ぼんやり令嬢は目の前で上下関係を見せられるようです
「ルギオスとずいぶん親しげでしたね」
「ラフレーズ様」
図書室を出ると、いつも男子生徒に囲まれているラフレーズ様がたたずんでいた。
「普通に話してただけですよ?」
あれを親し気にカウントするのであれば、私多分全人類と友達なれる勢いよ?
……まあ、去年の私であれば普通に話すのも難易度高すぎて無理だったろうけども……。
でも、一言二言よ?
「……フルストゥル様にとってはそうでも違いますよ」
そういった後に、ラフレーズ様は忌々し気な表情を浮かべた。
こらこら美少女がそんな顔を……という気持ちは通じず、ラフレーズ様はいつも男子と話すときの声よりかなり低い声で小さく続けた。
「あいつ、自分から他人に関わろうとなんてしないんで」
「え?そうなんですか?」
むしろ私やシャロが話しているのを遠くから見ていたり、私が無力感に打ちひしがれているとき、やんわりフォローを入れてくれることはあるけど、あれも自らとカウントするとわりと話しかけてくれているのかもしれない。
でも多分あれほぼ憐憫よ?
ほぼ純度100の情けよ?
聖職者だから助けてくれてるだけよ、多分と首を傾げているとラフレーズ様は腰に手を当てた。
「少なくとも……私が高いところの本に手が届かなくてもとってくれるような奴ではないですよ」
「えぇ?」
「いや本当に……はぁ……」
心から呆れたといった様子のラフレーズ様をみて、私そんなため息つかれるほどのことしたかしら?と思い固まっていると、ラフレーズ様はさらに続けた。
「まぁ、フルストゥル様はまともに恋したことないから当たり前か」
「いや、婚約者いるのに恋してたら大問題なのでは?」
「あぁ、もう生真面目!!!前時代的すぎ!!!」
「えぇ……???」
それ、悪いことなの?というかとにかく理不尽……と棒立ちで聞いていると、どこからか視線を感じ廊下の方を振り返って見てみると、自分と同い年くらいの男性が目を大きく見開いてこちらを見ていた。
何にそんな驚いているのだろう?
……はっもしかして、私がラフレーズ様をいじめてると勘違いしているのでは?
最近、変な噂が立ち消えたとはいえラフレーズ様の人気が全く無くなったわけではない。
でも、なにも悪いことはしてないし……と考えているうちに、その人物は近くまで来ていた。
まずいと思ったがその方は私の目の前で止まり、大きな声で問いかけた。
「貴方がフルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢ですか?」
「……へ?あ、あぁ……はい」
思わず逃げたいという気持ちと、ここ最近の癖で、何かあったらニーチェさんの背に隠れるということに慣れていたせいか、一瞬隠れる場所を探したがそんなものはなく、おずおず対応していると怖がっていると思われたのか、その人物は頭を下げた。
「驚かせて申し訳ありません。私は……」
「……何をしているフリッツ」
「ルギオス様」
先ほどまで図書室にいたルギオス様が、私と男性の間に立ち、まるでいつもニーチェさんが私を背に庇うような形になった。
「……すいませんフルストゥル様、驚かせてしまって、彼は私の侍従です」
「フリッツと申します驚かせてすいません」
ルギオス様の圧のせいか先程の勢いが削がれ、むしろ頭を何度も下げ始め逆に申し訳なくなってしまった。
「いえ……でもどうして私のことを?」
「いえ、その…噂には聞いていたので」
噂?なんだろうかと、疑問符を浮かべると、フリッツさんはばつがわるそうに小さな声で答えた。
「フルストゥル様とフェオドラ様の雰囲気が似ていると聞いていたので……」
「……フリッツ」
「すっすいません」
ルギオス様の圧があまりにも強く、萎縮するフリッツさんが可哀想で……でも、聞かれたからとはいえ、なかなか触れにくい話題だなぁと苦笑しながら答えた。
「まぁまぁ、驚きはしましたけど不快な思いはしていないですから」
「ご厚情いたみいります……」
「いえいえ、では私はこれで……ルギオス様、ラフレーズ様、フリッツ様失礼します」
下絵とか、何個かラフも描きたいし、ここにいてまた不用意な発言をしたら、またルギオス様の何かに触れ、フリッツ様が怒られる図は,
正直見ててしんどいしなぁ……とその場を私にしてはなかなかの速さで離れた。
――フルストゥルが足早に去った後、ルギオスはずっとその背中を眺めていた。
その目が少し揺れているように見えたのは、ラフレーズの見間違いか、それとも事実か……けれども、どちらにせよ、自身には関係ないしうまく転がればいいとさえ思い、特に何か言うわけではなくその場を去ったのであった。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。
お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。




