ぼんやり令嬢は色々と察したそうです。
「全く、いやな思いをしたなフルストゥル」
「いえ、お父様のお陰で巻けましたありがとうございます」
まさかここまで追いかけられないよな?と何度も背後を確認したが子爵の姿は見えなかった。
多分プライドが高そうな人だし、田舎貴族のためにここまで速足で来るのもいやだろうなと納得できた。
「本当に嫌な思いをしたときは言ってもいいんだぞ?フルストゥルは昔から我慢しすぎ……いや、こっちがさせてきたのもあるだろうな……」
「いや、そんな風に思ったことは無いですけど?」
むしろお父様は優しい……それこそ、私に厳しいお母様を何度も諫めてくれたし、休学中もおじい様のところへ行くように手配してくれたし、こうやって一緒に舞台を見たり、私の好きなものを馬鹿にしないで送ってくれたりする。
……婚約破棄の後は特に、私に申し訳ないと思っているのか以前より私に甘くなった。
というか、お父様、お母様のこと心底好きなのになんか私のせいで意見させて……夫婦仲険悪なってないかしら?
なってないな……なってたらジゼルとかから手紙だの、電話だの早い段階で来るか……そっかそっか……と謎の安心を覚えていると、お父様はさらに続けた。
「……そうか、何か欲しいものやしたくないことがあったら遠慮せずいいなさい」
「?はぁい」
あまりにお父様が優しいを超えて甘すぎる発言に、いいのかな?と思っていると、お父様はさらに続けた。
「甘すぎるなんてことは無いんだ……今までフルストゥルがされた理不尽な思いに比べれば」
「お父様……ありがとうございます」
お父様、本当に私のことを心から思ってくれているんだなぁと心が温かくなった。
そういえば、お父様はむかしからよく、お母様に怒られたり、呆れられたりして落ち込んでいると話も聞いてくれたし、時にはお母様に意見してくれていた。
……それで、お母様の性格が変わるか?といったら簡単な話ではなかったけれど、決して妻可愛さに、私のことを放っておくことはしなかった。
だから、変に非行に走ったりすることなくのんびり過ごせたのかな?
「礼なんていい、それよりニィリエ君とはどうなんだ?」
「どう?とは?」
私がゆっくり首を傾げると、お父様はも一度首を傾げてから少しだけ気まずそうに続けた。
「仲良くやっているか?彼の人柄は悪くなくとも、相性というものもあるしな」
なるほど……心配してくれていたのか、でもこういうことを聞くのってお父様苦手なのになぁ……としみじみしながらも、ニーチェさんとのやり取りを思い返してみても、相性の悪さゆえの居心地の悪さというものはこちらは感じたことがない。
何なら何度も庇ってもらっているし……こちらから不満なんて全く何もない。
あったらバチが当たるどころの話ではない。
「仲良く?はあるんでしょうか?でも一緒にいて嫌な気持ちになったことは無いです」
「……そうか、聞くのが遅くなったが年の差があるけれど大丈夫か?」
「あー……あまり気にしたことは無いですねぇ、ってことは私大人なんですかねぇ?」
すこしだけ胸を張ると、お父様は静かに横を向いてちいさく噴き出した。
「っく……そうかもな」
「え?今笑った?」
「いやぁ……私の娘はかわいいなと」
ごまかした……絶対、今ごまかした……まぁいいかぁ……いいのか?でも怒るほどのことじゃないかぁとなんとなくな気持ちを抱えているうちに舞台の幕が上がった。
なんだかんだ、見る前までいろいろありすぎて長かったがようやくあったが劇はとても演出に凝っていて、あのステージにどうやって?いう仕掛けがたくさんあったり、純粋にストーリーや歌もよく、原作も知っていたがイメージを損なうことは無くそれ以上の出来で胸がいっぱいになり、観劇の前にあったマクシミリアン子爵とのやりとりも流れていった。
「とてもよかったです……パンフレット、ニーチェさんの分まで買っておこう」
「おや?ニィリエ君は観劇が好きなのかい?」
「いや、特には?でも新しい趣味を探したいってよく言っているのでおすそわけ?です」
「そういった面ではフルストゥルは先輩かもな」
「おぉーとはいえ他のことすべてはニーチェさんが勝っている……あ、当たり前か」
「全てってわけではないだろう。とりあえず食事に行こうか」
お父様の提案に頷き、個室のレストランに到着する……お母様がいるときは何処にいてもマクシミリアン子爵のように絡んでくるようなことは無いが、お父様と私、お父様とお兄様とだとなんやかんや絡まれることが多い、お姉さまのときに絡まれないのは、ディルフィニウム侯爵家を再興させた。ロンドリーナ商会の麗しき会長という肩書があるからだろう。
いや、そりゃあお父様王都来たくなくなるよ……。
くる必要がなければ来ないよ……と思っていると、お父様は優しく笑った。
「これでも最近はましになってきた方だ。そこまで気にしなくとも」
「えぇ……昔もっとひどかったんですか?」
「まぁあの頃は戦争もあって国全体が異様な雰囲気だったからな……なにかしら八つ当たりしたい気持ちもあったんだろうな……北部の方もすごかったと聞いているしな」
淡々と他人事のように言うお父様を見て、それでもこうやって会いに来てくれるのはありがたいなぁと噛みしめ美味しい食事に手を付けるのだった。
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