ぼんやり令嬢と獣耳少女のゆったり下校
「ひっきし……」
「風邪ですか?」
「うーん……どうだろ?」
たまたま久しぶりに会ったラグさんと歩いているときにくしゃみをすると、ラグさんは心配そうに耳を下げた。
「明後日は課外授業なんですから体調気を付けてくださいね」
心配です。と正直に言われてありがたいやら申し訳ないやらの思いで少ししょぼしょぼしながらうなづいた。
「ありがとうラグさん……一般の方は何かありましたっけ?」
「ありますよ……まぁ宿泊学習みたいなものですけど」
「あれですよね……え?好きな人とかいるー?って枕をならべてやったり、なんかこう度胸を試したり」
よくそういう小説で読むやつだ……なんかみんなでお料理作ったり、なんか火を囲んで踊ったりとか
あと、告白とかがあったりなかったり……?と妄想を膨らませていると、ラグさんが何かを察したようにつぶやいた。
「最近、平民向けの恋愛もの読みました?」
「読んだんですよ……大体の奴に出てくる途中で主人公のこと一途に思ってくれてるのに最終的にふられる男、あまりに可哀そうすぎません?」
「あぁ、わかりますソレ絶対そいつのがいい男じゃない?みたいな」
「それです……っと、話それちゃった……じゃあラグさんも狩りをしたりとかするんですか?」
「私は炊事洗濯を主に担当ですね」
あと、主に医療ですと付け加えるラグさんに私はほっとした。
ほら、流石に単身で狩りに行きますとか言われたら心配を超えて不眠になっちゃうよ……。
もしかしたらラグさんばりばり戦闘できるかもだけれど……。
という思考を置き去りにして本心が口から出てきた。
「あぁ、よかったぁ……」
「そういうフルストゥルさんは?」
「ほぼ雑用ですね」
「安心しました……もし、薪割とか言ったらどうしようかと」
まぁそういう反応になるよね。
実際私も心底安心したもん。
「安心してください。そこはレベッカ様が」
「ガリアーノ伯爵令嬢が?」
ラグさんは一瞬目を見開いた後、あぁでもわかるかもと納得していた。
もしかして、レベッカ様って有名なのかなぁと思っていると、ラグさんはため息を吐いていた。
「ガリアーノ伯爵令嬢の強さはかなり有名です……一般生徒のなかでもわりと人気ですし」
「あれだけ美人で強かったら確かにねぇ……惚れちゃいますわ」
脳裏に涼やかで凛々しく美しいレベッカ様を再生しながら呟くとラグさんは、一瞬考えこんでから少し、神妙な面持ちで呟いた。
「…………フルストゥルさんって恋愛対象女性も入る感じです?」
「うーーん、どうなんだろう……」
別に、恋愛対象が女性の方に対して何も感じないけど……はて、自分はどうなんだろうと改めて考えていると、ラグさんが未知のものを見る表情を浮かべていた。
「否定しないんですね……」
「実際、結構ときめいている節はあるんですよ」
「…………あるんだ」
少し驚いたのか可愛らしい耳が動いたと同時に、わりと話し込んでしまったのかペルシュワール法律相談事務所の前まで着いていた。
「お話してたらあっという間でしたねぇ」
「そうですね。じゃあフルストゥルさんもそうですけど怪我とか本当に気を付けてくださいね」
ラグさんに手を振って見送った後に、さてと一息置いてさてタウンハウスに帰ろうとすると、なにやら視線を感じぱっと顔をあげるとそこにニーチェさんがいた。
「フルル、何かうちに用事?何かあったか?」
「あぁ、いやぁそういうのではなくて……ラグさんと帰ってて」
「なるほどな。そういえば明後日から校外学習だっけ」
「はい」
「……って悪い学校帰りに立ち話って疲れてるよな。近くだしうちに寄っていくか?最近姫さんにいい茶葉貰ったんだよ……もちろんエマちゃんも」
「気づいていたんですか」
その言葉と共に、物陰からエマが現れた。
いつも登校、下校時、私が友人と一緒に帰るときその場の空気を壊したり窮屈さをあいてに感じさせないために、気配を殺して背後で見守ってくれており、普通に生活していれば何も違和感を感じないくらいだけど、流石王族の護衛といったところだなぁと感心していると、ニーチェさんはいやいやと首を振っていた。
「一応ですけどね。ってかどういう訓練したらそこまで気配消せるんですか?」
「?誰でもできますよ。オルハもできますし」
「ベルバニアすご……」
大したことしてないけどなぁと思っていそうなエマと、それが普通だと思い込んでいる私を見てニーチェさんは一瞬驚いていたが、そういうものかと納得した後にハイルガーデン家へと入った。
「ニィリエ、珍しいなこんな時間に」
そう声のする方に視線を向けると、おそらくフロルウィッチの従業員であるニーチェさんと同い年くらいの男性がいた。
それを見て、ニーチェさんはいつものように、どこか気安い雰囲気で声をかけた。
「ノルン、あぁちょっと時間が空いてなあとそこでフルルに会って」
その言葉ですべてを理解したのか、ノルンさんがこちらに頭を下げたのと同時にこちらも頭を下げた。
「お邪魔してます」
「よければ俺がお茶淹れてくるよ」
「お、ありがとなー」
「……二人とも運がいいなノルンの淹れるお茶は絶品なんだ」
少しいたずらっぽくニーチェさんがそういうと、ノルンさんはおいおいと肩を落としつぶやいた。
「あまり期待値をあげてくれるな」
そのやりとりにどこかほっこりしつつ、何故か人様の家なのにニーチェさんの存在のお陰か安心しきってしまうのだった。
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