ぼんやり令嬢と圧倒的善意
フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢に、少しでも危害を加えようとしたならばあの、大手法律事務所の一つ、ペルシュワールが黙っていない。
その上、王家から厚い信頼のある、ニィリエ・ハイルガーデンが後ろにいる……いや、もっと大きい存在、アイン第一王女が後ろにいることを今回、噂に流された存在は嫌というほど刻み込まれた。
それでなく、ロゼットロア公爵令嬢、ガリアーノ伯爵令嬢、そしてドミートリィ伯爵令嬢が全敵意を向けることも嫌というほど思い知らされただろう。
それと同時に、フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢は噂に反し、一般生徒や平民を見下しているわけでもなく、寧ろその逆で誰に対しても態度は基本変わらず、困っていたら適切に自分ができることをしてくれる心優しい生徒であり、ブランデンブルク侯爵子息との間にあった一件も、嫉妬や痴情のもつれとかそういうことではなく、ただ単にレヴィエ・ブランデンブルグがいかに婚約者としての役目を全く果たしてなかったことが公になり、「魔女」という妙に怖い通り名は瞬く間に立ち消え、ようやくただの一般生徒に戻れた。
こうも、課外授業の前にことが収まったてくれた大半の功績はニーチェさんのおかげだろうなぁと自覚しているので、お詫びの品?ないしはお礼の品をもってハイルガーデン男爵家に向かった。
「で、お嬢何をもっていくんすか?」
そういいながら、ポリポリとエマお手製のクッキーを食べるオルハに豪華な箱を見せた。
「ちょっといい感じの筆記用具一式とオルドリンカードで買った一番いいやつよ」
「お嬢わかってないなぁこういう時は手作りがいいんすよ」
「何言ってるのピクニックとかいくわけじゃないしちゃんとしたお礼なんだから、既製品こそ正義」
「そうなんすかねぇ~」
どこか腑に落ちない様子のオルハに疑問を持ちながら、首を傾げているうちにハイルガーデン男爵家の前に着いた。
「いらっしゃい」
「ノージュさんお久しぶりです」
相変わらずさわやかな美人だなぁ、という気持ちが口から駄々洩れないように頭を下げた。
「いいのよわざわざ来てくれてありがとうね」
そういってすんなり家の中に入れてもらうと、日時をちゃんと伝えておいたおかげかニーチェさんだけでなく、ウィンターバルドさんもいてくれていた。
「マメだなぁ」
「いえ……」
むしろここまでいろいろしてもらって何もお礼しないほうが心苦しいて……と思い固まっていると、ニーチェさんが現れた。
「フルル、気を遣わせたみたいでごめんな」
「いえいえいえ、そんなそんな……」
そんなお礼の応酬を延々としていると、それを見ていたノージュさんが……否、見かねて答えた。
「座ったら?」
その一声で、ウィンターバルドさんとニーチェさんが、鮮やかに椅子まで案内してくれた。
「あの、これお礼です」
「毎回律儀にありがとうなぁ」
「仮とはいえ婚約者なんだからいいのよ?」
「……?婚約者ってここまでしてくれるんですか?」
「根も葉もない噂があったらそりゃ晴らすだろ?」
善意……、圧倒的善意……絶対いやいや義務感でとかではないんだろうなぁ……正式な婚約者であるレヴィエ様は私のこと色々言っていたけれどあまりにも逆すぎる……と感動していると、ニーチェさんはお礼の品を見て心から嬉しそうにしてくれた。
「筆記用具は何個あっても足りないからなぁ」
「わかる……」
二人とも書き物が多い仕事だからか、ペンの消費量多いんだなぁやっぱりと考えていると、ノージュさんの部下なのかもしくはウィンターバルドさんの部下なのかわからないが、わざわざクッキーに合うお茶も入れてくれた。
「よかったらどうぞ」
「あぁすいません」
いいのよ、とそれだけ言うとノージュさんはクッキーを一枚食べると表情を変えた。
「あら、これ美味しいわね」
「よかったです」
流石、オルドリン製菓の高級ライン……今度、お姉さまにも渡そうと考えていると、ウィンターバルドさんが会話を切り出した。
「今回のことで色々あのラフレーズって子の周りを調べてみたんだけどな……なんかあの子の周りのほとんどの男性はあの子を甘やかしたりなんてことがざらだったみたいだ」
「うーん、やっぱり聖女だから?」
「っていうよりミドガルド様のカリスマに近い気がするな」
「ミドガルド様?」
確かにミドガルド様、ものすごく美人だけれどラフレーズ様はどちらかといえば可愛い系統じゃ……と思ったが、そうじゃないそうじゃないと頭を振って一つの結論にたどり着いた。
「魔力の波長が特殊なのと体質的に魅了のような加護があるってことですかね?」
「それが有力かな?ほら、ルルさんもそう言っていたし」
「本人に自覚あるんですかね?」
「さぁな……でも、今回この手段を取ったから下手にフルルには手を出さないと思うけどな」
あぁ、やっぱり牽制の為だったんだなぁという思いと、やっぱりずっと何かしらの形で私は守られているんだなぁと強く実感したのだった。
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