ぼんやり令嬢と親しき呼び名の許可
お昼休みに、ちゃんと朝の宣言どうり、恋愛小説を借りるべく、図書室にいったはいいものの、なぜか、暗器大全はすぐに見つかった。
その一方で、最近のはやりものが全て借りられてしまっており、うんうん唸り探して、何とか気になったものを、二冊ほど新規開拓として選ぶことができたが、それを見ていたシャロに
「どうしてそんな、険しい顔になるのよ。」
と呆れられていたが、せっかく時間を使うんだったら、いいもの読みたい気持ちが表情に出ちゃうようで、多分、可愛い令嬢は、こういうとこでも可愛い表情をキープできるんだろうなぁ。
まぁどうでもいいけども、と借りれることに安心し、図書室から出ようとすると、見覚えのある後姿が目に入った。
「ニーチェさん」
思わず声をかけると、その人影は、すぐにこちらを振り返ってくれた。
「よ、フルストゥル嬢」
「ご飯食べに来てたんですか?」
「そうそう、たまにはこれ使わないとな」
ニーチェさんは、例のラウンジのカードを見せてくれた。
なるほど、ニーチェさんも役職的によく来るから渡されてるのか、福利厚生の塊なのでは?王宮って。
「なるほど」
カードをまじまじ見る私の隣でシャロは私の顔を凝視していた。
「……珍しいわねぇ」
「?何が」
「フルルが、自分から男の人に声かけるなんて」
「……挨拶くらいはできるよぉ」
シャロは、私を心底意外そうな顔で見てくる。
そりゃ、婚約者がいたころは、いろいろやっかまれることもあって、男の人と、そんなに喋らないようにはしてたけど、さすがに破棄した後だし、ほぼほぼ、毎日顔合わせている人を、無視なんて、そんな失礼を超えてやばいことできないよ。
と答えるも、シャロは不満げに答えた。
「私の兄には話しかけないのに?」
「だって、小公爵様怖いもん……」
「小公爵様って、他人行儀な……お兄様泣くわよ?」
シャロのお兄様、目つき怖いし不愛想で怖いもの、何考えているかわからないから、偶然、町であっても、逃げてることがばれていたとは。
……次はもっと上手に逃げよう、何なら迷彩魔術で隠れよう。
「無視されなくてよかったよ、っと何借りたんだ?」
ニーチェさんはそのやり取りを、にこにこと眺めた後、私が持っている本を、興味深そうに眺めてきたので、本を前に出しながら答えた。
「恋愛小説と、暗器の歴史です。」
「どうしてそういう組み合わせになったんだ?」
心底意外そうな顔をしてきたニーチェさんに、淡々と答えるも、少し困ったような笑みを浮かべて答えた。
「失われたキュンキュンを補給しようと……」
「あ、そっちの説明からするんだな」
「こっちは今後の参考に……なりますかね?」
「俺に聞くんだそれ、ならないほうがいいだろ」
ニーチェさんは首を振るも、シャロは神妙な面持ちで頷いた。
「いや、なるかもしれないわね」
「うーん、多分?」
オルハには止められたけど、ちょっとくらい頑張って使えるようになった方がいいのかも、と表紙を凝視すると、ニーチェさんは優しく咎めた。
「事情は聞いてるけど、危ないから止めような?」
「はぁい」
「あっ知ってたんですか、私もついさっき聞いたばかりなのに」
「まぁな、ほぼ毎日会ってるし」
「やっぱ意外だわぁ」
シャロは意味深に呟くと、ニーチェさんが意外そうに私を見て、首を傾げた。
「……そんなにお嬢ちゃんって隠し事多いのか?」
「隠し事っていうか、あんまりそういうこと自分から言わないし、聞かれないと永遠といわないし、問い詰めても、大丈夫っていって、口割らないときあるからね。」
ちょっと恨みがましく聞こえるのを、気のせいだと仮定して、胸を張って答える。
「だって可愛いシャロに心配かけたくないもん」
「そういう配慮が余計なのよぉぉぉぉぉ」
「なんでぇぇぇ」
我ながら満点の返答だったのに、なぜかシャロはそう言いながら、容赦なく、私の体を大きく揺らしてくる。
「ああああぁぁぁぁ、世界がゆれるぅぅぅ」
あまりの勢いに、体がふらふらになるが、それをまるで、子供のけんかを見ている親のように、やれやれといった素振りで、優しく止めながらニーチェさんは苦笑していた。
「いつみても仲がいいな君らは、じゃあフルストゥル嬢また迎えに行くから」
「ねぇ、フルストゥル嬢って長くない?しょっちゅう会話するんだし」
シャロは、ちらりと私とニーチェさんを交互に見てから、腰に手を当てて私たちに提案をした。
「もし嫌じゃないなら、愛称で呼んでもらえば?その方が、あのバカへのけん制になるでしょう?」
「ふぇー」
間抜けな声を出しながら、愛称で呼ぶのって、かなり親しくないとできないことだし、まぁ相手がニーチェさんなら、バックに王女、ないしは王妃と王様がいるから、下手に害しては来ないだろう。
私が今、王女の手伝いみたいなことをしてるのは、結構知られている。
だからこそ、変な勘繰りもされにくいだろうけど。
けどそれは、ニーチェさんに得が全くなさすぎるのでは?
