ぼんやり令嬢の鈍さに周りもびっくりなようです
「……うん?」
流石に鈍い私でも、明らかに空気の流れが変わったことに気づき、周囲を見渡しまず瞳に入ったのは、あまりにも驚いているラフレーズ様だった。
……そんな驚くことかなぁ?と逆にこちらが驚いていると、男子たちが恐る恐る口を開いた。
「え?虐待されてたってこと?」
「いやいやいやいや、三食貰えてたし毎日ふかふかベッドで寝てますし、使用人にもよくしてもらってますよ?」
虐待というあまりにも強い言葉に、流石の私も首と手を私にしては早く横に振るも、男子たちの表情は青ざめたままだ。
「でもさ……日常的に叩かれてたってことだよな?」
少し大げさに驚く彼らにつられて、思わずこちらも大きく首を横にふって答える。
「流石に毎日じゃないですよ。今はほら距離的に離れてるからそういうのないし、婚約破棄後からは全く無くなったし?」
だからそこまで悲惨でもないし、驚くことじゃないよと弁明するも、周囲の空気はまだどこか淀んでおり、少し、いやかなり焦っていると、リーセ様がその空気を換えるように言葉を続けた。
「まぁ、言われないとそういったことってわからないですよね。私も父とはかなり不仲ですし?」
「ドミートリィ伯爵令嬢が?意外だなぁ」
リーセ様のカミングアウトから、どこか物々しかった空気が和らいで心の底から安堵していると、ふとルギオス様と偶然目があい会釈した後、シャロが不満げに漏らした。
「リーセのところも色々あるけどさ、本当に不思議よね。夫婦仲もいいし、姉や兄もいるのに、どうしてこうもフルルにだけ厳しいのかしらね」
「姉と兄に比べてこう……私の個体値が低かったのでは……?」
「即座にそんな悲しい言葉がよくその表情で出てきたわね……」
言ってて悲しくならないの?と言われるが、恥ずかしながら事実なのである。
長女は恋愛結婚で侯爵家に嫁ぎ、そこで商会を盛り上げ、社交界だけでなく商人の間でも知らないものはいないほどの知名度と影響力をもつ。
長男は、何をやらせても優秀で性格も明るく人望がある。
何より、父親に似て領民思いだし誠実。あの祖父も認めるほど領主としての素質は育っているらしい。
一方私はというと、あちらに難があったとはいえ婚約破棄したし、高いお金をはらって貰って通わせてもらっている、学院生活も最近はそこまでではないが難航していたし、何をやらせても中途半端。
その上、お姉様にくらべて愛想も要領も、美貌すらなく、どこか暗いとくれば火を見るより明らかだろう。
正直、お母様がここまで考えているかはわからないがそこまで遠くもないだろう、と瞬時に考えを巡らせ、溜め息まじりに答えた。
「上が優秀すぎるとね、もう何も期待できないんだよねぇ自分に」
不思議なことにねぇと深く頷くと、ラフレーズ様がずっとこちらを信じられない表情を浮かべながら見ていた。
「えぇ……」
「あ、大丈夫大丈夫。別に悲観してるわけじゃないよ事実だから~」
ラフレーズ様にそう告げるも、その表情から戸惑いは消えなかった。
「まぁ、姉さんとニーチェさんは助かってるみたいだけどな。」
「だといいんですけど」
とはいえ、ほとんどは祝福のお陰なんだろうなぁなんだろうなぁ。
本当に私、運がいいなぁ……すごいなぁと自身の豪運に感謝し始めているも、ラフレーズ様は相変わらず信じられない表情のまま固まっていた。
「にしても、ニィリエさんとフルストゥル嬢は本当に仲がいいよなぁ」
「そうだよなぁ正直、レヴィエ先輩と婚約してた方のが信じられない……ってごめん」
「わかります~」
私が秒で同意してしまったせいか、男子たちはどうしていいかわからない表情を
「同意しないの……いや、してもいいけどもう少し間を置きなさい」
「どういう教育……?」
さっきまで無言を貫いていたルギオス様もシャロの発言に驚いたのか、うつむいていた顔をあげて呟くのを見つつ、私はまたぼやいた。
「事実だしなぁ……怒る理由も悲しむ理由もないんだよなぁ……正直めんどくさいですし」
もう色々と終わっていることだし、そこで傷つくことも無いんだけども……とぼーっと考えながらマシュマロを食べると、私が本当に何も感じてないのが分かったのか安心した表情になっていたが、レベッカ様が冷たい笑みを浮かべていた。
「まぁでも人様の終わった話を蒸し返すのはどうかと思いますけどね」
「う…………」
「まぁまぁ、大丈夫ですよー。」
レベッカ様にもお礼を言った後、各々片づけをしている最中、コップを洗い場にもっていこうとするも意外と重く、一気に持てないことに気づいて分割して運ぼうとしていると、隣に眩い金髪が入り込んだ。
「手伝いますよ」
「あ、ありがとうございます」
……シャロに警戒しろと言われたけど、このくらいはいいかなぁと思いながらその申し出に頷くのだった。
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