ぼんやり令嬢は恩返しを決意する。
交流祭で疲れ果てて学院を休んだ翌日、登校するとレベッカ様とバーナード様が心配そうにこちらに来てくれた。
「フルストゥルさんあの後大丈夫だった?」
「怪我とかしてませんか?あの場にいたのに申し訳ない……」
心配そうなレベッカ様と、何やら落ち込んでいるバーナード様に、心配かけないようにへにゃっと笑いながら答える。
「あぁ、大丈夫怪我もしてないし、あのあと、ニーチェさんに助けてもらったし平気平気」
そう答えると、二人は安心した表情を浮かべたあと言葉をつづけた。
「ならよかったわ」
「でもあの日のレヴィエ先輩……様子がおかしかったよな、なんか強引というか」
バーナード様はうなりつついうも、それを聞いたこちらの気持ちは冷めていた。
えぇ、そうかなぁ?私の前だともっと強引だし、乱暴だし、邪知暴虐の極みだったけどなぁ。わけのわからない言いがかりつけられて、罵詈雑言なんて当たり前だったし……。
あっ、でもあの人、外面だけは確かに良かったからなぁ、と遠い目をしていると、いつの間にか来てたらしいシャロが嫌悪感を全開で口を開いた。
「まったく嫌な男よね、うちがちょっと会議してるのをいいことに、スキをみてコンタクトとってきたってことでしょう?」
たしかに、交流祭の裏で高位貴族たちが会議、といっても仰々しいものではなく、情報交換や軽い商談をしていたらしく、シャロも後学のために、小公爵様と公爵様についていたらしい。
おそらく、レヴィエ様はそのすきを狙ったのだろう、という予想は私も同じだ。
大体、学院ならまだしも、社交の場でシャロと一緒にいるときは、流石に家柄と他者の目線がきになるのか、強引な行動をとろうとはしてこなかったのが証拠だ。
「でも、なんでわざわざ毛嫌いしてる私に、接触しようとするかなぁ。」
頼むから放っといてくれないかなぁ、と心の底から吐き出したくなるが、なんとかひっこめるとシャロは怪訝な顔をして続けた。
「本当、わけがわからないわよね。侯爵の指示でもないみたいだし?夫人の指示かしら?」
「うーん、もうあんまり考えたくないなぁ……」
ぐったりした私の頭を撫でて、シャロはため息をため息をつき呟く。
「まぁ……そうよねぇ……」
「フルストゥルさんクッキー食べる?」
「食べますぅ……」
ぽりぽりと、ゆっくりレベッカ様にもらったクッキーを食べていると、今度はバーナード様が、心配そうに腕を組み首をかしげる。
「レヴィエ先輩、学院に普通にいるんだよな。なんかあの様子は普通じゃないし……フルストゥルさんは、なるべく一人でいないほうがいいと思う。」
「私もそう思う、ねぇマオ先生に相談した方がいいんじゃない?」
バーナード様とレベッカ様の提案は、もっともだし、ありがたいなぁと思いつつも、また担任に心配かけるのもなぁと目をつむった瞬間に愛想のない声がきこえた。
「……何があったんだ?」
タイミングよくマオ先生が現れ、自分の名前が出されたことに不思議そうな顔で、先生は問いかけた。
「「マオ先生」」
マオ先生はなにやら心配そうな顔でこちらを見ていると、前回、落ち込ませたこともあり隠さないほうがいいだろう、と赤裸々に話すと、先生は天井を仰いでしばらく考え込んでいた。
「なるほど……そうか……わかった、協力を得られそうなとこには協力してもらおう」
「ごめんなさい仕事増やして……」
「いや、大丈夫だ。こういうのは初動が大切だからな」
気にしなくていいといいながら、マオ先生は持ち場に戻った。
快く生徒の味方になってくれる先生に感謝しつつも、またまた、面倒ごとに巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「それにしても、あの時のニーチェさんはかっこよかったわねぇ」
「うんうん、流石王女付きの護衛って感じだったな。あそこまで冷静でいられるのは、流石だな」
先生が去ったあと、レベッカ様とバーナード様が、口々に言いつつ頷いていると、今度はシャロが口を開いた。