普段から、かなりお世話になってるのに、お付き合いしてる女性とかいるなら、誤解を生むのでは、と一瞬のうちで考え、不安を巡らせていたのに、ニーチェさんはあっけらかんとした口調で答えた。
「あぁ、いいよ」
「正気ですか?自分が何言ってるかわかってます?」
あまりの衝撃に、逆に失礼な発言をかましてしまうも、そこに怒るわけでもなく、ニーチェさんは答えた。
「わかってるし大丈夫だよ。俺、今仕事が恋人すぎて、そういう相手もいないし安心しな」
「えっ?こんなにかっこよくて、お仕事できて、気遣いもできるのにどうして……?」
本心からの驚きを、そのまま伝えるも、ニーチェさんは慣れてるのか、顔色を一切かえず、いつものシャロのごとく笑顔を浮かべた。
「ありがとうなー」
と、受け流した後、すぐさまこちらを心配そうに見てきた。
「って俺は大丈夫だけど、嫌じゃないか?」
「いやそんなことないですけど、本当に正気ですか?」
「まだ言うんだなそれ……。まぁ、嫌じゃないならよかったよ」
と、安心したように、肩を落としたあと、さわやかな表情に戻った。
「じゃあな、フルル また迎えに来るから」
「……はい」
唐突に、そう呼ばれたことに対しての衝撃、そもそも、そういう風に、私のこと呼ぶような男の人っていなかったせいか、素直に照れてしまい、少し間が開いてしまった。
そのせいか、ニーチェさんは困ったように首を傾げた。
「……やっぱ嫌だったか?」
「いや、そういえば、ほとんど男性にそう呼ばれたことなくって」
「さては照れてるわねフルル」
「おっしゃる通りですシャロ」
名探偵よろしく、シャロに鋭い推理を披露され、ただただうなだれる私を見てニーチェさんは笑顔である。
「まぁ慣れてくしかないな」
ニーチェさんは、嫌な顔も声もださずに答えると手を振り、さわやかにその場を去っていった。
その日の放課後、愛称呼びをすることにしたのを、アイン様に報告すると
「あぁ、そうなの?じゃあ私もフルルちゃんって呼んでもいい?」
「っはいよろこんで」
アイン様に嬉しい提案をされて、るんるんで受け入れると、それを見ていたニーチェさんは、ほほえましいと言わんばかりの表情を浮かべた。
「今日一いい笑顔だなぁ、まぁよかったなフルル」
「ぐぅ……」
慣れない呼び名に、まるで、お腹に一撃食らった人のようなうめき声をあげる私を、心配そうに眺めるニーチェさんとは打って変わって、アイン様はその様子も込みで
「あらあら」
……と紅茶のアテにしていた。
なんかその様さえ、絵画のようにみえ、うっかりなんか懺悔する勢いだが、その勢いついでに
とりあえず、顔のいい男性からの愛称呼びは心臓に悪い。
ただし、性格もよくなければいけない。というのは、今後テストに出すべきだと思うと、心の中で、架空の何かに問いかけていた。
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