ぼんやり令嬢と休暇の予定と謝罪の受付
「昨日学校休んだみたいだけど大丈夫か?」
「あ、ごめんなさい大丈夫です。ご心配をおかけしました」
心から申し訳なく思い頭を下げると、ニーチェさんは少し慌てた様子で、それを手で制した。
「いや、そんな謝ることじゃないんだ。別に怒ってもないし……本当に心配だっただけだから」
「……ありがとうございます」
「ん、元気ならそれでいいよ。」
ニーチェさんは、頭をぽんぽんと優しく触ると、安心したようにほほ笑んだ。
「フルルはさ、年の割に苦労してんだから、もうちょっと気を抜いたって許されると思うぞ」
「……苦労」
確かに、レヴィエ様のことでは気苦労しているが、他の苦労って元を辿れば、原因、私なんだよなぁ。
私が、元々能力ないのに学院にいることも、人見知りで苦労していることも、なんか私の力不足のせいなきがするしなぁ。
苦労はしてるかもだけど、それを理解してくれる人はたくさんいるし、言うほど孤独で辛い思いは、首都に来たばかりのころより、気持ち楽に過ごせている。
けれど、ニーチェさんのその言葉でそうか、私やっぱり苦労してたのか、と自覚して目から鱗が落ちる思いだった。
「俺がフルルの年のころわりと自由には過ごしてたぞ」
「ニーチェさんってどんな学生時代過ごしてたんですか?」
純粋な興味で問いかけると、ニーチェさんは少し思い出すようにうなりながら呟いた。
「俺?聞いてもつまらないけどなぁ」
「あ、胃が痛くならない方向でお願いします」
「ならないって、なったら怖いだろ」
そんなやり取りをし、いつものように王宮に着き、アイン様の執務室へ入ると、いつものように、いやいつもより上機嫌なアイン様が迎え入れてくれた。
「フルルちゃんお疲れ、体調は大丈夫?」
どうやら、昨日学院を休んでいたことはもう知っているらしい、少し心配そうに問いかけられ、申し訳なさから深く頭を下げた。
「すいません心配おかけしました。」
「いいのよいいのよ、馬鹿の相手は疲れるものねぇ」
絶妙な毒を織り交ぜつつ、フォローしてくれ、座るように促してくれたので、いつもどうり仕事を始めた二人と同じように、といっても、二人に比べたら簡単な事務処理と、翻訳作業を進めることにした。
「そういえばフルルちゃんは長期休暇どうするの?領地に戻るの?」
「あぁ、多分そうですねぇ」
「そうなんだぁ、ずっとそっちにいるかんじ?」
「いや、課題とかあるのでお休み後半からですかね。」
「?課題」
ニーチェさんが不思議そうに首をかしげたため、私はうなだれながら答えた。
「魔法系授業の課題です。一人じゃどうにもならないんで先生たちが学院にいる間に教えてもらわないと……」
「まじめだなぁ」
「そうなんだ、でもしばらくは首都にいるのね、いつでも気軽に遊びに来ていいからね」
「……はい」
ありがたいような、恐れ多いおさそいだなぁ、と心でおもいながらも、いつもこうして優しい声をかけてくれるアイン様に感謝するばかりだった。
「それにしても、フルルちゃんが来てくれてから仕事がかなりスムーズだし、予定よりかなり速いペースで終ってるから私たちの休みも長くなりそうねニーチェ」
「ほんとほんと、ありがたいよ。」
、
ニーチェさんは大きく頷きながら、ちょっとコミカルに、ウソ泣きを織り交ぜ答えるのを聞いてアイン様もうんうんと頷いてさらにつづけた。
「そういえば、クティノスに、肉を食べる周期とかまで決まっているだとか、青い食器は使っちゃだめだとか、そういうの厨房に教えてくれたんでしょう?助かったって料理長言ってたわ」
「いやいや、たまたまお父様から聞いた話を覚えていただけですし……あとは授業で……」
そういえば、そういうこともあったなぁ。
あれはたまたま、新しい茶葉をもらおうと厨房へ行ったら、厨房の方々がクティノスの人々が全然メイン料理に手を付けてくれない、と悩んでるのを聞いて、気になって詳しく聞いてみたところ。
