ぼんやり令嬢と元未来の義父
手紙の返信をしてすぐに、ブランデンブルク侯爵家に行く日取りがすぐに決まった。
一応ニーチェさんにそれをつたえると、心配そうな表情を浮かべた。
「えぇ、大丈夫か?それ?一応あの魔道具つけていった方がいいと思う」
「わかりました。」
「絶対に一人で行くなよ?というか俺送っていこうか?」
と、果てしなく心配された。
仮の婚約者にする心配というよりかは、妹とかにする心配だったが、一人で行かないことを伝えて、ちゃんと魔道具をちゃんとつけていくことを約束したら、ようやく安心したらしく肩を落とした。
「ならいいけど、なんかあったらちゃんと教えること、いいな?」
「……はい」
よしよし、と犬猫を撫でるように、撫でられたがなんか悪い気はしなかった。
気になることと言えば、その様子をノージュさんがじっと見ていたことくらいでしょうか。
この泥棒猫ってビンタされるのではないかとびくびくしていたが帰りに声をかけられた。
「これ、うちの従業員が作ったのだけれど食べる?」
と、お菓子をたくさん持たせてくれたので、どうやら怒ってるわけではなくて安心した。
そんなことがあって数日後。
私はニーチェさんに言われたとおり、魔道具をしっかり身に着け、リノン、エマとともにオルハの運転する車で、ブランデンブルク侯爵家へと向かっていた。
「相変わらず見てくれは立派っすねぇ、ここの家は」
「そう?ただでかいだけじゃないの?」
オルハが運転する車の中で、ブランデンブルク侯爵家をそう揶揄しているアクイラ姉弟を、私もリノンも、咎めることはしなかった。
豪奢な門をくぐると、小さい頃からよく知るブランデンブルグ侯爵家の家令が、深く頭を下げて歓迎してくれた。
「ベルバニア伯爵令嬢様、お待ちしておりました」
「お久しぶりです。ジョエルさん、彼らも一緒にいいですか?」
そういうと家令、もといジョエルさんは、柔らかい笑みで続けられた。
「もちろん、旦那様から了承も得ています」
「ありがとうございます」
何度も来たことがあるから案内なんていらないが、侍従長の案内に従い広間へいくと、よく見知った顔であり、ブランデンブルグ当主である、ダイアン・ブランデンブルグ様が、どこか疲れたような陰りを帯びている表情でいた。
「わざわざご足労いただいて申し訳ないね。座ってくれ、もちろん君たちも」
「わかりました。」
ダイアン様に促され席に着くと、ダイアン様は深く深く頭を下げた。
「フルストゥル嬢、交流会では愚息が申し訳なかった。」
「……ええ驚きました。」
思い出すだけで、あの話の通じなさと言い、あのどろんとした顔と言い、恐怖の対象でしかないあの様は異様だった。
ニーチェさんがいなければ、どうなっていたか、と考えるだけでも鳥肌が止まらない。
「恐怖を与えてしまって本当に申し訳ない、今後こう言ったことがないように注意する」
「……注意だけで収まればいいですけど……。」
暗に、それで済むとは思っていないことも含ませると、ダイアン様はそれを察し、さらに顔の影を濃くした。
まさかあんな愚かな行為をするとは思ってなかったのだろう、下手をすれば、いやもうすでに社交界のつまはじきものだ。
どうにか私の許しを得たいのがみえみえだが、それについては追求せず黙っていると、ダイアン様は重い口をようやく開けた。
「不安に思う気持ちも分かるが、ここはこちらに任せてほしい。絶対に、君に危害が及ばないようにする」
ダイアン様は苦しそうな表情でそういい、思わず頷いて了承しようとしたときに、それを制するように手で遮られた。
「……守られなかった場合はどうなさるおつもりで」
「オルハ……」
「お嬢の努力を踏みにじった家門の言葉を、わかりましたと頷けるとでも?」
オルハはいつもの飄々としたどこか気の抜けた優しい表情ではなく、冷ややかで、殺意と欺瞞に満ちた視線と表情でダイアン様を睨みつけていた。
