ぼんやり令嬢と集団行動
そうして、戻ってからはもうそこから動くなと言わんばかりにソファに座らされた。
「別に動いたら死ぬわけでもないのに……」
「でも痛いでしょう?」
「それはそうなんだよねぇ」
ルギオス様に応急処置の後、なんと治癒魔法もかけてもらったからほとんど治ったし、痛みは残っているが泣くほどではない。
だから全力疾走とかは無理だけれど多少は動けるのだが、シャロはだめだめと首を横に降った。
「じゃあ大人しくしなさいよ?」
「はぁーい」
「まるで姉妹みたいですねぇ」
微笑ましいです、とリーセ様が告げるその横でレベッカ様もうんうんと深く頷いている。
「よくできた姉ですわ」
「そういうのはいいのよ」
そしてなんでちょっと偉そうなのよと肩をがっくりと落とした後、再度シャロに大人しくしてなさいよと言われ他に何かするわけにもいかずぼーっとすわっていると、ラフレーズ様が歩み寄ってきた。
「大丈夫ですかぁ?」
ラフレーズ様にしては珍しく私に対して、かわいげたっぷりな声色で心配され、確かにこんな声で心配されたらドキッとする男子の気持ち……わからないでもない
「んーまぁ、ぼちぼちですかね?でも本当ルギオス様が来てくれて助かりましたよ」
本当にとしみじみしているとラフレーズ様は何故か得意げな表情を浮かべていた。
「本当、ルギオスったらなりふり構わず外に行ったんですよ。フルストゥル嬢が心配だって……」
「えぇーまぁありがたいですけど……」
そして助かりましたけど……それを聞いて私はどうしたらいいんだろうと考え込もうとすると、意外なところから声がかけられた。
「まぁ、機関の教育がいいってことだな」
「ギャラン様」
「フルストゥル嬢は無理しないことだな……ラフレーズ嬢もケガしないように」
「やっぱり私のことが……」
ぽっと頬を染めるラフレーズ様から即座に顔をそらしたその瞬間、台所から威勢のいい声が聞こえ、ギャラン様は即座にそれにこたえた。
「殿下ぁこの法外にでかい獣ってどう捌けばいいですか?」
……うん?今なんて言った?法外にでかいって言わなかった?と思わず反射的にギャラン様を見上げると、何の悪びれもせずけろりと答えた。
「馬二頭分くらいはでかいんだよなぁ」
「えぇ……?」
「ちなみにシチューにするとうまい」
「えぇ……?」
何の説明をされてるの私?あと、何てもんを狩って来たの?一応じゃないけど王太子ですよね?と色々聞きたかったが、私が戸惑っているうちにギャラン様は台所に消えてしまった。
それにしても私ってやつは……何も初日から怪我しなくても……と自分のふがいなさに少しへこみながら、あぁこれニーチェさんに心配かけるなぁと思っているうちに、台所が騒がしくなっていった。
「フルル~皮むきやってもらっていい?」
「ん、いいよーなんなら他のことも全然やるよー薪割とか」
「絶対任せられないやつを例に出さないの」
もう、とシャロが言った後にどっと笑いが広がって、そのあともギャラン様たちが狩って来た法外に大きい獣を見て驚いたりしながら、調理がすすんでいき、思ったより早く料理は完成した。
「物凄く美味しそうです……」
「だろ?」
「というかギャラン様、捌くのお上手なんですね」
「趣味でな」
「えぇ?」
この数時間の間に何回出したかわからない素っ頓狂な、というより間抜けな声を出しながら、どんな趣味なの?頼もしいけど……まぁ何もできないより全然いいし、本当に有事の際とか助かるんだろうけど笑顔で獲物狩ってる姿を想像したら、何とも言えない気持ちになってしまうのは何故なんだろう。
「素敵です……」
「えぇ?……うぅーん?」
ぽっと更にほほを染めるラフレーズ様に更に驚いたが、まぁそういう野性味が素敵ってひともいるかぁ……と納得し、楽しい夕食を終えた後、シーツも張り、入浴も終え、さぁ寝ましょうか……となるわけはなく、開かれた環境からか全員の気分は上がっていた。
「フルルのことは心配だったけど……楽しいわね、ここまで自分で色んなことやることないからかしら」
「そうですね。私も剣術ばっかりでしたから新鮮でした」
シャロとレベッカ様がそういうと、リーセ様がにこにこと可愛らしい笑顔でそれに続いた。
「皆さんと一緒に遠出できて楽しかったです」
「あらぁ~」
リーセ様可愛い~とほっこりしていると、ラフレーズ様が、で?フルストゥル様は?と聞かれて私は反射的に頭を下げた。
「ご心配おかけしまして申し訳ございません……」
「いやいやそういうの求めて無いですし……」
「怒ってません?」
「全員心配はしたけど怒っては無いわよ。別に無茶をしたわけでもないしね」
シャロのその言葉に、レベッカ様とリーセ様はうんうんと頷いた。
それを見て安心して、心からの声が漏れ出た。
「うーん大変でしたけど……みんなでごはんとか作るの楽しかったです」
私がそう言っても、先ほどまでの温かい空気は崩れることは無く会話が続いたことに何故か安心したのだった。
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