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ぼんやり令嬢は皮肉の利かせ方がまだまだ甘いようです

「それはそうですけど……」


「まぁ、あまり人のこと根掘り葉掘り聞くのはやめた方がいいですよ?」


 トラブルになりかねないですし……と付け加えた後に見慣れた馬車が目の前に止まり、ラフレーズ様との会話はそこで終わった。


 「……あれ?お父様?」


 いつも、オルハとリノン、たまにエマかエフレムさんしか乗っていないはずの席には自分と同じ青髪の男性、お父様ことチェーザレ・ベルバニア伯爵がそこにはいた。


 「フルストゥル、丁度王に呼ばれていてな」


 「そうだったんですね、それで会いに来てくたんですか?」


 忙しいだろうにと思う私とは反面に、お父様は嬉しそうに頷いた。


 「あぁ突然で驚かせたな」


 「いえ、嬉しいです。」


 正直、長期休暇以外私が領地に戻らない限り、あまり王都にいい思い出がないからか、

 そもそもが遠いからか……こういった普通の日にお父様に会えるのは嬉しいというのが自分でもわかるくらい声が少し弾んでいた。


 「王宮には何の用事だったんですか?」


 「あぁ、税の報告と手伝いってところだな」


 「手伝い?」


 「未だに宰相が空席だからな……」


 「あぁ……」


 そもそも、それを忘れてしまうくらい陛下と妃殿下と、ルイヴィエール様が優秀なせいか重要視されて無さそうだがよくよく考えてみれば、いやそこ空席にしてよくまわるなぁと感心してしまったが、いやこれって感心してもいいんだろうか?

 いやいや、よくないなぁ……でも私が考えたところでなぁと思っていると、お父様は激務を思い出したのかうなだれていた。


 「こればかりはこちらが急いた所で、結局決めるのは陛下だからなぁ……」


 「そうですねぇ……」


 そもそも、宰相なんて重要なポジションを急ごしらえで据えるのもなぁというお父様の意見に同意し、馬車に乗るとタウンハウス……ではない方向へと向かいだした。


 「お父様?」


 首を傾げる私の反応に、お父様は予想していたかのように、無駄のない動きでお父様は二枚の紙を取り出した。


 「お母様の伝手で舞台のチケットがもらえてな」


 「もしかして、あの劇団の新作ですか?」


 「あぁ……どうやら演出家がお母様の友人の娘らしくてな」


 「おぉー……ありがたい」


 おばあ様の人脈が広いのか、そもそも人徳なのかは置いといて、こうやって私が好きなものに心を傾けてくれるのは素直にうれしいなぁと思っていると、お父様は続けた。


 「今度の課外授業が終わったら顔を見せに行くか?」


 「そうですねぇ……」


 そういえばそんなこと考えてもなかったな、とまた首を傾げると同時に馬車は止まった。

 どうやら劇場の近くに着いたらしく、降りると広場には多くの人々がいた。


 「相変わらずこの辺は人が多いな」


 「多分ここにいる人だけでヴィオルの人口の半分はまかなえると思うんですよ」


 「そうだな……」


 二人して人の多さにため息を吐いた後、劇場に入ると広場に比べて人も少なく落ち着いていたおかげでほっと息を着いたと思えば、お父様の背後に見知らぬ男性が立っていた。

 最初は、まぁたまたま近くにいるだけだろうと思っていたが、その人は性格の悪そうな笑みを浮かべた後に明確に害意をもって口を開いた。


 「おやおや、匂うと思ったら……田舎者のチェーザレ・ベルバニアじゃないか、お前に王都の芸術が分かるのかい?」


 「……マクシミリアン子爵、ごきげんよう、では」


 「おいおい、逃げるのか?」


 「娘との時間を邪魔されたくないのでな」


 「……娘?」


 「あ……ごきげんようマクシミリアン子爵、そしてはじめましてフルストゥル・ベルバニアです」


 「っ……すまないまさかいるとは思わず……」


 いや、私のがいるかどうか以前に第一声あれってどうなの?そもそも、貴方みたいなののせいでお父様、王都にあまり来ないんだが?どうしてくれようかな?いや、何もできないのはそうだけども……という色んな思いを押し込めつつ、さっさとこの場を離れたいがために少し、硬くなってしまったが笑顔を浮かべた。


 「いえ、お気になさらず……では失礼します。行きましょう?お父様」


 「そうだな、では私たちはこれで」


 「いっいや待ってくれ、すまないベルバニア伯爵……若い頃を思い出してしまってなぁ」


 「はぁそうですか……お気になさらず」


 関わる気ないんで、というお父様の心の声が聞こえてきそうな返答に、何故かマクシミリアン子爵は焦ったような表情を浮かべていた。

 何をそんなに焦っているんだろう。

 こんなことで焦るくらいならもうちょっと家のことに気を配ればいいのに……と呆れた気持を抱えていると、子爵はお父様ではなく私の方をじっと見ていた。


 「それにしても、話には聞いていましたが末娘であるフルストゥル嬢も夫人に似てお美しい、流石はベルバニアの妖精」


 「ありがとうございます?」


 「それに、アイリナの粗相も許してくれる広い心を持っていらっしゃる」


 まぁ、貴方その場にいなかったし、全部ルギオス様が事を背負っていたけどね?今更どの口が?そもそも貴方の教育のせいなのも一部あるのでは?ともやもやを抱えていると、せきをきったかのように子爵は続けた。


 「そういえば息子と同じクラスだとか?愛想もなく可愛げもないですが、迷惑かけてませんか?」


 「……迷惑だなんて、とても、ルギオス様は勤勉ですしよくまわりのことも見てます。先生方も褒めてましたよ。それに謝罪の場も責任を持っていらっしゃいましたし、責任感の強い真面目な方だと思います」


 ……少なくとも、貴方と違ってねという小さな皮肉を織り交ぜたのだが、子爵はそれも分からなかったのか上機嫌で答えた。


 「そうでしょう、そうでしょう。あいつは前妻に似て可愛げなんてないですが」


 「……貴方は相変わらず変わらないですね。フェオドラ様が気の毒だ」


 「何だと?」


 「少なくともフェオドラ様は、貴方のことも、マクシミリアン子爵家のこともこういった場で卑下するようなお方じゃなかったですけどね……あぁ、もしかして王都では昔から正妻を蔑ろにするのが流行っているんですか?だとしたらこちらの勉強不足ですかね」


 珍しくお父様が饒舌にそこまで言うと、マクシミリアン子爵もようやく馬鹿にされていることに気が付いたのか顔を真っ赤にしていたが、こんなところで声を荒げることもできず立ち尽くしているのを見てお父様と速足で舞台へと向かうのだった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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