リノンもエマも、同じような表情で睨みつけているのを気づいたのか、ダイアン様は深く、長く息を吐いた。
「そのときは、ベルバニアの……君たちと法の裁きに従おう」
「……それは我々のやり方で好きにしていいってことですよね」
リノンがアイスブルーの瞳で、刃のように鋭い眼光をダイアン様に飛ばし、冷たい声色で確認すると、ダイアン様は不敬だと騒ぐこともなく深く頷いたのを見てすぐに、リノンはさらにつづけた。
「今すぐ書面したためてもらっていいでしょうか。」
「わかった」
ダイアン様はそういいながら、侍従に紙とペンを用意させ、私に問いかけた。
「……レヴィエはいつから、君にあんな態度をとるようになっていったんだ」
「私が学院に入学したころには、もうたくさんの令嬢と遊ばれていました」
「どうして言ってくれなかったんだい」
責めるわけでもなく、心底不思議そうにそう問いかけるも、私は冷たいのか、何をいまさらとしか思えなかった。
「学院の勉強についていくのに必死で、そこまで気が回りませんでした。」
思わず嫌みのようにそう言ってしまった。
今でこそ、シャロという大天使と友達になれたり、いい先生たちに恵まれたおかげで、それほど今は苦労という苦労はしてないが、入学した当初どれだけ苦労したか、私がもともと人見知りなことを知っているダイアン様は、この言葉だけで気づいたのだろう、少しばつの悪そうな顔をしていた。
そこにさらに追撃をかけるように私は続ける。
「……意を決して、上級生の……レヴィエ様のクラスに行ったら、たくさんの令嬢に囲まれて、遊びの予定を立てられてまして、こちらを一度見たにもかかわらず、無視されたことがあったのでそれ以降、彼に頼るのをあきらめたのです。」
「フルストゥル嬢……私が悪かった、君が苦労していると予想できたはずなのに」
私が何か言っていればと、ダイアン様が口にしたとたん、静かに沸き上がった怒りの炎が私の喉を駆け巡った。
「……ご両親の注意で、私への態度が変わったことがありましたか?」
ないでしょう? と視線で訴えると、何も返せないのかまた俯いてしまった。
それもそうだろう、レヴィエ様は両親の前でさえ、私を侮蔑し下にみたような発言をし、何度も咎められていたが、ついぞ私に、謝罪の一つもしなかったことを思い出したのだろう。
「フルストゥル嬢には負担ばかりかけて申し訳ない」
「大丈夫です。もう終わったことですから。」
そのために、慰謝料やら何やらを一括で払ってもらったのだ。
もう、罰としては充分すぎる少なくとも私はそう思っていた。
「お約束だけ守っていただけるのなら、それでいいです。」
それだけ言うと、ダイアン様は深く息を吐いた後、再度確認のために重い口を開いた。
「……フルストゥル嬢、レヴィエのことは好きじゃなかったのか?」
「……好きになろうと、好きであろうと努力はしてきたつもりです。」
……すべて 徒労でしたが、心でそう付け加えると、ダイアン様はそれすらも分かったのだろう、また再度深く頭を下げた。
「そうか……本当に長い間申し訳なかった。」
「謝罪は充分です。……もう、レヴィエ様と関わらなくていいのであれば、私は大丈夫です」
そうして、書類を受け取り、もう二度とここに来ることがないように祈りながら、駐車場に向かうとニーチェさんの姿が見えた。
「よっ大丈夫だったか?」
「ニーチェさん、はい大丈夫です。おかげさまで」
ニーチェさんはいつものように気やすく頭に手を置くのを私が受け入れると、リノン、オルハ、エマは心底意外そうな表情を浮かべる。
「お嬢様が……」
「男性と……」
「普通にしゃべってる……だと?」
とすごい不思議そうな表情をしていたが、悲しいかな、それを否定できる材料がこちらには何にもなかった。
「まぁ嫌われてないってことか?ありがたいな」
と、にこやかに笑うニーチェさんはかなり眩しく見えた。
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