ぼんやり令嬢は優しくお迎えをされるそうです
「久しぶりフルル」
「……はい」
相変わらず優しい表情と声に安心するもつかの間、寄りかかっていたことを思い出し急いで自力で起き上がった。
「すいません」
「いや、大丈夫大丈夫……疲れたろ?」
「そうですねぇ」
料理とかが……というより、これだけの人数での集団行動とかにですかねと心の中で付け加え、自然にニーチェさんの手を取るとわざとらしくそれを遮るかのように、大きな咳払いが聞こえ、振り返るとマクシミリアン子爵がいやみな表情を浮かべていた。
「そういえばお二人は婚約者候補でしたねよければ子息も……」
「あぁすまない子爵、久しぶりに会えた婚約者と水入らずの時間を過ごしたくね」
「そう……ですか……」
穏やかに、柔らかく拒否をするとそれ以上口を挟めないと思ったのか、残念そうな表情が浮かんでいた。
いやいや、感情まるわかりだって……と呆れているもつかの間、そのままニーチェさんに手を取られ歩いた。
「行こうフルル、アイン様も待ってる」
「あ、はい」
しばらく歩いて大分人影が減ったところで脱力したようにため息を吐いた。
「はぁあ……助かりました」
「ならよかったよ」
「はぁあああ」
「すごいため息だなぁ」
大変だったなぁ、と頭をぽんぽんと触るニーチェさんに謎のなつかしさのようなものを感じ、何故か謎の安心感を覚えた。
「ふぅ……ってそういえば伯父様やオルハは?」
「あぁ、先に声かけてきたから大丈夫だよ。それよりもうアイン様がフルルちゃんも弟もいない~つまらない~って駄々こねててさぁ」
「そう言っていただけるのは嬉しいです」
相変わらずニーチェさんの前では可愛らしいんだなぁ、あとそういう風に思ってもらっているのはありがたいことだなぁと感動しているとニーチェさんはいい笑顔で答えた。
「それはよかった。まぁ……そういうのは建前で俺も久しぶりに会いたかったからさ」
「ぐぅうう」
本当この人は心臓に悪い。
びっくりしすぎて肩脱臼しちゃうかも
どこでどういう風に育ったらこんなことを自然に言えるようになるんだ。
恐るべし、王都育ち……いやでも、レヴィエ様とかジョシュア様とか王都育ちだけど違うんだよなぁ……。
そうなると単純に、流石ニーチェさんって話になってこないか……?
え?じゃあやっぱりニーチェさんすごいな……。
そんなことをほんの数秒間考えている隙に、ニーチェさんがこちらを屈んで覗き込んだ。
「だいじょぶかぁ?」
「うわぁ……心臓止まったぁ」
「止まった???止まるかと思ったとかじゃなくて??」
「過言でした」
「そっかぁ驚いたんだなぁ」
よしよしとまたまた頭を撫でながら、アーレンスマイヤでもベルバニアでもハイルガーデンでもなく、王家の紋が入った竜車にスマートにエスコートしてくれる最中、ふと視線が気になって振り返るとマクシミリアン子爵家とラフレーズ様が目に入り、会釈をした後竜車に入り極上の座り心地の椅子に座ると、一気に疲労が襲い掛かってきた。
「お疲れ」
「はい」
「着くまで休んでていいからな」
「……ありがとうございます」
ポンポンと心地いい感覚で頭を撫でる手が心地よく、眠くなってきてしまいそのまま瞳を閉じた。
……まぁ、そうだよねそりゃ寝てる間に着きますよねぇ……。
まったく私って子は愚か者なんだから、久しぶりの再会の初手の初手で爆睡する愚か者がどこにいる?ここにいるんだよなぁ……と自分の愚かさに呆れているも、ニーチェさんは通常運転だし、御者の人も課外授業お疲れ様ですと言いながら飴とクッキーを手渡してくれた上に守衛さんたちも、大変だったねぇとねぎらってくれ、なんだろうこの既視感……あぁ、これあれだ。
ユスーポフ子爵家、ないしはディルフィニウム侯爵家に行くとされる親戚特有のあれだわ……。
というか皆さん私のことどう思っているんだ?いやまぁ嫌われてないならいいのか……馬鹿にされてるわけでもなさそうだし……と自分を落ち着かせ、ニーチェさんの手を取り久しぶりの王宮へ足を踏み入れた。
「お疲れ様フルルちゃん」
「アイン様」
相変わらず美しいアイン様を拝みつつ頭を下げると、柔和な声でアイン様は続けた。
「疲れたでしょう?美味しい紅茶用意したのよ」
「ありがとうございます」
そして通されたのはアイン様の執務室兼サロンで、ここに来ると自然と雑務をしそうになるがそれはニーチェさんにやんわり止められた。
「はいはい大人しく休む~」
「そうよ~」
「すいません……ってギャラン様は?」
「あのこは大丈夫でしょう頑丈だし」
「確かに……」
王太子に頑丈っていうのはやや失礼かもしれないが、確かにギャラン様は頑丈なんだよなぁ。
体術や武器を使った修練の後もけろっとしてるし、以前竜が暴走しかけたときもとても冷静だった。
本当に同じ種族とはいえ、ここまで能力の差があると拝んでしまうまである。
「フルルちゃんはか弱いからねぇ~それに心配なこともあったしねぇ」
「心配なこと?確かに転びはしましたけど」
「え?大丈夫だった?」
「あ、大丈夫です完治してますから」
「そこじゃないんだよなぁ」
ニーチェさんはがくりと肩を落としながらゆっくりと紅茶をいれてくれるのだった。
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