ぼんやり令嬢の身辺調査と一つの終わり
最近、軽い熱中症になってしまいました。
皆さんも体調には気を付けてください。
「偉大な我らが父に……」
たとえ今日が命日とはいえ、礼をかくわけには行けない、と頭を下げるも、またもや最後まで言い切ることはなく、中断させられてしまった。
「あぁ大丈夫大丈夫そういうのいいから」
「マーリン?」
「別に、プライベートなんだからいいだろう?」
なにか言いたげな王妃に、軽口で応対する王を見て、確かに絵画のように美しいには美しいが少しだけ親近感を覚えたのと、仲睦まじさのようなものも、しっかり感じた。
うちの両親とも違うけど、言いたいこと言えるのっていい関係だよなぁ
と、国王夫妻を観察するが、ふと国王と目が合って急いで頭を下げた。
「寛大な心遣いありがとうございます。」
「いいよ、いいよ~」
本当、風のように自由なのに圧倒的強者のオーラってやっぱあるんだろうか。
ミドガルド様みたいな、心のすべてを捧げたくなってしまいそうになりそうな、少し呪術めいたものとも違う。
アイン様のような、気品の中に愛らしさがあるような、思わず支持したくなってしまうようなものとももちろん違う。
それこそ、たった今、王妃に感じた包み込み、たたずむ月のような慈愛のようなものとも違う。
そこにいるだけで、あぁ、この国は安泰だと思える圧倒的安心感と、信頼を無条件に与えられている気がする。
それはたまに、ギャラン様からも感じることがある、やっぱり親子なんだよなぁと、痛感してると国王様は満足げにほほ笑んだ。
「うんうん ギャランはうまくやってるようだね」
「え?あぁ……はい?」
もしかして、心の声漏れてたのか大丈夫かな?
ちょっと自分の口を、一発殴ったほうがいいのかもしれない。
なんかこう、災いを生む前に、と自身の拳をにらみつけていると、国王は悪気なく笑う。
「別に口殴らなくても大丈夫だよ、ちょっと心の声を聴いただけだから。」
「えぇ?」
なにそれすっご、いやこっっわい……のかなぁ?
何だっけなんかこういうの・・・。
そういえば、千里眼とやらを持っているらしいから、それかな?と自己解決している間に、王妃は王をたしなめていた。
「マーリン、年端も行かない子をおもちゃにしない」
「やだなぁ 最近の若い子の思考が知りたかっただけだよ~」
「全くもう……」
「殿下、私は大丈夫です。びっくりはしましたけど」
「ありがとうね、さぁ行きましょうか。」
通されたのは、王族と王族が許したものしか入れないといわれる、ロイヤルガーデンに通されてしまった。
あぁなるほどぉ、ここ私の死に場所?はちゃめちゃロイヤルすぎません?と抜け出せない思考を引きずってるなか、鮮やかに着席を促されると、たくさんの珍しい花々が目に入った。
王妃は、にこにこと、それこそアイン様によく似た微笑みを浮かべていた。
「ルイ、彼女に紅茶をお願い」
「はい」
王妃付きの従者であるルイヴィエール様は、私にお茶をいれながら、和やかに話しかけてくれた。
「臨時募集できてくれてた方ですよね」
「はい」
「一気に縫ってきてくれたようで、ありがとうございます。」
「いえ お役にたてたのなら良かったです。」
まさか、末端の末端の私のことを覚えてるとは。
いや、ニーチェさんがあの有能さなら、王妃付きの侍従であるルイヴィエール様が、すごい記憶力を持ってても驚くことではないのかなぁ。
にしても、今まで飲んできた紅茶の中で、一番おいしいなぁとまったりしていると、クリスタルのように美しい温室の扉が開き、ひどく驚いた表情のアイン様と、困り顔のニーチェさんが入ってきた。
「フルストゥルちゃん?まだ学校にいる時間じゃ……ってお母様、それにお父様も?」
「なぁに 三者面談だよ」
「……私に何にも言わないで?」
「ごめんって気になっちゃって~」
アイン様の、というか娘の静かないら立ちに、王妃はどうにかそれを抑えようとするのに対し、そんなことに構わず国王様は意にも介さない。
そんなことよりと言わんばかりに、陛下は私の方を、正確には目を見てつぶやいた。
「でも、ニーチェといいこの子といい、アインの周りには妖精と関わりがある子が多いね。」
「……妖精?」
「あれ?自覚ない?きみ妖精の祝福持ちだよ?」
「妖精の祝福………とは…?」
「あーそこからかぁ」
聞きなれない単語というより、そんな特別感満載な代物、自分とは無縁なもののため呆然している私に、あちゃーと軽く頭を抱えながら、子供に絵本を読む口調で陛下は、説明してくれた。
