ぼんやり令嬢が知らない間に見事な連携があったようです。
時間は少しだけ遡り、ベルバニア伯爵領ベルバニア邸にて
ある程度の仕事が終わり目頭を押さえていると、控えめなノックに執事だと思い答えると、そこにいたのはアルマだった。
「お館様、お姫の婚約者から速達の手紙が来てますよ」
丁度さっき届いて、と言いながら差し出すアルマの後ろには、全くこいつはと言いたげな家令の姿が見えたが、気にするなと合図するとほっとした表情を浮かべていた。
アルマは口うるさい家令だと言いたげな表情を浮かべ、チェーザレは内心そういう所だぞと言いたい気持ちをさらりと流して、アルマの方を向いた。
「ニィリエ君から?」
珍しいという思いでアルマから手紙を受け取り、読んだ後周囲の使用人たちの表情が恐怖に歪んだ。
……ということは、つまり私は今そういう表情をしているんだろう。
よく言われる、正直火が付いた奥様より全然怖い、と何よりあまり人に対して何も言わないフルストゥルが「流石に怖すぎる」と呟いたので事実なのだろう。
……と、思考がそれたなと頭を振りつつ手紙の内容を反芻した。
「お姫に何かあったんすか?」
「今は、まだって感じだがな」
「……にしては眉間に皺よってっけど?」
「アールーマー、いい加減に……」
今にも雷を落としかねない家令にまぁまぁと、手をひらひらして落ち着かせた。
「あぁ、いい今更だしな……それよりコーヒーを頼む」
「全く……お館様は使用人に優しすぎます」
そういうところもいいんですけど……と、謎のセリフに首を傾げつつ送り出した後、アルマの方に向き直った。
「……で?俺にわかるように説明してくれます?」
「そうだな……簡単に言うと、神殿からきた生徒を慕うやつらとブランデンブルグ寄りだった貴族がフルストゥルに妙なあだ名をつけたり、牽制するような視線を向けたりといったことがあるらしい、あとドミニオン伯爵家の令嬢が王女付きであるフルストゥルに攻撃的な行動をしているとか…」
「うーん、リノンあたりに調べてもらいます?」
「そうだな……」
オルハとエマも一応そういったことができないわけではないが、なにせあの二人はややけんかっ早い、調べものの中でうっかりフルストゥルの悪評を聞いたら、無事では済まない……相手が、特にオルハは温厚に見えて、フルストゥルのこととなるといとも簡単に、暴力が選択肢に入ってしまうほどだ。
そしてその数日後、アーレンスマイヤのタウンハウスに届いた手紙の内容を読んだリノンを見た、エマとオルハは、リノンが怒りのあまりに放つ冷気に触れ、オルハに関してはお手上げといわんばかりに目を閉じ、逆にエマはあまりの珍しさに目を見開いたのは置いておき、鋭いアイスブルーの瞳を閉じた後に二人に告げた。
「ちょっと、お館様から仕事を頼まれたみたい」
「え?お館様から?もしかしてこっちに奥様来るとか?」
「ううん、違うよ。まぁ、何とかなるでしょう」
それだけ言い残し、リノンはタウンハウスを後にし、とある場所へと向かった。
「……なぁ、あれ知ってるか?」
「あれって何だよ。ここは王都だぞ?噂なんてごまんとあるんだから」
そう男たちがやや大きな声で話すここは、王都の中心から少し外れた丁度貴族と平民が半々くらい集まる酒場。
そこに、いつものきれいに三つ編みをほどき、隙のないメイド服から、シンプルな、けれどどこかこなれた雰囲気のワンピースに身を包み、耳を澄ませた。
貴族間の噂より、こういったところの噂の方が腹の探り合いがないせいか真実に近いことが多い。
「悪いって、あれといえばあれよ、レウデールの魔女の話よ」
「レウデール?そんなとこあったか?」
「あれだよ、ベルバニア領だよ」
そこまで言うと男は大げさに頷いた。
「あーーー、ベルバニアねぇ……で、魔女ってなんだ?あそこの奥方の年齢と見た目が釣り合ってないことか?今更過ぎるだろ」
確かにあれは怖いよなぁという男の発言に申し訳ないが笑いそうになりながら、その会話を聞いた。
「違う違う、子供の方だよ」
「えぇ?じゃあ、長女のことか?」
「だとおもうだろ?なんと末っ子だよ末っ子」
「あぁ~……最近何かと話題だよな……って、末っ子にはベルバニアの妖精ってよばれてるんじゃ……」
「そうそう、あまり社交界に出てこないんだけどものすごく美人って噂なんだけど……実はブランデンブルグを破滅に追いやったんだと」
「それって、ブランデンブルグが全面的に悪かったよな?それが何でそこまで飛躍するんだ?」
「普通に考えたらそうだよな?」
男はその言葉を待っていたと言いたげに相槌を打った後に、すこしおおげさに続けた。
「一見、冷めたかんじだった令嬢は本当は心底子息のことが好きだったらしくてな、不貞を重ね続ける子息を見ているうちに自分のものにならないくらいならって思い立ってブランデンブルグをいろんな伝手を使ってめちゃくちゃにして、国外に追いやったんだと」
逆、逆、バカバカどこが出所だ?と軽く頭痛を覚えながらも平常心を何とか保ちながら、リノンは息をゆっくり吐いた。
「はー……女の嫉妬って怖いなぁ」
「ねぇ……お兄さんたちさっきから面白い話をしてるね?」
「あっうるさかったかい?すまないすまない」
「いやいや、会員制のバーとかじゃないからいいよ。それよりその話……私も混ぜてくれない?」
カランと酒の入ったグラスを鳴らしてそういうと男たちが是非ぜひと鼻の下を伸ばす様子をみて、間違ってもお嬢様には見せられないなと思うのだった。
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