ぼんやり令嬢は穏やかな空気が好きなようです
「…………」
「…………?」
先ほどから隣同士で洗い物をしているが、ルギオス様が何か言いたげにこちらをちらちらと見てくるものの、何も声をかけてくるわけでもなくただ洗い物の音だけが間に流れていた。
「……」
「…………?」
いや、もう何か聞きたいことがあるなら聞いてよぉ~逆に怖いよぉ~なぁに?何なのこの気まずいまで行かないけどのびのびとできないこの空間はぁ~、久しぶりに感じたよこの肺が圧迫されるような感覚……。
よし、流石にこの空気には耐えられない……次、目があったら聞こうと少し気を張ってその機を伺うことにした。
「……」
「……」
「「あの……」」
やっちゃったぁ……どうしよう……。
あまりの自身の空気の読め無ささに思わず天井をみあげていると、ルギオス様が物凄く心配そうな表情を浮かべて問いかけた。
「大丈夫ですか?」
「すいません……大丈夫です……えぇとお先どうぞ」
恥ずかしさのあまり天井を見上げながら小さく促すと、ルギオス様は本当に大丈夫かな?というような表情でゆっくりと話し始めた。
「……フルストゥル様がそこまで大変な思いをしていたとは、知らなくて……少し驚いてしまって」
「いやぁ、逆に人様のこと、そこまで知っていたら怖くないですか?」
しかも人様に言うことじゃないしねぇ、わざわざ声をあげることでもないしねぇ……とのんきに考える私とは反対に、ルギオス様は戸惑いと心配が混ざった表情で続けた。
……なんだか逆にこちらが申し訳なくなる勢いだ。
「そうですけど……その、フルストゥル様があまりにも普通にされているので」
「うーん、私の中ではそれが普通で来ちゃってるから別に本当に何とも……」
だからそこまで心配せずとも、という思いだったのだがルギオス様の表情は晴れることは無かった。
……なんというか、この人本当に根は優しい人なんだろうなぁ。
家庭環境が複雑なのと、顔が整いすぎて何考えてるのか分からないだけであって、こうして心配してくれているし雨の中迎えに来てくれるし……。
うぅん、こう考えれば考えるほどルギオス様の方が心配なんだよなぁ。
私は確かにお母様と性格のずれはかなりあるものの、他の家族関係や友人関係はかなり良好だ。
悩ませていた婚約者問題も解決したし、候補とはいえニーチェさんにとてもよくしてもらっているし、勉強問題もありがたいことにマオ先生の懇切丁寧補習とニーチェさんの要点をよくまとめた私のような劣等生でもよく分かるように教えてくれるし、そもそも王宮で宿題していると色んな人が教えてくれるし……って違う違う、話がそれてしまった。
……正直、確かに一年生の頃はものすごく大変だったけど、学院に通っている間はタウンハウスにいるしお母様と毎日会っているわけでもないから、ほぼそこまでダメージは負っていない。
でも、ルギオス様は違う。
実母がいなくなった後にすぐ後妻を迎えた父親がいる気分ってどうなんだろう。
心の整理つかないなんてものじゃないだろう。
「私なんかより、ルギオス様の方がよっぽど……」
「……そうですか?」
心底きょとんとした表情を浮かべるルギオス様を見て、ちょっとシャロの気持ちが分かったような気がしてもう少し、自分のことを顧みようと感じているとルギオス様も似たように感じたらしく、軽く笑っていた。
「なんだかお互い似た者同士なのかもしれないですね」
「そうかもしれないですね」
ルギオス様の少し緊張の抜けた笑顔一歩手前のような表情につられて、思わずふにゃっとした表情になってしまったが、ここで硬い表情を浮かべるのも変だしいいかなとよくわからない開き直り洗い物を終えて手を洗い、シャロたちのところへ向かった。
「なぁんか、ルギオスと打ち解けてましたね」
戻ると開口一番にラフレーズ様にそういわれて、特に何の感情も抱くことなくそのまま答えた。
「?そうかなぁ?まぁ、いいことなんじゃないかな」
「あら?」
「だってギスギスするよりかはよくないですか?」
「……フルストゥル様って、本当に平和主義ですよね……はぁ」
なんでそのタイミングでため息?そこまでがっかりすること?と思いながらも、反論する気すら起きず、特に会話も遮らないままにすることにした。
「まぁ、そういう性格の方がありがたいですけど」
「……?何に対して?」
「こっちのはなしです」
「そっかぁ……」
追及する気も起きず、シャロの隣に座ると、シャロは頭を横に振りながらもどこか面白そうな表情を浮かべていた。
「相変わらずねぇ……逆に天性の鈍さかもしれないわね……」
「?うん?」
シャロの言った言葉の意味は分からなかったが、とりあえずこのまま何事もなく帰れればいいなぁとしみじみと思うのだった。
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