傲慢な元婚約者の父は頭を抱える。(ブランデンブルク侯爵視点)
昨日 不定期更新になると報告しましたが、できる範囲では毎日更新をしていきたいと思っています。更新をお休みする場合は前書きかあとがきで報告したいと思っていますが、当日更新できないのが判明した場合活動報告にて報告しようと思います。
ご心配と迷惑と混乱を招いて申し訳ないです。
キャシャラトの新興貴族が一門、ブランデンブルク侯爵。
ダイアン・ブランデンブルグは頭を抱えていた。
時は数か月前に遡る、とある噂が社交界で流れていることをフィリアから聞いた。
「ねぇあなた、ただの噂とは思うのだけれど……」
曰く、噂によると、レヴィエは多くの女子生徒と肉体関係にあるらしいこと。
婚約者を蔑ろにし侮蔑していることに加え、なんと暴力を加えているということ。
それだけでなく、レヴィエと親しい女子生徒が、婚約者に喧嘩を売っているという、にわかに信じがたい噂だった。
「なぁに、どうせつまらない嫉妬だろう?」
「そう、ならいいんだけど」
「あまり心配するな、体に響くぞ」
「えぇ、そうね」
その時は、ただのつまらない噂だと一蹴していた。
そんなことは、ありえないとすら確信していた。
だって、レヴィエとフルストゥル嬢は、昔から長期休暇の間しか会えていなかったが、あの気難しいレヴィエが、珍しく心を開いた様子だった。
何と言ってもあのチェーザレ殿が
「あの子は大人しい子だから、活発なレヴィエ君と合うか不安だったが、杞憂だったな。仲良くしてるようでよかったよ」
と嬉しそうにしていた。
確かに、活発で明るいジィド子息やツィリアーデ嬢のように、社交的ではなく、大人しくずっと本を読んでいたり、絵をかいていたりするようなすごい内向的な子だな、と思っていたが、レヴィエはちゃんと優しくしているようで安心しきっていた。
「来月からフルストゥル嬢が首都に来るそうだ。守ってやりなさい」
「わかりました」
事業が忙しくなってしまい、なかなかベルバニアに行くことも減ってしまっていたが、毎週のように、フルストゥル嬢は手紙を送ってくれていたから、大丈夫だろうと安易に考えていた。
いや、実際彼女に落ち度は一切ないからこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
週に一度の淑女教育も、慣れない首都での生活も、きっとレヴィエが支えているのだろうと、手を出さず、放置していた自分が情けなくなるほど、知った時の落胆は果てしなかった。
「……旦那様」
「どうした、ラスター」
いつも、レヴィエの送り迎えをしている侍従に声をかけられ、何を言われるのかとおもったら、信じられない言葉が耳に入った。
「坊ちゃんは本当に、フルストゥル嬢がお好きなんでしょうか?」
「……は?」
ラスターの発言に、思わず威圧的な声が出てしまうが、ラスターはひるまずに伝えてきた。
「よく、ご学友を車に乗せることはあるのですが、フルストゥル嬢がプライベートで乗ることがあまりにも少なくて……その」
「……彼女は内向的なご令嬢だからな、あまり遊びまわるような令嬢ではないから、考えすぎだ」
「……ならいいんですけど、すみません差し出がましい真似を」
「いや、いいんだむしろ報告感謝する」
……まさか、と嫌な予感が脳裏によぎったが、本人同士の問題で介入すべきでない、とその時はなぜ放置してしまったのか、今となっては頭を抱える原因でしかない。
違和感は、もっと前から確かにはあった。
屋敷に呼んで夕食を一緒にしているときも、あまり楽しそうではないし、お茶会の時も、レヴィエは遠回しに、彼女を、馬鹿にするようなことばかり言っていたのを何度も咎めたことがあったのに、結局深く追求することをしなかった。
「旦那様、差し出がましいでしょうが」
「どうしたソーニャ」
「フルストゥル嬢の様子がちょっと……」
メイドの話によると、フルストゥル嬢は婚約の内容証明を確認したいと言ったら、フィリアにいろんなことを、それこそ、子供さえ産んでくれればそれでいいというような、甘やかしを超えた思考をぶつけられて、気が滅入って徒歩で帰られたということだった。
「そうか……」
