ぼんやり令嬢とダンスレッスン最後に理不尽を添えて
なんやかんや他の授業が終わり、とうとうチェルシー先生のダンスの授業の時間になった。
「……よろしく頼む」
「よろしくおねがいします。」
私が先生に頼まれてペアを組むお相手は、バーナード・フィリップス辺境伯子息はそれだけ言うと、大きい手を差し出してきたので、こちらも素直に手を差し出したが、バーナード氏は一瞬硬直した後赤面し、慣れてない手つきで握り返してきた。
……控えめにいって純度が高すぎやないか?君、シャロほどかわいかったら、緊張するのはわかるけども、私程度で緊張するんじゃあないよ?生きてけないぞ?
と心配になりつつもバーナード様に向き直った。
「とりあえず一回通しで踊りますか」
「はい」
そうして、ダンスの基本姿勢を取ろうとするも、バーナード様はその時点で、かなりがちがちに固まっていた。
「えー、バーナード様?……緊張しすぎでは?」
「すまない……」
「いや謝るほどじゃないですけど」
これ、踊る以前の問題だよなぁ。
まぁ、気持ちは分からなくもないが、先生に頼まれた以上、及第点までは何とかしなければと思い、一度深呼吸をした。
バーナード様、基本的に、ダンス以外の社交マナーはできている。
他の授業でも、理解に苦しんでなさそうな印象だ。
だからこそ、意外だなぁと思っていたが……。
そして、何個ある予想の中からまさかなと思いながら、疑問を問いかけた。
「あー、見当違いだったら申し訳ないですけど……女性苦手です?」
「ぐっ……」
あぁ、その反応図星なのね、大丈夫予想はついていたよ。
心の中で、今朝のオルハ同様、優しい目をしつつ、もしかしての可能性も加味しつつ、恐る恐る問いかけた。
「なんか深い理由とかあります?もし、そういうのだったら先生に相談を」
いやほら、いろんな家には家の事情というかがありますし、トラウマとか、人によっては違うし、現に、そういうので実習を受けない代わりに、座学やちょっとした奉仕活動で免除されてる人いるし、と親切心で申し出たがバーナード様は首を横に振った。
「じゃあ、私が嫌いとか?ペア変わります?もしそうだとしたら、全然変わるし全然傷つきもしないですよ、私」
「いやっそんなことない絶対に……」
バーナード様は、即座に否定すると、自身の手を眺めた後頭を抱えてつぶやいた。
「だって脆くないか?女性って?ちょっと触ったら皮膚とか裂けるのでは?」
「いやいやいやいや……」
ポーズも相まって、まるで、人と仲良くしたい魔物みたいになってて、ちょっと笑いそうになったが、思ったより軽い理由で安心した。
まぁでも、体格とか力とかは男性の方が大きかったり、強かったりするから、女性を傷つけないように、と慎重になるその気持ちは紳士的ではある。
「大丈夫ですよ、そこまできをつけているのなら、怪我をさせることはないでしょう。それにばかり集中して、転んだりする方が危ないですよ。」
「……そ、そうか」
「時間はありますし、ちょっと、他のペアの練習でも見てからやりましょうか。」
「すまない……」
縮こまる背中を見て、こっちが攻めてる気分になり、こちらも縮こまりながら、なんとか声をかける。
「まぁまぁ、こういうのはお互い様ですよ。ゆっくりやりましょう?」
「あぁ、ありがとう」
そのあと、何回か通しの前に、パートごとの練習をした。
最初のがちがちの緊張から、だいぶリラックスし、どうにか踊れてないこともないかな、というところまで到達したときに、チェルシー先生が近づいてきた。
「いやーよくぞここまで仕上げてきたね二人ともウンウン、先生は嬉しいよ」
先生は、可愛らしくウソ泣きしながら満足げに頷いているのをみて、バーナード様は、首を横に取れるんじゃないか、と言わんばかりの勢いで横に振った。
「いえ、全部フルストゥルさんのおかげです。」
「いえいえ、緊張してるだけで、バーナード様は物覚えいいですから」
やんわりと、否定している私の頭に、チェルシー先生は、ぽんぽんと、優しく手を置いて続けた。