まず、クティノスの尊き色である青の皿で料理を出したらしいことを聞いたのだ。
青い皿で出すのは、神への供物という認識だから、やめた方がいいといった。
今度は、牛のステーキを出したが食べてくれないというのを聞いた。
クティノスは12の獣の神に守られている国で、その中には牛の神もいる。
そして、今クティノスは居なくなってしまった牛の神を偲ぶ期間だから、牛はやめた方がいいと助言をしただけなんだけど、すぐに変更できたようで、よかった。
料理と歴史って、意外と深くつながってるけど、今までかかわりのなかった国の歴史って、未知だし、忙しいと学ぶ時間もないから、助けになったならよかった、と胸を撫でおろした。
すると、アイン様はにっこりとほほえんだ。
「相変わらず謙遜しちゃって、かわいいねぇもう休暇も王宮で過ごす?」
「えぇ、えっとぉ……」
「こらこら、困ってるでしょうが、仕事仕事」
そうして、あまりにものんびりとした雰囲気の中、和やかに仕事が終わった。
そして、いつものようにニーチェさんに促され、一緒に車に乗ると何やらじっとこちらをみてきたので思わず首を傾げてしまった。
「あのぉ……ニーチェさん?」
「昨日の今日だからかもしれないけど、やっぱ顔色悪いなぁ、本当にしんどい時は休めよ?」
「ありがとうございます」
やっぱり、ニーチェさんはいつだって優しいなぁと痛感しつつ、ちゃんと、ことが終わった後の恩返しをしっかり考えないとなぁ、と思案しているうちに家に着いた。
「いつもありがとうございます」
「おお、よく食ってちゃんと寝るんだぞ?」
「はい」
なんか、マオ先生もだけど、みんな私の健康心配しすぎなのではなかろうか……。
私ってそんな不健康……?
そうか、引きこもりだから肌白いし、ストレスですぐ胃がやられるしなぁ、と遠い目をしてしまった。
とにかく、偽装恋人としての初日は、少しだけ距離が近くなっただけで、何かが大きく変わるということはなく安心していたが、夕食時にその穏やかな気持ちは打ち砕かれたのだった。
「フルストゥル、今日フルストゥル宛にブランデンブルク侯爵家から手紙が入っていてね」
「えぇ……」
伯父様のその言葉に、思わず私は大きく落ち込んだ。
ブランデンブルクの名前を聞いただけで、リノン、エマ、オルハらは殺意を前面に出してしまっているが、さすがあのお母様の弟といったところだろう。
眉一つ動かさず伯父様は続けた。
「先にいっておくと、レヴィエじゃなくて侯爵様が、直々にこの前のことを含めて謝りたいみたい」
「……ダイアン様が……」
「いやなら無理しなくていいけど……」
本当はあの家に行きたくもないが、ダイアン様は、フィリア様のように歪んだ思想をぶつけられたわけでもなく、レヴィエ様の行動を黙認していたわけでも、助長させたわけでもなかったし、あの時だって諫めてくれていた。
だから、けじめとして、謝罪を聞くくらいはしたほうがいいだろう、と思い伯父の言葉に頷いた。
「リノンたちと一緒でいいならいきます。」
「お嬢様……」
「フルストゥル……大丈夫かい?」
リノンらも、伯父様も、心配そうに私の表情をうかがうのを察しつつ、私は伯父様の目を見て、はっきりと口に出した。
「ダイアン様には、お世話になりましたから……。それにみんながいてくれるなら大丈夫」
「そうかい、みんなフルストゥルのこと頼むよ」
伯父様がそういうと三人は深く頷いた。
「わかりました。」
と、これから戦地に行くのか、というほどの険しい顔をしていた。
頼もしいを超えて、私は何処に行くつもりなのか、ちょっとききたくもなったが、心配ゆえなのだろう、と思うとなんの言葉も出てはこなかった。
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