ぼんやり令嬢は肝に銘じるそうです。
「おはよう…ってあれ?珍しい組み合わせだなぁ」
「ギャラン様、おはようございます」
「殿下、おは……」
「あぁ、殿下とかいいよ。別にそれが理由で何か罰を与えるとかないし」
ギャラン様はルギオス様の言葉を待たずそういうと、ルギオス様が頷きギャラン様はそれに満足した様子で続けた。
「うんうん、よろしいよろしい、というかフルストゥル嬢が朝早いの意外だな……朝弱いってニーチェさんから聞いていたからさぁ」
満足そうに頷くその笑顔はアイン様同様、高貴さの中にも可愛らしさがありなるほど世の女子はこういうのをみてキュンキュンするのかと納得しながら答えた。
「そうなんですけどね。いつもと環境がちがうからですかねぇ」
会話しながら、時間を確認するとそろそろ朝食の支度の時間になるなぁ……と思い、食材の保管場所にいくとおそらく昨日殿下らが解体したであろう獣の肉が綺麗に並べられていた。
本当、殿下って器用だなぁ、と感心しながらそういえば、朝ここから歩いたところに食材売り場があり、そこにはたしかパン屋もあった気がすると思いだした。
どうやら、パンは朝、買い出しに行く予定だったのか保管場所にないところをみてそう確信し私は殿下に対して手をあげて発言した。
「ギャラン様、私パン買ってきます」
「却下」
「……その心は?」
あまりに早い笑顔での却下に、こちらも思わず心からの疑問が口をついて出てきた。
「昨日転んだ人に買い出しさせるほど俺は鬼じゃないんだよ」
「忘れてました」
「おいおい……しっかりしなぁ?」
私の予想以上に優しい理由だった……。
いや、ギャラン様は老若男女問わず優しいし、多分動物とかにも優しいだろうけどもまさか自分が気遣われている可能性を考えていなかったのと、昨日、雨の中転んだことをうっかり忘れていた。
そっか、私転んだんだったよ……なおしてもらったから無いようなもんだと思ってたけど、私が殿下と同じ立場なら止めるだろうなぁと納得した。
「まぁ急ぎじゃないし?みんなが起きてからゆっくりでもいいんじゃないか?」
「そうですね。早いと言えば早いですし……朝の新鮮な空気でも吸ってきましょうかねぇ」
そんな会話をした数十分後、全員が朝の支度を終えて集まり、リーセ様とレベッカ様がパンを買いに行くことになり、残った人数で食材の下ごしらえや、薪割りなどに分かれた。
まぁ食材の下ごしらえはほぼ私とシャロになっているのだが……その理由は、ラフレーズ様がギャラン様の後についていってずっと褒めているのだ。
まぁ、殿下だけだったらはいはい、いつものねと思ったが傍から見るに他の男子生徒にも話しかけているようだった。
「いやぁ、よくやるなぁ」
「何感心してるのよ」
野菜を切りながらぼやく私の隣で、シャロはいつものように肩を落とした。
「だって、私自分から男子と話すことあまりないし……男女関係なく話せるのって素直に尊敬しちゃうなぁ」
「のんきねぇ……確かに今のところ誰かの婚約者を奪っただのなんだのは聞かないけどきっと時間の問題よ?」
「そうかなぁ」
シャロが言うならそうなのかなぁとふわふわ考えながらちらりと横を見ると、シャロと瞳があい、今日も可愛いなぁと心の中で拝んでいるとシャロが小声で問いかけた。
「ねぇ、昨日のことだけど本当に大丈夫だった?」
「ん?まぁルギオス様きてくれたし治療もしてくれたし大丈夫だよ?もう痛くないし……」
まぁ、しいて言えば自分のふがいなさに落ち込んだくらいかなぁと思っているとシャロは悩まし気に目を閉じた。
「それもそうだけど……妙なのよね」
「?何が?」
疑問符を浮かべて首を傾げているとシャロは手を止めて続けた。
「フルルとそこまで付き合いがあるわけでもないのに、どうしてあんな真っ先に行ったのかしら」
「?なんとなくじゃない?それかアイリナ様のことがあったからとか?」
多少の申し訳なさからの贖罪の気持ちがあったのかもしれないなぁ。
正直こちらとしては謝罪もあったし、
「……ニーチェさんに同情するわ」
「なんでぇ何でニーチェさんが出てくるの?」
「警戒心皆無だからよ。レヴィエと婚約してた時の方が警戒してたんじゃない?」
「んー?そうかなぁ……あまり他人と関わる余裕がなかったからかもなぁ」
今は何とか平均くらいまでに上がったが、少し前までは劣等生と呼ばれてもおかしくないレベルだったしなぁ……と思い返していると、シャロもその頃のことを知っているからか、深いため息をついた。
「それもそうだったわね……とにかく、気をつけなさいよ?今の自分の立場わかってる?ただのベルバニア伯爵令嬢じゃないのよ?」
「アイン第一王女の護衛秘書補佐候補にして侍女見習い……筆頭護衛秘書官ニィリエ・ハイルガーデン男爵子息の婚約者候補、そして何よりアイン第一王女のお気に入りよ?ニーチェさんと仮にでも婚約してなかったらどうなってたことやら」
そこからは考えたくもないと言わんばかりにため息をつくと、シャロは再度野菜を大きな音を立てて告げた。
「とにかく気をつけなさい。ルギオス様だけじゃなくマクシミリアン子爵家そのものにもね」
「う、うんわかった」
あまりのシャロの剣幕に私はただただ素直に頷くのだった。
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