神官候補生たちの相談事
「入り込む余地……ないじゃない」
フルストゥルに対するニィリエ・ハイルガーデンの感情が自身が思ったよりも深かったことに、ラフレーズは口内を噛みしめた。
「ただの事務処理程度にしか思ってないと思ったのに……」
ラフレーズから見て、フルストゥル・ベルバニアは確かによく見れば整った顔立ちをしているが、絶世の美女というほどではなく……むしろ陰のある、いや直球で言わせてもらえれば陰気、成績もとびぬけていいわけではなく中の中。
出身も、侯爵や公爵家や、王都派でもなく宮廷の重鎮の娘というわけでもなく、ただ昔からあるだけの家門で……一人娘というわけでもない、末っ子。
期待も何もされていない、はずの何のとりえもない……少しだけ読み書きと事務作業が得意なだけが取り柄なだけの……。
そこまで考えて自分が拳を強く握っているのに気が付いて、踵を返そうとすると嫌でも見覚えのある人物に会った。
「ルギオス……」
相変わらず整った顔に反してそれを台無しにするほどの仏頂面をしたルギオスは腕を組んで問いかけた。
「何を考えている?」
「何をって……」
相変わらず、人が犯罪を犯したかのように詰問するルギオスに嫌気が差しそっぽを向くと、ルギオスはため息をついた後に問いかけた。
「……お前は、フルストゥル嬢をどう思っている?」
ルギオスの突然の質問と先ほどのやり取りも相まってイライラした気持ちのまま不満をぶつけた。
「目ざわりに決まってるでしょう?なんなの?あんな地味なくせにどうしてあんなに大切にされてるわけ?婚約破棄になった瑕疵付きの癖に」
「そこまでにしておけ、誰が聞いているかわからないんだ」
ただでさえ機関に……と言おうとしたルギオスを見て、ラフレーズはいらいらを隠さずおざなりに答えた。
「そういうあんたは?義妹チャンがしでかしたって聞いたけど?」
「さっきその謝罪が終わったところだ」
「あっそう」
純粋なのはいいけど私の為にって理由で勝手に暴走されても迷惑なのよね……。
機関にいたときはよく男子が喧嘩してたっけ、好かれたりいうことを聞いてくれるのは嫌ではないけれど正直、それを見て私の為に争ってて嬉しいと思うよりうるさいなぁとしか思えない。
だって、好きでも何でもない人が勝手に争ってても迷惑なだけじゃない?と思っているとルギオスが呟いた。
「……お前のせいなんだけどな」
「は?私は何もしてないし命令もしていないけれど?妹の面倒くらい見ときなさいよ。あんたの家の事情はしらないけど私を巻き込まないでくれる?」
「はぁ……それより話があるちょっと来い」
こちらの気持ちや事情を無視して、ルギオスはそう示すのにも腹が立ったが、断る理由もなく、ついていくとそこはマクシミリアン子爵家の経営しているというより、ルギオスが経営しているサロンだった。
「で?何なわけ?」
「……フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢はお前にとって邪魔なのはよくわかった。」
「邪魔?ただ目障りなだけよ」
あんなの悪役令嬢でも何でもないじゃない……地味だし、家柄もそこまでだし、まだシャルロット・ロゼットロアの方が張り合いがある。
せめてギャラン様の幼馴染とかだったら
「そうか……実は」
そしてマクシミリアン子爵から、ルギオスがフルストゥル・ベルバニアと婚約関係になるように言われてるのを聞いて、そのあまりの非現実さに肩を落とした。
「略奪ぅ?あんたがぁ?」
私がそういうと、自分自身でも不可能だと思っているのかルギオスはため息を吐いた。
「……無理じゃない?ちょっと揺さぶりをかけたけど、ニィリエさんはてこでも動かなさそうよ?」
それに、別に本命じゃないし、と付け加えるとルギオスは分かりきっていたかのように首を振った。
「だろうな」
「……まぁでも?あんたとあの女がくっつけばありがたいかな?」
あの子の立ち位置はかなり美味しいし、むしろ成り代われるなら変わってやりたい。
第一王女のお気に入りって何?ずるくない?
「は?」
「だーかーらー、協力してあげるって言ってんのわかんない?それともその耳は飾りなわけぇ?」
「いや、でも……」
ルギオスの煮え切らない様子にさらにイライラして、思わず語気を強めた。
「確かに無理かなーとは思ったけどさ、考えてみれば年の差があるじゃんあの二人って、しかも一緒にいる時間はそんなにないし、それに比べたら同じクラスのこっちの方が理があるでしょう?」
かつての婚約者とも年が違い同じクラスではなかったらしい、それに比べたらかなり優位だろうと思いそういうと、いいながらそういえばと付け加えた。
「それに聞いたけど、あの子が好きな人ができた場合はかなり穏便にことをすませるみたいよ?」
「それは…」
そうかもしれないと言いたげなルギオスを後押しするように、ラフレーズは立ち上がった。
「とにかく及び腰はだめよ?絶対」
「わかったよ……それより、お前は余計なことをするなよ?ただでさえもう色んな所に睨まれているんだからな」
そんなこと、身をもってわかってるわよと思いながら私は、その場から立ち去った。
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