フィリアはフルストゥル嬢の母、ティルディアのことをもはや崇拝の域に入るほど好きだ。
この婚約を主に進めていたのも、フィリアだった。
確かにベルバニアは由緒正しい家門。
アーレンスマイヤもかなりの資産家であったことから、確かに政界に出るにはいい後ろ盾となるとわかっていた。
だからこの案に乗ったが、まさか、そこまでの歪んだ思考をぶつけるとは思っていなかった。
「フィリア、お前がティルディア様を慕っているのは知っているが、それをフルストゥル嬢にまで押し付けてはいけない」
「ごめんなさい、私 あの子がこの婚約が嫌になったのかと焦ってしまって……」
「……」
そんなわけないとはいえずに、ただ項垂れるフィリアに、声をかけることもできなかった。
それからしばらくして、噂はもっと大きく広がったころだった。
あまりに広がる噂の信ぴょう性と、もし噂だとして、どこの家が広めているのかをを確かめるべく隠密を雇ったが、それがほとんど事実だと分かったころには何もかもが遅すぎた。
「ブランデンブルク侯爵、話がある」
そう、電話越しで聞こえたチェーザレ殿の声は、かなり怒気をはらんでいることがすぐに分かった。
「なんのことでだろうか」
「この婚約についてだ」
それだけ聞いて、ここまで来てようやく、あぁあの噂は本当で、ラスターの不安も、フィリアの思い込みでもなかったことを痛感した。
そうして、二人にフルストゥル嬢が集めた証拠を見せつけられ、あまりのひどさに言葉にならなかった。
フルストゥル嬢が集めた多くの証拠。
婚約破棄をしたい旨をベルバニア夫妻から伝えられ、そのあまりのしてきたことのひどさに彼らの出した条件を呑むしかできなかった。
だが、フィリアは諦めきれなかったのだろう。
話がまとまりそうになったところで立ち上がり
「ねぇ、じゃあオースティンと再婚約はダメかしら、要はレヴィエが嫌いなんでしょ?」
だったらいいでしょうと、いうもティルディア様は、呆れたようにつぶやいた。
「駄目よ、年の差がすごいし、あの子はもうレヴィエとかかわりたくないといったのよ。またここに通うことになれば、嫌でも会わないとだし、仮に結婚したとしても、会うことになるじゃない」
ティルディア様のその言葉にフィリアは、すぐに意気消沈するも、チェーザレ殿はそれを無視して頷いて続けた。
「私としてもそれは断る。娘をここまで傷つけた家門ともう関わらせたくはない」
そう言い切りフィリアが意気消沈しているなか、こちらは頭を下げることしかできなかった。
10年にも亘るフルストゥル嬢の献身を、無下に扱った本人はどう思っているかは知らないが、慎ましく義務を果たしてくれる彼女を、私も妻も気に入っていたのに、すべてを台無しにされた気分だった。
幸か不幸か、爵位の降格や、レヴィエの退学、廃嫡は免れたものの、不貞だけでなく、暴力、暴言、契約違反などの分と無理に首都に連れてきた心理的負担と、学費などがかさみ多額慰謝料を払うだけで済んだ。
が、さすがに無傷とまではいかず、もともと多く雇いすぎていた使用人の何人かに手切れ金と紹介状を渡したり、中には、退職金がもらえるうちにもらおう、とやめていくものもいたりした。
心苦しかったが、あつめていたコレクションを売りに出して、ようやく普段の生活に戻れた頃だった。
またメイドからこんな報告が聞こえてきた。
「旦那様、坊ちゃんが……」
どうやら、レヴィエが婚約破棄になったのにも拘らず、ストゥル嬢にドレスを送ったり手紙を送ったりしているそうな、時折、部屋でフルストゥル嬢の名前を呼びながら発狂しているとも聞いた。
あれ以来フィリアもだいぶ落ち込んでいる。
どうして今更、そんなことをと呆れる以前に、どうして、ここまで落ちぶれてしまったのか頭を抱えることしかできなかった。
「婚約者様およびブランデンブルグに恥ずかしくないよう精進します。」
そう言ってくれた彼女に、何故、ただ昔のようにやさしくしてやることができなかったのだと、早く気づけなかったのかと。
屋敷の中には後悔しか残っていなかった。
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