ぼんやり令嬢の予期せぬ邂逅
「おはよう二人とも」
「「ごきげんよう」」
シャロと登校中、珍しく男子生徒に声をかけられたと思い、返事をすると声をかけてきたのは、同じ選択科目を取っているクラスメイトの方だった。
……我ながらほとんどシャロとばかりいるし、話しても女子生徒ばかりと話してた弊害で、あまり男子のクラスメイトの顔を知らないんだよなぁ。
婚約者……じゃもうなくなるから、レヴィエ様ほどとはいかずとも、せめて世間話程度とかしながらかるく紅茶シバけるくらい気軽にかかわらないとな、別にやましいことはないんだし。
と軽く、浅い、決意をしながらクラスメイトに向き直ると、困ったように彼は口を開いた。
「ごめん、フルストゥル嬢今日の選択授業ってどこでやるんだっけ」
「あぁ、今日は確か第四資料室でしたよ。あと神話の生物の話にもなるので持ってたら生物の資料集を持ってきてほしいって言ってましたよ。」
「ああそうだったありがとう、いやぁ恥ずかしい話後半眠くってさ」
「無理もないですよ、あの教室は日当たりいいですし。」
「そうなんだよな、とにかくありがとう。」
「いえ……」
小さく会釈をしたあと、不意にレヴィエ様と目があった気がしたが、同じ轍を踏むものかとすぐに目をそらした。
――だって、お父様とお母様が話をつけてくれるはずだもの。
そうしたら、ようやくいろんなものから解放される。
やっとあの、横暴な婚約者と公的に別れられるのだ。
だから問題など起こすまい、今日一日平穏に過ごそう。
それが私の今日の目標だ。
「そういえばフルストゥル嬢、姉さんの侍女になったんだって?」
着席するなり、普段は挨拶以外であまり話しかけてこないギャラン様に話しかけられ、びっくりしたが、なんとか一呼吸おいて答える。
「そういえば、ギャラン様のお姉様ですものねアイン様って」
自分で言ってて、何当たり前のことを言ってるんだろう、気が抜けすぎでは?と思ったものの、ギャラン様は特に突っ込まずに答える。
「そうそう、まぁ姉さんはお母様側の血が強いんだけどな」
「へぇ……」
そういえばソロン王妃って、商才はもちろんのこと、魔術や武術にも精通してるんだっけ、てことはアイン様もそうなのかなぁ。
にしても、アイン様本当に美人だったなぁ~。
美人ってなんであんないい匂いするんだろう~。
と、まるで美の女神のようだったアイン様の姿を反芻するも、ギャラン様のひと言で不本意だが霧散してしまった。
「まぁ 姉さん友達すくないから仲良くしてやって」
「いやいやいやいやいや不敬罪になっちゃいますから」
「真面目だなぁ、相変わらず」
いやいや貴方にとっては姉だけど第一王女様ですからね?
気安く接して、投獄されたくないんですよねぇ~と心のなかでぼやいた。
その後、ホームルーム後に、マオ先生に呼ばれ、おそらく昨日の夜にでも連絡があったのだろう。
「いきさつは聞いてはいるが、フルストゥル嬢は言語系の選択科目とってたか?」
「いえ、歴史系と美術と古典です。」
「……だよな?昔から異国語を喋れたり、身内に…いないか、いやでも」
ベルバニア家が基本領地からでないのと、国外の縁者は数えるほどもいないし、関わりがないことがわかりきったのか、先生は首をかしげた。
異国語は、父が旧レウデール語を教えてくれたの以外、一般的なものしか教わってないから、自分でもなぜかわからず首を、かしげると、マオ先生は話のまとめに入った。
「とりあえずニーチェはいいやつだから信用して大丈夫だ。」
「はい」
「あとあまりないと思うが、もし王女からの要請があればそっちを優先して大丈夫だ。成績には響かないから安心してくれ」
「はぁ~よかった」
「心配になるよな、わかるわかるで早速だが今王宮から迎えが来てる」
「え?」
でも、ニーチェさんは授業が終わってからっていってたよな?でも、マオ先生はうそつかないし...と首をかしげながら続きを聞いた。
「……みたいだな、まぁ俺以外の教師にも通達はいってるから、単位が落ちることはない安心して行ってくるといい。わかんないところあったら遠慮せず来なさい。」
「……先生って顔怖いのになんだかんだ生徒に優しいですよね」
「なんだかんだって…」
「じゃあいってきます。」
少し落ち込んでる担任に頭を下げ、教室を出て裏門へ向かおうとすると、生徒らに大人気な可愛らしい、猫のようなしなやかさと、愛嬌と美しさを兼ね備えた、魔法学科のシャルル先生に呼び止められた。
「フルちゃーんこっちこっち~」
「先生……え?でも裏門じゃあ」
「急遽変更だよ~」
「えぇ~~」
シャルル先生に、を繋がれ正門までいくと、王家の紋章を掲げた立派な竜車が止まっていた。
この前乗らせてもらったアイン様の竜車よりも、気持ち大きい気がするが気のせいかな?
