神官見習いから見たぼんやり令嬢
誤字報告ありがとうございます。
本当にあっけないほどに、レウデールの魔女という妙に仰々しい通り名が綺麗に流され、それと同時にブランデンブルグ侯爵家が彼女にしたことを嫌というほど聞かされて、こう言っては失礼だが、どこかぼんやりしていて何も考えて無さそうな表情とは逆に、苦労していることを改めて知った。
それとは別に、彼女の婚約者はかなり過保護らしい、ということも……。
まさか、貴族の流した悪意のある噂をあそこまで徹底的に消すだなんて、しかもあの短期間で……
もしかしたら、ニィリエ・ハイルガーデンはフルストゥル嬢のことを心から?いや、でも……と考え込んでいると、教室で噂の中心人物であったフルストゥル嬢に、ラフレーズがたくさんの質問を浴びせていた。
その様子を見るに、あの噂をまき散らしたのはどうやらラフレーズではなさそうだ。
多分、やつのことだどうせ男子生徒で大げさに悲劇のヒロインぶっているだけだろう。
……それにしても意外だな。ラフレーズはあの性格もあってか同性にあまり好かれるタイプではないが、フルストゥル嬢は淡々と質問に答えているところを見ると、嫌悪感はそこまでなさそう、というよりなにも思って無さそうだなと思っている矢先に、ラフレーズが今までに見たことも無いような表情を浮かべていた。
意外だなと思っているのと同時に、ラフレーズはそこから離れていったが、離れたからと言ってラフレーズのようにずけずけとニィリエ・ハイルガーデンとの関係を聞くのもな……と思いながら
「なにか迷惑をかけられてはないですか?」
「嫌なことがあったらすぐいってください」
と、ありきたりな言葉をいうもあちらは一瞬、長いまつげに彩られた目をなんどかぱちぱち開けた後に、へにゃっとした笑顔を浮かべて
「あぁ、質問量は多いですけど私が答えられないのも結構ありますし、いやな思いしてないです」
だから大丈夫です、と付け加えた後になにかを思い出したかのように口をぽかんと開けた。
なんというか、レベッカ様やリーセ様の後ろにいるからか印象は薄いが、華やかな顔立ちでそういった表情をされると不思議なことに小動物みたいだなと思っているも、フルストゥル嬢は心配そうな表情を浮かべた。
「私のことは大丈夫です。それよりルギオス様もなにかあったらいってくださいね?」
「あ……」
まさか自分の心配をしてくれているだなんて露とも思わず、少し反応が遅れてしまった。
ここ最近他人からあまり心配されてなかったせいかどう反応していいかわからなかったが、数秒あいてようやく口を開いた。
「……ありがとうございます」
「いえいえ、まだ何もしてないですし」
できることは少ないですけど、と控え目にそういう表情には嘘や打算は一切なかった。
思えば、あの父に丁度プライベートであったらしいが、そのことについても気にしていないのか、はたまたこちらに気を使ったのか……多分両方だろうなと想像しつつも、その後もなぜか、彼女のことを目で追ってしまっていた。
その様子を、あろうことかラフレーズにみられていたらしく、下校するときラフレーズがすかさずこちらへ来た。
「ねぇ、もしかして本気になったりとかしてる?」
「……何にだ?」
「白々しい、フルストゥル嬢のことに決まってるでしょ」
あんなに見ていた癖に、とどこか決めつけたような口調でそういうところに呆れて答えた。
「そんなわけないだろ……そういうお前は迷惑かけてるんじゃないのか?」
「う……確かに色々聞いてるけど……って私は別にいいのよ最悪嫌われても」
「そんな風だから同性の友達が少ないんじゃないか?……あと、お前の親衛隊もどきが全員黙らされたこと知ってるか?」
「はぁ?親衛隊?……あぁ、一般生徒でしょう?別に頼んでないけどね」
よく言う、あれだけ被害者全開で言っていたのに……とため息を吐いた。
よくもまぁ、こんな女を聖女だなんて周囲はもてはやすもんだと周囲にも呆れを感じていたころに、ラフレーズは続けた。
「でもフルストゥル嬢って不思議よね……地方出身だからかしら、かなりのんびりしてるからついつい話しかけちゃうのよね」
目障りだけどねと小声で言ったがそこは聞かなかったふりをして答えた。
「まぁ、そこには同意するけどな」
このクラスではあまり見ないが、やはり階級に固執している貴族や父のようにプライドだけが高い人種は嫌でもいる。
現に、廊下に一人でいるときに嫌みを言ってくるような人はごまんといる。
そういった態度を取るものはいないが、このクラスでも適切な距離いうならば線を引いて接されているなか、フルストゥル嬢は元々距離の取り方や空気感が独特なのか、いやな冷たさを感じない。
それはラフレーズも同じで、育ちがほぼ庶民であることや人目を引く見た目だから、彼女の素行も相まって色々と言われることが多い。
だからこそ、あぁやって味方を作って……いや、そこまで考えて無いか……。
「今何か失礼なことを考えていたわよね、ルギオス」
「そんなわけないだろう」
「今更あんたにどう思われてもいいけどさ……でも嫌な人ではないよねフルストゥル嬢って」
そこまで言った後にラフレーズはぽつりとつぶやいた。
「だから心苦しいよね。」
その言葉の中には、彼女の立ち位置を利用としようと、しなければいけない最小の良心がそこにあったような気がした。
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