「ベルバニアってより旧レウデールは、戦前多くの妖精たちがいたみたいでね。気まぐれに人間に祝福をあたえたりしたそうだよ。それに、とても良い共生関係だったともいわれてるけど、知らない?」
「聞いたことはありますけど…」
確か、旧レウデールはたくさんの自然と魔力に囲まれていて、人々は妖精たちとよい関係を距離を保ちながらはぐくんでいたらしい。
その信頼関係からか、妖精たちは、気まぐれに祝福を与えたこともあったとか。
特にそれは、王族の方々に顕著に現われていたとか。
でもベルバニア家って別に、旧レウデール出身なだけで、王族の流れは汲んでいないから、他人事のように思っていた。
何なら今も他人事のような気持ちだ。
「うん だからだろうね君の目と耳には確かに祝福が与えられてるよ。」
「知らなかったです。」
「そうだろうねぇ」
でも、目と耳とはいえ、別に耳はエルフのようにとがってるわけではないし、目もなんかこう特殊な魔眼とかもあるわけっではないし、と悶々と考えるも答えは出てくることはなかった。
「まぁ、でもいい共生関係だよ。妖精の祝福っていうのは一歩間違えれば呪いのようなものだからね。」
「そうですか」
まぁ魔術に詳しい、というか、精通しすぎている魔術王の言うことだから、だいじょうぶなのかなと安心することにした。
「まぁでも、家柄も素行も悪くないお嬢さんで安心したわ、とても落ち着いているし、野心とかもなさそうだし。」
「臨時募集の方々も、短い間しかかかわってないですけど、刺繍が上手なだけでなくとても気が回る子だと褒めてましたよ。」
「ありがとうございます。」
今度は王妃と、ルイヴィエール様の褒め殺しと、どこから流出したのその情報という驚きに、タジタジになっているとアイン様が突如私の腕をつかんだ。
「彼女の身の上は、しっかりニーチェに調べてもらったわ。もういいでしょ?」
「わかった、わかった僕らはこれで退散するよ」
もう、と可愛らしく怒るアイン様に謝りながら、二人は、温室から退出していった。
――あぁ、これで命日回避かな?と安心しきった心の声は、聞こえてないようにだけ祈っておいた。
「いやぁ、お二人とも相変わらずお茶目だな」
「もぉ~……。ごめんね?フルストゥルちゃんびっくりしたよね?」
「びっくりしました……」
本心のまま答えると、ニーチェさんは苦笑して受け答えてくれた。
「だよなぁ~」
「私はこのあとどうしましょう?学院に戻りましょうか?徒歩で」
「いやいいよ、今日は俺らも仕事そんなにないしこのままいな?」
そういってくれるニーチェさんの後ろから、アイン様がいたずらっこのように、にやにやと笑いつつ口を開いた。
「フルストゥルちゃん聞いてよ~。ニーチェったら、今日フルストゥルちゃんが来るからって、いろんな人に根回しとか、使う所の掃除とかして、もうすんごい準備してたんだからぁ」
「そりゃ気を遣うでしょうよ、いたいけな少女を突然王宮で働かせるんですから。」
「理由はそれだけじゃないでしょうに、素直じゃないわねぇ」
そりゃぁ、あんだけパワハラ、モラハラの現場何回も見たらなぁ心配にもなるよ。
気遣ってくれるのはありがたいけど、負担になってたら申し訳ないなぁ。
「ええと、お気遣いありがとうございます?」
「いいよ、まぁ今日からよろしくな。」
そうしてその日は、王宮の案内と、備品とかの場所を案内されたあと、アイン様とニーチェさんと、美味しいお昼ご飯を食べた後。
少しだけ、ニーチェさんのお仕事を手伝い、王宮から出ると珍しく、オルハではなくその姉であるエマの車が停留所にあった。
「あれ、エマ?どうしたの?」
「色々話がまとまったそうで、今日はベルバニアのタウンハウスにツィリアーデ様も、ジィド様も来てます。行きましょう」
「あぁそうなんだ。」
そうして、久しぶりの首都郊外にあるタウンハウスにつくと、父は開口一番に言った。
「フルストゥル、婚約は破棄となった、もうブランデンブルク侯爵家と、関わらなくて大丈夫だ。」
その言葉に心から安堵して、玄関で泣きそうになりながら言葉を紡ぐ。
「……本当、ですか」
「あぁ」
あぁ、本当に長かった。
安心と開放感からか、父に抱き着いてしまったが父も母も咎めることはしなかった。
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