ぼんやり令嬢は申し訳なさと感じているそうです
そして数日後、噂を流した主な家に書状を送り様々な手続きを経て、フルストゥルに対しての誤解の払拭も済み、彼らにはフルストゥルに何かしたらこういったことが起きるということを身をもってわかったことだろう。
……という話を聞いた私の心はぽかんという口を開けていた。
いやいやいや……えぇ……?
えぇ????
しばらく放心していたのだろう。
お父様が心配そうに眉を下げた。
「びっくりするのは分かる……」
「いや、えぇ?私何も知らされてないんですけど???」
「あぁ、ニィリエ君がそろそろ課外授業もあるし、余計に疲れさせることも無いだろうって言っていてな」
ありがたいような申し訳ないような気持ちにかられたが、ニーチェさんなら確かにそういうだろうなぁという思いも混じり何とも言えない気持ちになっていると、お父様は私の手を優しく包んだ。
「ティアに何か言われたと思うが、ニィリエ君は充分信用していいと思う」
「お父様……そうですね」
以前、お母様にこのままニーチェさんと婚約して大丈夫なのかと声をかけてきたことのことだろう。
確かにそれ以来、このままでいいのかな?とは思っていた。
勿論、ニーチェさんに不満があるわけではない。
こんなに優しくしてくれているし、ずっと面倒も見てくれている。
けれど、本当に何故か不思議だけど不安なんだよなぁ……。
多分それは私の性格のせいかもしれないなぁ……自分でも用心深いを超えて疑いすぎだよと言いたくなった。
「……あんな奴と十年も婚約してたんだ。そうなってしまう気持ちは分かる」
別にそれが悪いんじゃない、とお父様は言った後にゆっくりと続けた。
「急いで決めることじゃないから、ゆっくり考えていいから」
「はい」
「じゃあまた」
お父様と別れた後、寝る前までずっとこの何とも言えない気持ちを抱えて、なし崩しのように眠るのだった。
翌日、それを見ぬいたであろうシャロと、まさかのリーセ様にも何かあったんですか?と聞かれ事の顛末を話すとシャロは少し唸った。
「相変わらず流石ねぇ、ニーチェさん……ってなら何で無理して嫌いな食べ物飲み込んだ後みたいな顔してるのよ」
「世話になりすぎてどこに枕を向けて寝ていいのやら」
「普通でいいと思うけど?」
「そもそも婚約者ってここまで世話焼いてくれるものなの?」
「前が前だからねぇ」
レヴィエ様のことを嫌というほど知っているシャロも、これから雨が降り出しそうな空を見るような表情を浮かべていると、リーセ様が深く頷いた。
「なんというか、あまりにも色々手を尽くしてくれると申し訳ないなって思いますよね」
「そう、それですそれ」
リーセ様が頷いているのを、シャロがきょとんと可愛らしい顔で眺めていると、少し後ろで聞いていたマオ先生はがくっとうなだれていた。
「朝から何世知辛い話をしてるんだ?」
「先生おはようございます。」
そして、シャロが簡単に説明をすると先生は、何かを考えるそぶりもみせずに即座に答えた。
「あー、あいつは世話焼くのが好きなだけだから放っておけ」
「いやもう焼かれすぎて芯まで火が通るを超えて炭になりそうなんですけど……」
「そこまで?……課外授業になったら結構時間開いちゃうし、お礼は早めに渡した方がいいんじゃない?」
「なるほど……つまりこの金のオルドリンカードを使う時がきたってこと?」
「どこに入れてるのよそれ」
もう、と少し呆れ気味のシャロのとなりにくすくすと笑うリーセ様を眺めているうちに、教室へとたどり着いた。
「……フルストゥル嬢、父が申し訳ない」
「いやいや、大丈夫ですよ……それより家では大丈夫でしたか?」
「何もなかったです。心配してくれてありがとうございます」
そんな私とルギオス様のやり取りに、ある程度何があったか察したのかシャロはぽつりと呟いた。
「何というか、二人とも苦労人よねぇ」
「私はそこまで苦労してないけどなぁ……」
私がそう答えると、シャロもルギオス様も……あと丁度教室に入ってきたレベッカ様も信じられないと言いたげに目を見開いていた。
「逆にそこまで無自覚だからここまで穏やかなのか?」
「まぁヒステリックよりかはましじゃないですか?」
あれやられると喋る気も失せますよ?情報源は私ですと言わんばかりにすこし胸を張るとシャロははぁと分かりやすいため息を吐いた。
「あ、それ自分で言うんだ……」
もう慣れたけど、大丈夫なの?と付け加えたシャロの声をかき消すようにすこし高い可愛らしい声が教室に響いた。
「ギャラン様ぁ、これよくバザーとかで作るクッキーなんですよかったらどうぞ」
相変わらずわかりやすいほどのアプローチを朝からかけるラフレーズ様に、おお朝から元気だなぁと思いっきり他人事のように眺めていると、ギャラン様はおいおい、と言いそうな表情を一瞬浮かべたがすぐさまにこやかな表情に戻った。
「ありがとう。でも、基本人の手作りは食べないようにしてるんだ。色々あるから」
「もしかして、アレルギーですか?」
いやいや、ちがうだろうよ……ギャラン様は王族、普段は分け隔てなく私たちに接してくれているけれど、こうやって気楽にそれも口に入るようなものをプレゼントだなんておいそれと渡していいものではないんだよ?と突っ込みたかったが、シャロもそれを思ったらしく頭を抱えながら呟いた。
「本当……世間知らずというかなんというか……」
「あれ?シャロ注意しないの?」
「言ったところで大騒ぎされるだけだからね」
「あぁ……」
二人でため息をつきながら、おそらく同じ想像をしているんだろうなぁと思いながら授業が始まるのだった。
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