「謙遜はよくないよーフルちゃん、たしかに、うちのクラスには優秀な生徒さんが多いけど、その中に君も入ってるからね?」
「ありがとうございます」
「ウンウン、素直でよろしい」
ニーチェさんに言われた通り、素直に賛辞を受け取ると、チェルシー先生の笑顔はさらに輝きを増した。
さらに、その輝きを増した笑顔で、先生は私の体をそれはもう鮮やかに引き寄せた。
「さて、ちょっと見本を見せようか、いいかいフルちゃん」
「……先生」
「なんだい?」
「先生ってアイライン、リキッド派なんですね」
ここまで至近距離で見るのって、初めてだから、顔を観察しようと、凝視した結果を報告すると、先生はさらりと答えた。
「そだよー」
と、いうだけで動揺した様子は見せなかったが、それを見ていたバーナード様は
「……いう所そこなのか、フルストゥルさん」
とちょっと驚いていた。
むしろ何を言うんだ他に、この状況で リップのお色でも聞けばいいのか、そうか聞けばよかった。
そんな小さな後悔しているさなか、音楽は流れ始めた。
「さてさておどろっか」
「はい」
……踊っているさなか先生は、流石先生だなぁ。ということしかできなくなるほど、とても踊りやすかった。
体の重心を移動するときも、かなりスムーズだし、強引さがあるわけでもなく、次のステップへの不安もなく、歌を歌ってるくらいの軽やかさだった。
しかも先生は踊りながら
「ここは、すこーしテンポが速くなるからねー。覚えといてよー」
「ここは、無理にターンしなくてもいいよ。すこーし横にそれるイメージで」
「はい、ここーちょっとステップ複雑だからねー」
と、的確なアドバイスをしてくれるおかげで、見ている生徒だけでなく踊っている私自身、なるほどなぁと感心していた。
私が、ある程度のダンスが平均レベルで踊れるのは、昔からの教育のおかげだが、正直、義務教育として、母親にかなり怒られながらならったので、そのせいかそこまで好きではない。
だからこそ、多分、そのころの先生がチェルシー先生だったら、もっと踊るの好きになってだろうなぁ、とすら思っているうちに曲が終わった。
「うん、やっぱりフルちゃんは上手だねぇ」
「ありがとうございます。」
「みんな、踊るときは、過度な力は抜いちゃっていいからねー。あとは笑顔、笑ってればなんか上手に見えるからね」
と、生徒全員に言っていいのか、という、ざっくばらんなアドバイスをした後、バーナード氏の肩を叩いた。
「バーナード君も、ここまでよく頑張ったね。及第点をあげよう」
「はい」
「あとは慣れだね、フルちゃん、しばらくこの授業では、バーナード君とペアでいいかな?慣れてる相手のほうがいいだろうし」
先生の、その発言に納得し、私は懸念点について、周囲に聞こえない程度の声で問いかけた。
「大丈夫です。ああでも、バーナード様は婚約者とか、好きな人とかいませんか?いるなら誤解といといた方がいいですよ?ハチャメチャ暴言とか、吐かれる可能性ありますし」
なんていったって、私、めっちゃ罵詈雑言投げられてましたしね。
授業なんだよこっちは。
ちゃんと授業受けてるだけなのに、なんで、気やすく男に体を許すとはとんだ娼婦だとか、何だよ許すって、だとしたらお前は何なんだよ。
と、思い出せば出すほど、理不尽な暴言を思い出し、頭と胃が痛くなった。
「いや、いないが……え?暴言?」
驚くバーナード氏に対して、いろいろ事情を知っているであろう先生は、飴を渡しながら呆れたようにつぶやいた。
「フルちゃん、そーゆーのって可愛らしい嫉妬だけで終わるんだよ?そもそも授業だしさ。」
「嘘・・・私、すごい暴言吐かれましたよ。」
「そんな理不尽な……」
「あれってやっぱ、他人から見ても理不尽だったんですねぇ」
バーナード氏の発言に、自身の考えが世間とずれていないのを、確認でき安心したのであった。
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