ぼんやり令嬢は雨の中のこのこ歩くそうです
「行っちゃっいましたけど……」
ぽかんと珍しく口を開けこちらを向き、行先もわからないルギオスを心配しているリーセの横で、フォローするようにラフレーズが口を開いた。
「大丈夫ですよ。ルギオスは地図把握早いですし多分傘もちゃんと持ってきましたよ」
「ならいいんですけど」
「まぁ、待つしかないですね」
リーセとレベッカがそう呟く中、シャルロットは腕を組んでただ少し止みかけた雨をぼんやりと眺めながら、二人とは違う心配をしていた。
そう、それはいつか兄から聞いたマクシミリアン子爵の考えていることだ。
どうやら息子を利用して王家のお目こぼしをもらおうと画策していること、そのために、もしかしたら王女のお気に入りであるフルストゥルに接触を図ろうとしているのではないかということ。
そして、それは教会の意志が絡んでいる可能性もあり、今回ルギオスが同じ班になったこともそういった勢力からの圧力もあったこともかんがみて、その可能性は高い。
でもルギオス本人の意志がどうなのか、シャルロットにはそこまで分析できなかった。
たしかに、竜車に乗る前にフルストゥルを支えてくれたけれど、他の生徒でも支えただろう。
何時ぞやのバーナードと違い、そこまでフルストゥルに異常なまで傾倒して好意を向けてもらおうという様子も見られない。
けれど、けれどどこか隙を狙うかのようにじっとフルストゥルを見つめているその視線が何か引っかかりを感じさせるが、その引っかかりがなんなのかまでは分からず静観していた。
まず、アイリナのこともあり、何か特別な感情があってもおかしくはない……が、神殿に困っている人間がいたら助けなさいという教えがあるにせよ、誰に何の説明もそこまで聞かず、迷いなく雨の中外に行くというその行動に全くの下心も何もないか、人の心まで流石に見通せないシャルロットは、ため息を深く吐くのだった。
そんなシャルロットのため息が伝わったかのように、フルストゥルも一人、霧雨のような雨の中でため息を吐いていた。
「意外と遠いなぁ……」
未だにコテージのある広場も見えないやと、のんびり思考したあとに、考える前に歩くかと小さく頷きゆっくりと歩き始めた。
少量だが魔力を使ったせいなのか、実際雨に打たれていないけれど、寒さのせいかいつもよりうっすらと疲労感があるせいか、それとも荷物が重いのか、その歩みはかなりゆっくりで、フルストゥル本人も、これコテージ着くの夜になるのではないかと心配し始めた時、うっかり力が抜けてしまったせいで台車のバランスを崩してしまった。
と、思ったと同時にそれはもう見事にどんがらがっしゃんと音を立て、台車はひっくり返りシーツは放り出されてしまった。
普通だったら、途方に暮れて泣くところだが、フルストゥルは心底安心したような表情を浮かべていた。
「よかったぁ保護魔法かけておいて~……あぁ、本当によかったぁ」
心の底からの安堵と、周りに誰もいないという気軽さからいつもより大きい声で呟いた後に、さてとと即座に気を取り直し台車が壊れていないかの確認のためにしゃがみこんで、車輪が外れていないかどこか破損していないか、素人目線だが確認するとすこし車輪がやや曲がっているのが確認できたものの、ひっぱってもひっぱても曲がったままで動く気配もなく、本当にどうしようもなくなったらリネン類を抱える手段を取ろうとシーツを台車に乗せなおした後、またゆっくりと歩き出した。
車輪が曲がっているせいか、まっすぐ歩いているのにがたがたがたと車体が大きく揺れその揺れにつられてふらつきつつ、何度も転びかけながらも進んでいったが、未だ止まない雨と、寒さと段々と暗くなる空に焦りのようなものを感じ、若干の心細さが脳裏を掠めたがだからと言ってここですんすん泣いたところでどうしようもないしなぁ~と、自分の心を黙殺し進んだが、まだまだコテージは見えなかった。
「頑張ろう……」
少し腕は疲れてきたけど、大丈夫、体感あと少しな気がする……と、自分で自分を鼓舞し再度歩き始めたが、疲労と長い雨のせいかまた手を滑らせて台車を横転させてしまい、それに連鎖してフルストゥル自身もバランスを崩し派手ではないが緩やかに、やや派手に転ばないように変に力を入れたせいか、自分でもわかるくらい、変なひねり方をしてしまい、その時点で少なからずあった希望がまるで最初からなかったかのように霧散してしまった。
「…………これ何かしらやったな……最近」
そのバチかな?と変な方向で開き直り、否、開き直るしかなく曲がった車輪と少し変な方向に曲げてしまった足を引きずって先ほどよりもかなりゆっくり歩きながら、ふとニーチェさんの言葉を思い出した。
――怪我とかしないようにな?気をつけろよ――
…………まさか初日から、思いっきり転ぶなんてことある?という思いと、ニーチェさんにまた心配かけさせちゃうなぁという申し訳なさと、きっとニーチェさんなら、私が転んだことを知ったら怒らないで心配してくれるんだろうなぁ……。
と、きっと今、絶賛仕事中であろうニーチェさんを思い起こすくらいには心細くなっている自分と、いつの間にかここまで心の支えにしている自分に驚いたのだった。
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