ぼんやり令嬢の危険人物の遠ざけ方
新型コロナに罹患してしまいました。
そのため体調が安定するまでしばらく不定期更新になると思います。
毎日楽しみにしてくださってる方々にはまことに申し訳ございません。
「おやめください、私とあなたはもう婚約破棄をしました。もう他人のはずですが?」
「そんなのはただの書面だけの話だろう?」
「書面だけって……何を言って」
自分が私にした仕打ちも、ブランデンブルク侯爵家が被った被害を、考えたことはないのだろうか、この男は何を一体どうしたいんだ。
恐怖と戸惑いの中、この場にいるバーナード様、レベッカ様に被害が及ばないよう、叫びちらかしたい気持ちを、今すぐ逃げ出したい気持ちを押さえて、冷静に首をかしげて微笑む。
「ブランデンブルク侯爵子息様、お戯れを」
「戯れ……?面白い冗談だなぁフルストゥル」
そういうと、レヴィエ様は私の手首を思いきり掴んできた。
一瞬顔をしかめたくなったが、それを抑え問いかける。
「……婚約破棄をした相手に、ダンスを誘うとはどういうおつもりですか?」
再度、忠告の意味を込めてそう告げるも、レヴィエ様は、いろんな欲が混じった瞳でこちらを見つめた。
「俺らは昔馴染みじゃないか」
だめだこいつ、話が通じないと諦め下唇を噛みしめていた時、聞き覚えのある安心感のある声が聞こえた。
「よぉフルル探したよ」
「……ニーチェさん」
声の主、ニーチェさんは、薄くストライプが入ったスーツと、中のカラーシャツとのおおよそ普通の人なら着こなせないような、おしゃれなコーディネートをしれっと着こなしていて、いつもなら、それに見入って、目に焼き付けておこうとか考えるのに、その時はもはや心の底から安心が湧いていた。
「何故……愛称を……」
「あぁ、俺らそういう仲だからそんなことよりさ」
言いながら、するりとレヴィエ様に掴まれていた手首をほどいてくれ、私を背に隠しながら、飄々と言いはなった。
「お前、何やってんの?」
「関係ないだろう」
「いや、あるけど?俺もフルルも王女付きの仕事仲間で王女の友人同士、それも王女だけでなく、他の王族も周知の事実だが?」
さすがに、王女や、王族が後ろについていることを知ったら、反論できないだろう。
と思っていたが悲しいかな、頭が足らないのかレヴィエはなおも声を上げた。
「だが、彼女と俺は家同士が決めた婚約者だ。それは王宮にも正式な書類が……」
「あぁ、そうだったな、けれど、正規の手段で婚約破棄をして、それも王宮に書類が届いているがな」
ニーチェさんが純然たる事実を述べても、彼は一切ひるむことはなく答える。
「俺はそんなの認めない」
獣のように吠えるレヴィエ様を見て、おびえる私をよそに、ニーチェさんは淡々と答える。
「お前が認めなくても、国と法は認めているんだ。お前、国相手に喧嘩するつもりか?」
「……お前……」
レヴィエ様が、ニーチェさんに今にも食って掛かろうとしたその瞬間、威厳のある声によってそれは阻まれた。
「いい加減にしないか」
そこに現れたのは、ダイアン・ブランデンブルグ侯爵様だった。
「……お父様」
「ダイアン様……」
思わず声が出ていたらしい、ダイアン様は、私をみるなり深々と頭を下げた。
「フルストゥル嬢、愚息が重ね重ね申し訳ない。」
「侯爵様…」
「本来ならこいつの廃嫡や退学、我が家の降格をもやむをえないというのに、慰謝料だけで済ませてくれたというのに、こんな醜態を晒して、申し訳ない」
深々と頭を下げ、そういう侯爵様は本当に申し訳ないと思っているのだろう。
けど、私は一概に許すとはいえず、戸惑って固まってるのを、怒っているのだと思ったのか、今度は、レヴィエ様に対してダイアン様は怒りをぶつけた。
「レヴィエ お前ってやつは」
「お父様、ですが私は」
「言い訳など聞きたくはない、お前はフルストゥル嬢の温情のおかげで、どれだけ自由にできてると思っているんだ」
そこまでいいきったあとため息混じりにレヴィエ様を侮蔑する。
「お前は本当に、一族の恥さらしが」
そう言い捨てて、レヴィエ様を連れパーティーをあとにした。
「……はぁあぁぁ」
「大丈夫か?フルル」
「はぁ、なんとか」
