、ありがとうございます。」
「お嬢様は、小さい頃から淑女教育をされてますから」
リノンのその言葉にニーチェさんは首をかしげ、問いかける。
「何歳くらいから?」
「五歳くらいからですかねぇ」
「苦労人だなあ」
ニーチェさんは言いながら頭を撫でてくるも、私はため息交じりに答えた。
「まぁ無駄になっちゃいましたけど」
「無駄じゃないって、王宮の人らはみんなフルルはマナーのいい、品のいいお嬢さんだって、いってるぞ?」
「え?根暗で何考えてるかわからない陰気なやつではなく?」
少なくとも、母親とレヴィエ様にはしょっちゅういわれていたし、口数も少ないから、つまらないとも言われていたから、ひょっとして王宮でもそういうことを言われているんだろうな。
と予測していたから、あまりにも意外な答えに驚きを隠せなかった。
「何をどうしたらそうなるんだ。それにアイン様も言ってたぞ?フルルちゃんは本当に気が利くからこのまま雇いたいって」
「アイン様がそんなことを……嬉しいです」
「よかったなー」
なんだかニーチェさんのその言葉たちのおかげで今までの頑張りが無駄ではなかったと肯定されて過去の自分が報われたような気になった。
「そういえば、ニィリエさんとお嬢って、どういう関係なんですか?」
「えっとぉ……」
「王女付きの仕事を一緒にやってる同士で、あのバカ……じゃない、ブランデンブルク侯爵子息の問題が落ち着くまでは、おこがましいけど、婚約者候補として守ろうと思ってるよ。」
「そうですか……。お嬢がここまでなついてるの珍しいから、期間が明けたら婚約しちゃえばいいのに」
「こらこらオルハ、お嬢様の顔見てみな?どうしていいかわからない顔してるじゃない」
オルハのとんでもない提案にエマはため息を大きくついたがニーチェさんはそれを見ても一切嫌な顔はしなかったしそれどころか
「ははは、まぁ邪険にされてないようなら何でもいいよ。」
と笑うだけだけで強く否定するわけでも、逆に強引でもなくて助かった。
「そんなことより 最近学校はどうだ?」
「あ……そうだ今度生物の授業でマオ先生がパレード用の竜を借りて見せてくれるんですって」
「へぇ……ってフルルはあまり竜とかみたことないのか?」
「ベルバニアにはいなかったですから」
ベルバニアは古い家門だけれど、元を正せば亡国の貴族だからか、キャシャラトに属してからも長年反乱を防ぐため外様扱いをされてきた過去がある。
竜を賜らないのもその一つだったらしい、まぁ今は、普通に貰えるそうだが、賜ってない間やけに馬術や、馬の飼育が発達したのと、化学の進歩のお陰でそこまで必要じゃなくなったのが、主な理由らしい。
正直、竜飼ってる家が、ちょっと羨ましいなと、思ってたのは内緒である。
「へぇ、ベルバニア領広いから飼えそうなのにな」
「ノウハウがないんで難しいかなと」
「それもそうか」
そうやって、自然に会話している私とニーチェさんをみて、エマは頬杖をついてからオルハに問いかけた。
「ねぇオルハ、やっぱお似合いな気がしてきたんだけど」
「ほら、だからいったじゃんねーさん」
「二人とも、茶化さない」
「「はーい」」
そんなこんなで楽しい時間は過ぎていくのであった。
「ニーチェさん、ごちそうさまでした」
「いいって、またな」
嫌みなく屈託なく笑って去っていくニーチェさんをみて、リノンは顎に指をあてなにやら深く考えたような表情をした。
「やっぱりお嬢様には年上の方があいますね」
「リノンまで?」
そういいだしたときには、おもわずいつもより大きな声が出てしまったのだった。
どうでもいい情報ですが、フルル同様オルハも甘党です。
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