ぼんやり令嬢と手紙の山
一難去ってまた一難、タウンハウスでゆっくりコーヒー……ではなくカフェオレを飲んでいると伯父様が笑顔で告げた。
「そういえば、そろそろ社交シーズンだねぇ」
「あぁーーそうかぁそうだったねぇ」
かなりまったりしてたが、そういえばこの時期は芸術祭に来る海外の方との色々と交流を深めるために割と頻繁に夜会だの茶会だの……まぁいわゆる社交シーズンというものが再びやってくるのだった。
言われるまで忘れていた自分は本当に大丈夫なんだろうか?いや、まだ問題はおこっていないから大丈夫とはいえ去年は何をしていたんだろうか?復学してはいたのになぁ……。
あ、そもそも誘われていなかったんだった。
そんな自問自答をしている私をにこにこと見ながら伯父様は口を開いた。
「今回はリーセ嬢のキャシャラトでの社交デビューもあるからね」
「あー、そうですよねぇ……色々と大丈夫でしょうか?」
「マナーとかに関してはレイラントは古風なところだからねそこの心配はいらないと思うよ?ドミートリィ家も彼女を大事にしているそうだし……」
おばあさまの実家だし、一度会ったことはあるけどかなり穏やかな雰囲気のご家族だったし、リーセ様がまだ遠慮しているだけで冷遇はされていないようでほっとして息を吐いた。
「ならよかったです……でもよからぬ人もいると思うので守らねば」
何しろあの美貌、見とれないほうがおかしい、この国に来たばかりの頃は儚い氷の華といった雰囲気だったが今では春をつかさどる女神と言っていいほど穏やかで、柔らかく、そして相変わらず優美で気品あるその姿に、近づきたいと思うのは当たり前だ。
しかも、当たり前だから婚約者いないし……と口を真一文字に結びながら考えていると伯父様は優しく笑っていた。
「凛々しい顔してるねぇ…そういう顔してると姉さんに似てるんだけどね…はい、そんなフルルに招待状ね」
「あぁまぁそんなにあるんですか」
伯父様が示す先には、おそらくエフレムさんが整頓してくれたであろう手紙の塔が出来ておりある種の芸術作品みたいになっていた。
これ全部?という思いからただでさえ元から下がっている眉毛が更に下がっていると、伯父様も一緒に眉を下げた。
「減らしてこれなんだよ」
「減らしてこの量????」
思わず大き目な声をあげるとウォーレンさんもエフレムさんも申し訳なさそうに頭を下げた。
真面目な二人の対応に、あぁこれは本当なんだとうなだれた。
「やっぱりアイン王女の影響だろうね……あ、勿論ツーイちゃんからのもあるよ」
やはり社交界に出ていないと言っても、流石アイン様……その影響力は計り知れないなぁ……。
あと最近になって、私とツィリアーデ・ディルフィニウム侯爵夫人が姉妹ということがわりと有名になったこともありそうだなぁと遠い目をした。
「お姉ちゃん最近会ってないなぁ」
「きっと首を長くして待ってるよ……もっと気軽にあったっていいのに、それに侯爵も会いたがってたよ?」
「リヒャルト義兄様が?」
「ほらディルフィニウム侯爵家は男兄弟しかいないから妹が欲しかったーってよく言ってるじゃないか?フルルは骨董品の話や芸術品や歴史の話をしても嫌な顔しないで聞いてくれる―って」
伯父様のその言葉に私はあぁ、と納得した。
リヒャルト義兄様は、ざっくり言ってしまえば好事家で、やれ骨董品だ何百年前の処刑用の毒を入れていた瓶だのやれ刑務所のカギだの、昔の暗器だの、もうちょっと縁起のいいもの集めたらいいのに……といってしまうお姉ちゃんの気持ちも分からんではない。
けど、好きにしたら?と放任しているあたりお姉ちゃんらしいなぁと感じつつ、
けれどリヒャルト義兄様、少し興味深いものがあるのは事実なのでついついお話を聞いてしまうのだ。
「リヒャルト様、わりとマニアックなとこ好きだからなぁ……」
「まぁまぁ、ある種の男のロマンってやつだね…この前会ったけど元気そうだったよ」
そうかぁと思いながら、手紙を一つ一つなんとなく眺めていると、なんとマクシミリアン子爵家……だけでなくラフレーズ様のお家であるドミニオン伯爵家からも招待状があり一時停止してしまった。
「うん????」
「あぁ、なんだか最近娘を売り込む気満々なんだよねぇドミニオン家……最近彼女、どうなんだい?」
少し含みのある言い方なのは、なんとなくしか伝えてないがラフレーズ様の人となりを知ってるからかうなだれていた。
「相変わらずギャラン様に猛アタックですよ~最近じゃあバカバカしいって言ってシャロも注意してないしねぇ……」
むしろ注意したらめんどくさいことになるんだよなぁ、何故かシャロのこと目の敵にしているし……。
でも、確かに本気でギャラン様を狙っているとなれば、シャロみたいに可愛い上に何でもできて家柄もいい子がおれば
「あらら、なかなかにすごい子なんだねぇ……ジィド君大丈夫かなぁ」
「いやぁどうなんだろう?お兄様は彼女の好みなのか……そもそも私のお兄様だということに気づくのか……」
「いや、案外二人ともそっくりだから」
伯父様はそう優しく笑ったのだった。
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