ぼんやり令嬢はやんわり課題を追加されるそうです
昼以降の授業も何とか睡魔に打ち勝ち、ようやく放課後になった。
実は、もうほぼ芸術祭に展示する絵の提出はできており、下校しようと思えば全然できるのだが、まさかの担当教員に引き止められ
「ちょっと壁が寂しいからもうちょっと……ね?」
と、遠回しに圧をかけられてしまった。
元々、課外授業のための家事練習が免除されて、その空き時間で色々とすすめられていたお陰で余裕があったのが目についたのだろう。
そして、課題でもなく、急に頼んだことへの負い目なのか、こうして空き教室を好きに使っていいという大義名分と、常識的範囲であれば何を描いてもいいとまで言われた。
……というか、本当に切羽詰まってたんだなぁ、先生……。
確かに、芸術祭は国内外から沢山のゲストも来る。
将来的に芸術の道に行きたい方々にとっては、自分を売り込むチャンスだろう。
そりゃあ、自分の作品の方にかかりきりになっても仕方がない、人生がかかっているんだし。
こちらとしては、そういった方々の邪魔になるつもりも、腹を立てる気もさらさらない。
絵を描くのは好きだし、別に減るものでもないし別にいいかという気持ちだが、なんとなく筆が進まないのは、何のせいなのかと首を傾げるとふと外の空気が吸いたくなり、窓を開けると、暑くも寒くもない程よい風が頬を撫でた。
ゆっくり息を吐いて吸った後にもう一度キャンバスをみるとなんともいえない不思議な気持ちにおそわれた。
まさか自分にここまで余裕が出来るとは……という気持ちと、まだ何を描けばいいかわからないふわふわした気持ちとが混ざりあったようなそんな気分だ。
うーん、ある意味「なにかいてもいいよ」は、書くものを指定されることより逆に難しいのかも知れないな、と首を傾げた。
……本当に何かいても大丈夫なんだろうか?いや別に、なんか思想が強いものとか、それこそ風刺画なんて書こうなんて思ってないけど……。
馬も、花も、鳥も、ヴィオルやロテュスの街並みも描いたし……やっぱり、ここは竜とか?やっぱりキャシャラトといえば、だし。
そうだそうだ、と自分の中の小さな群衆も納得したところで、一旦真っ白なキャンバスに背を向けて図書室に向かった。
いや、流石に何も見ないで竜を描く自信ないしねぇ……と、とぼとぼと図書室にいくと思ったより人は少なかった。
やっぱり芸術祭の追い込みなんだろうか?、いや多分もう資料で使うものはとうの前貸し出されていたり個人で買っているんだろう。
もしくはすでに家にあるとか、まぁ、ものすごく混んでいるよりかはマシだしいいかとじっくり資料を探すことにした。
そして十数分後……相変わらずどうして私が読みたい本は高いところにあるんだろうねぇと小さく絶望しながら、はしごか脚立はどこでしたっけ?とあたりを見回していると視界の端にきらりと光る金の髪が見えた。
あ、ルギオス様だ。
と脳が判断したのと同時にあちらもこちら側の視線に気づいたのか、視線が合うと何かを察したのかルギオス様がこちらに向かって歩いてきた。
「何か困ってますか?」
「え?」
「そんなような顔をしていたので」
そういうと、あれですか?というや否や、即座に気になっていた本を取ってくれた。
「ありがとうございます」
「あとは大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫ですありがとうございます」
目があっただけだというのに、まさかここまで助けてもらうことになるとは……申し訳ない、と思っているとルギオス様は首を振った。
「あまり気にしないでくださいそんな手間でもないし」
「ありがとうございます……えぇとルギオス様は何か調べ物を?」
「まぁそんなところですかね」
そう答えるルギオス様の瞳は一瞬だが暗い色を帯びていた。
家庭環境を考えると、家にいるのは苦痛なのかもしれない。
……うーん、何か相談に乗りたいけども私にできることなんてあるのかな?
うーん、と思っているとルギオス様は気にした様子もなく話を続けた。
「フルストゥル様は?」
「あぁ、実は……」
と、芸術祭の展示の話をするとルギオス様は心配そうな表情を浮かべた。
「あまり安請け合いしないほうがいいですよ?」
「いやいや、別に死ぬほどのことでもないですし」
正直、パーティーに行くのより全然ましだし、と少し後ろめたい気持ちがありながら答えると、ルギオス様は優しい表情を浮かべた。
「無理はしないでくださいね」
そう言うルギオス様の声はとても優しく、ただそれだけに与えられた親切をどう返していいか分からない自分が歯がゆく
「えぇ、ルギオス様も」
と社交辞令を返すのが精いっぱいだった。
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