とりあえず、竜でっかいこんなでっかい竜初めてみたかも。
しげしげと竜を観察していると、シャルル先生はにこにこと愛らしい笑顔のまま、この竜車の持ち主に言った。
「王妃殿下、いわれたとおりフルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢をお連れしました。」
今聞き捨てならない言葉が聞こえて先生を凝視するもそんな私をスルーして会話はつづく。
「ありがとう、シャルル 授業に戻りなさい」
「はぁい」
「ルル先生、熱とかあります?」
「ないない安心していーよー」
「いま、王妃っていってたし、尊すぎる方が乗っているのでは?」
声は聞こえるのにいつの間にやら先生は消えていて心細さのあまり小さい声で呟いた。
「待って……待って先生見殺しはやめて…」
そんな私をスルーして、御者にあっさりエスコートされてしまい、
もう終わり、私の人生さよならぁと思いながら、覚悟して乗った。
そこには、予想はしていたが、この魔術大国キャシャラトの賢く美しい竜に愛されし、この国の母であり、王が唯一頭を垂れる絶対的存在。
そしてギャラハッド様と、アイン様らの実母であるソロン王妃が降臨されていた。
う、美しすぎて失明してしまうのでは?いやむしろ本望なのか?脳内で天使隊のラッパを聞きながら、頭を下げた。
「キャシャラトの銀の月にフルストゥル・ベルバニアめがご挨拶申し上げます。」
「あら、綺麗な礼ね。さぁ座りなさい?」
「失礼します。」
「ごめんなさいね、アインが探してたって聞いて会ってみたくなっちゃって」
「いえ……」
「ふふ、でもまさかギャランと同じクラスの子だったなんて。意外だわ、どう?ギャランは元気でやってる?」
「元気ですよ、皆に慕われてますし何でもそつなくこなしてます」
そして軽率に人たらしを発動して、軽率にいろんな人の心を奪っております。
あと慕われてるというか、それ超えて崇拝されて、もはや一種の宗教となりかけています。
……私、よく朝と夕方のホームルーム隣の席なのに、正気を保ってるなぁ。
私すごくないですか?
内心、動揺と王家のロイヤルさにあてられ、思考が暴走気味になってしまう。
いや、ならさせて今だけは、もう今日で短い人生が終わる可能性が高いんだから。
と、どこにもいやしない敵に、というか虚空に喧嘩売っているも、表情はそのまま、何とか王妃の質問に無難に答えていると、王妃は感心したようにつぶやいた。
「……落ち着いてるのねぇ。」
「そうですか?」
「こうして私と一緒にいても、自分を売り込もうとか変にご機嫌とろうとかもしないし、舞い上がっちゃって失神とかもなく、平静を保ってられる子は案外少ないのよ、しかもこんな不意打ちでね。」
「ありがとうございます。」
普段なら謙遜してるところだが、ノージュさんや、ニーチェさんに言われたことを思い出し、王妃の誉め言葉を素直に受け取った。
そうしてしばらくすると着きました、と御者に無機質な声で言われ、竜車から降りようとすると、そこには、この国の偉大な偉大な王であるマーリン様が、ソロン王妃を迎えに来ていた。
「遅いわよ?」
「あぁ、ごめんごめんってそのこかい?アインの探し物って」
そんな王の言葉に王妃は、ニ、三言文句を言っているが、もはやその様さえ高尚な絵画のように見え出てきた。
それを見て思ったことは
あぁ、なるほど?私今日やっぱり命日か?
と、自分でも伯爵令嬢としては落第点な感想だった。
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