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ぼんやり令嬢と追いかけてくる過去

「大丈夫ですか?」


「大丈夫でありたいとは思ってはいるんですよ」


 ルギオス様のお声がけに、自分でもどんな返答?と思ったが、それくらい脳の容量を食われてしまうくらい色々と重たい一件だったのが嫌でも再確認させられた。

 帰ったらしばらく家から出ないで穏やかに過ごそう……。

 積んだまままだ読んでいない本とか、伯父様がわざわざ取り寄せてくれた画集とかじっくり読もう……。

 久しぶりにエマとリノンとお菓子でも作ろう……紅茶専門店にでもいってすこしいい茶葉も買おう、と現実逃避しているとルギオス様が心底心配そうにこちらを見ていた。


 「……無理はしないでくださいね」


 「ありがとうございます。」


 何故か事情をあまり知らないルギオス様にものすごく心配してもらってしまっているのは、それほど私の顔色がアレだったのかもしれない。

  それにしてもここでいろいろ思い出す羽目になるとは……さっきまであった余裕がすべて胃の痛みに変換された気分だった……がそんなことなんて露知らず、広場に竜車は止まった。


 「へぇ……」


 「舌しまい忘れてる猫みたいな表情しないの」


 「それは猫に失礼、猫はなにしててもかわいいから」


 「どこに対しての配慮よ……」


 シャロはその後もでも本当に大丈夫?と気づかってくれ、そのおかげかなんとか小さめのため息に抑まった。

 けれど、色々と気が抜けていたせいか行き同様、うっかり足を滑らせてしまったがそれをまたまたルギオス様に支えてもらってしまった。


 「……すいません」


 「いえ、気にしないでください」


 また迷惑をかけてしまった。

 私ってやつは本当に……と軽く落ち込みながら広場にいくと迎えの馬車が多く並んでいた。


 それらをみてようやくはっと、憂鬱を押し込めてリーセ様の横に立った。

 アシュリー様はともかくあの皇帝になにかされないか、こちらは気が気でない……。

 

 え?レヴィエ様?いい、いい、多分国から出れないでしょうよ。

 もし出てたらレイラントという国自体が大丈夫?となってしまうけど……と、気を取り直してオルハ曰く「殺し屋みたいな顔してる……」と言われてる表情に切り替えた。


 「何ですかその表情」


 「戦用です」


 レベッカ様にそう答えるもシャロは何を言っているんだ?と言いたげな表情でばっさりと切り捨てた。


 「戦って……ろくに攻撃魔法できないのに……」


 「それは言わないで、事実だから」


 言わなきゃばれないから、と真顔のシャロにいいながらも警戒をしていると、いやでもわかりやすいほどの存在感を引き下げてロイエンタール皇帝は私たち、もといギャラン様の前へと現れた。

 当然、あちらの方が目上なので形だけ頭を下げた。


 私程度の身長で隠せるとは微塵も思っていないが、一応リーセ様を後ろに隠すように前に立っているとものすごく威圧的な視線を感じた。

 嫌でもこちらを見ているのは分かるが、私はあえてそこから退かなかった。


 「……あの……」


 「よぉ、ロイお迎えか?」


 にこやかに、けれどこちらを庇うようにギャラン様は前に出て友好的な笑みを浮かべ、ロイエンタール皇帝に手を差し伸べた。


 「あ、あぁ……」


 ギャラン様の圧に圧されて手を握られたロイエンタール皇帝は、まさか目をそらすわけもいかずおろおろとしているが、そんなことなど無視してどんどん自身のペースへ巻き込んでいった。


 「なんだ言ってくれればいいのにお前が急に来るから俺のクラスメイト達みんな委縮してるじゃないか」


 「す、すまない」


 「まーいいよ。俺に会いに来たんだもんな?とりあえずみんなは先戻ってていいよ」


 ここじゃおちつかないだろうし、といいながら一瞬だがこちらに目配せをしたのをみて、リーセ様を気遣ってくれていることに気づき謎の安心感を覚えた。


 「シャルロット嬢、悪いけど誘導頼むな」


 いつもすまないなとシャロにいうも、シャロは軽く首を横に振ってからクラスの方を見た。


 「わかりました…さぁ、皆行きましょう?」


 マオ先生が待ってるわと、皆に言い聞かせるように穏やかにいうと皆ひな鳥のようにシャロについていった。

 そのまま私も流れに乗じてリーセ様の手を引き、そのまま通り過ぎようとしたが、それは無慈悲に止められた。


 「待ってくれ!!」


 言いながら、容赦なくロイエンタール皇帝が恥も外聞も捨てリーセ様の手を取った。


 「!?」


 その行動に驚いたのは私とリーセ様、だけでなくおそらくその場にいた全員が固まった。

 

 固まってから数秒経って、この男は全く……と呆れがいっきにせりあがってきたがそんな私とは別に、軽く舌打ちをした後にリーセ様はひどく怯えているような表情に切り替えた。


「あの……私……何か?」


何が何だかわからない。

 怖い、怖くて仕方がないという表情を浮かべると周囲の反応は驚きからリーセ様への同情、そしてロイエンタール皇帝への、え?この人何なの?という懐疑的な視線へと変わった。


「あ……いや……」


「ロイ、いくらドミートリィ嬢が美人だからって口説くのはやめてくれよ?ただでさえ転入してきて初めての行事が終わったんだ。疲れてるに決まってるだろう?」


 なぁ、とこちらに視線を投げかけてくれこれは好機と思い、私はリーセ様に声をかけた。


 「大丈夫ですかドミートリィ伯爵令嬢……怖かったでしょう」


 あえてドミートリィ伯爵令嬢ということで、もうイブリス皇后ではないと強調するとあちらはなにかすがるものを失ったかのように手を離した。



 「申し訳ない……その知り合いに似ていて」


 その声はとても弱々しくそのままシャロの誘導で去る私たちを引き止める力はなかった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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