「何があったの?」
「シャルロット様……実はね」
……と、レベッカ様から事のいきさつを聞いたシャロは。
「いや、どう考えてもかっこよすぎじゃない、ソレ」
「「ですよねぇ~」」
と、二人できゃっきゃとはしゃぐ姿をかわいいなぁ、と眺めているだけで、疲れ果てた心が少しだけましになったような気がした。
なんだか、それまで気が重かったのだがだいぶ気は楽になった。
というか、あの日のニーチェさんの服装、多分レアだったのに、どうして私は目に焼き付けなかったんだろう。
もはや足が長いことしか覚えてないんだけれど……。
そこまで考えようやく思い出した。
そうだ私ニーチェさんに婚約者のふりいわば偽装恋人になってもらうことになったんだった。
「うぐぅ………………」
「ねぇ本当に大丈夫なの?授業うけれる?」
「受けれるぅ……」
シャロは心配そうな表情で、私の体調を気を使っていたようだが悲しいかな、どちらかというとメンタルなんだよなぁ、としみじみと痛感した。
とりあえず、みんなが私のことを心配してくれた結果。
私はなるべく、一人で行動しないようにすることがきまったのだった。
「つまり合法的にずっとシャロと一緒にいれる免罪符?」
「そんなのなくてもいるけどね?」
「は?控えめに言って大好きなんだが?」
いつものやりとりをしつつ、みんなの優しさがただただ身に染みたのであった。
そうして放課後。
いつもどおり裏門にいって、王宮からの迎えを待とうとしたら、マオ先生に呼び止められた。
「あぁ、ベルバニア嬢 ニーチェからの伝言だ」
「はい?」
「今日から正門の停留所に迎えに行くそうだ」
なるほど、あえて人目につくところに行く作戦なのか、と納得し先生の言葉に納得し頷いた。
「わかりました」
ありがとうございます、と頭を下げ、踵を返し進もうとすると、マオ先生は一歩足を踏み出そうとする私を呼び止めた。
「あぁちょっといいか」
「何でしょう」
「えっと……、ニーチェとはいったいどういう間柄なんだ?」
いやなら言わなくてもいいんだが、と困ったように眉をひそめているものの、たいした理由じゃないんだけどなぁ、と心の中で苦笑しつつ事の経緯を説明したら、先生は心から安心したようにため息をついた。
「まぁ、あいつらしいな、あいつは昔から困った人がいたら放っておけないやつだからな」
「そうなんですかぁ」
まぁ、そうでなければこんな小娘のことをわざわざ愛称で呼んだり、婚約者ないしは彼氏のふりなんてしてくれやしないだろう。
だって、なんの得にもならないんだから。
でもそれは逆に困ってさえいれば、ニーチェさんの視界にさえ入って認識さえされれば、誰かれ構わず助けて、頼まれれば簡単に恋人のふりも請け負うってことなのだろうか。
そう考えると、私はとびきり運がいいんだなぁ、と思うのと同時にニーチェさんは、ちゃんと他人に優しくした分を、返してもらえているのかなといらない心配をしてしまった。
「ベルバニア嬢?」
「私、いろいろことが済んだら絶対ニーチェさんに恩返しします」
「お……おぉ、そうか」
戸惑いつつ、私の恩返し宣言を聞いたマオ先生は、戸惑いこそしたが、そのあと何かに納得したようにつぶやいた。
「まぁ気を付けていってきなさい」
「はい」
そうして正門の停留所に向かうと、目があった途端、優しい表情でニーチェさんが、こちらをみて手招きしてくれた。
「よ、おつかれフルル」
「お迎え、ありがとうございます」
その光景を、多くの生徒やいろんな家門の人々が見ているのを確認し、その表情を作ったとしたなら、ニーチェさんは本当にすごいと思う。
私はそんなニーチェさんの親切を無碍にしないために、とにかく今日から、もっとニーチェさんの仕事のサポートができるように頑張ろう。
そしてレヴィエ様のことが落ち着いたら、絶対恩返しをしようと心に誓ったのだった。
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