その場から崩れ落ちたい気持ちを押さえて、どうにか答えると、バーナード様は困惑した様子を浮かべていた。
「レヴィエ先輩、どうしてしまったのだろう……。なんか普通じゃなかった」
と呟き、レベッカ様は
「フルストゥルさん、手首大丈夫?大分強く捕まれてたみたいだけど……」
と心配してくれた。
「いまのところは……」
と、答えるも、かなりの力で掴まれていたのだろう。
まだじんじんと痛むが、我慢できないほどじゃない
「とりあえず、ちょっと休ませてくるわ、歩けるか?」
「……はい」
そういわれ、ニーチェさんに手を引かれて、控え室へ向かうと、優雅に紅茶を飲まれているアイン様が、いつも通りのふわふわとした笑顔で迎え入れてくれた。
「あらあらフルルちゃん、おめかししちゃってかわいいわねぇ。よしよしよし」
「アイン様……」
アイン様に、まるで犬猫を可愛がるように可愛がられ、いつもならそれこそ、犬のように無邪気に喜んでいるところだが、さっき起きたことが起きたこと過ぎて、少し落ち込んでいるのを見かねて、ニーチェさんに目配せをするとニーチェさんが口を開いた。
「あのガキがさぁ……」
と、嫌悪感を隠すこともなく、アイン様に事の顛末を洗いざらい説明すると、アイン様は呆れたように頬杖をついた。
「…………うーん、勘違い馬鹿って変に無敵だからねぇ」
そう呟き、しばらくうーんと唸っていると、アイン様は神妙な面持ちでこちらに向き直った。
「フルルちゃん、今フルルちゃんって好きな人とかいる?」
「……いないですけど」
今度はニーチェさんに振り返った。
「ニーチェは?」
「俺もいないですけど?」
その答えをきいてアイン様は少し満足そうに微笑んだ。
「ねぇフルルちゃん、しばらくニーチェに、婚約者のふりをしてもらうのはどうかしら」
「はい?」
「あぁ、なるほど」
その提案に疑問だらけの私とは違い、ニーチェさんは何かに納得したのか深く頷いていた。
「確かに、俺と婚約していることにすれば、アイン様ないしは王族が後ろについてくれるから、下手なことはできないだろうしな」
「そうそう、それに変な相手今から探すより自然でしょう?」
それはそうだけど、あまりにも愛称呼びと言い、かなり迷惑ではないだろうかと悩んでいると、ニーチェさんは即座に答えた。
「俺は構いませんよ、別に」
「えぇ?」
あまりのニーチェさんの気軽さに驚く暇もなく、アイン様もそれに続いた。
「じゃあ、疑われても困るから、仮の書類とか根回ししとくね」
アイン様のフットワークの軽さに驚く暇もなく、ただ、ただ戸惑っている私にニーチェさんはけろっとした表情で答えた。
「まぁ深く考えなくていいからな?ただ、ボディーガードが増えたと思ってくれればいいから」
「えぇ……でも本当に大丈夫ですか?」
「いーのいーの、こういう時は素直に甘えていいんだって」
と、二人はかなり優しく諭してくれたが、本当にこんな優秀な二人に守ってもらえる価値なんてあるんだろうか、と不安に駆られ断ろうとしたが、それを察したのかニーチェさんが答えた。
「変にここで遠慮して、フルルが怪我したり、嫌な思いをする方が俺らは嫌だからさ」
「……わかり、ました……」
「よし、いい子だ」
ニーチェさんは、にかっと笑うと、よしよしとヘアセットが崩れない程度になでると今度はアイン様が口を開いた。
「とりあえず最初は口裏だけ合わせる形にしとこうか、もし、書類作るにしてもいろいろ手続きいるしね」
それはおいおいね、とつぶやいた後にアイン様も、私の頭に手をのせてつぶやいた。
「にしても苦労が絶えないねぇフルルちゃん」
「はぁ……まぁ……」
なんか、思い出しただけで胃がねじ切れそう、と思わず遠い目をしたら、ニーチェさんがものすごく心配そうな表情で顔を覗き込んだ。
「とりあえず今日はかえるか?」
「うぅ……はいぃ」
そのあと、なんとか伯父様を呼んでもらい、無事に家に着いたのだが、いろんなことが起こりすぎて翌日、学院を休んでしまったことについては、不問にしてもらいたい気持ちでいっぱいだった。
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