傲慢な侯爵子息の知られざる事実と転落(レヴィエ視点)
今回はレヴィエ視点です。ざまぁ一歩手前程度です。
――どうしてこうなったんだ。
駆け巡る噂、そして悪評に周囲の軽蔑を含んだ表情、言葉、周りにいたはずの人間はいつの間にやらいなくなっていた。
「婚約者を蔑ろにするなんて……」
「そういえばこの前聞いたのだけれど……」
曰く、俺は婚約者に常日頃暴力を振っているだの、それだけでなく様々な女性と体の関係があるだの、成績を金でかっているだの・・・。
事実が少しだけ含まれているものもあれば、全くのガセも多く含まれたまま、疫病のようにそれらだけでなく、様々な憶測が憶測を呼びそれらは自分だけでなく、ブランデンブルク侯爵家までも蝕んでいった。
その噂はどうやら父の耳にも入ってきたらしく、帰ってきて早々に書斎へ呼ばれた。
「レヴィエ、いったいこれはどういうことだ」
怒り心頭、今にも爆発しそうな父親に内心の動揺を強く押さえつけ、眉を吊り上げて答えた。
「聞きたいのはこちらですよ父上」
「とぼけるな」
「……ただの噂です。時間が経てば収束するでしょう。」
「ただの噂?これだけ証言や証拠があるというのに言い逃れができるとでも?」
父親はそういうと、執事から受け取った封筒を開けた。
そこには数多くの写真、主に自分が数々の令嬢と一緒にいるものや、夜会での写真、それに
婚約者に使うために渡された金銭が、フルストゥルに使われていない証拠などなど、それはそれは言い逃れできない数の証拠が、挙がっていた。
「様々な女性と体の関係があることはただの噂です、それに暴力など振るってなどいません」
「前者が嘘であることはこちらでも把握している、だが後者は王宮の宮廷医が確かに証言を上げているし記録にも残っている」
なるほど、父はすでに調べていたらしい。
徹底的な証拠の前に黙っていると、父親は頭を抱えた。
「他の令嬢に目移りしてしまう年頃だというのは理解しているつもりだったが、どうしてここまでフルストゥル嬢に対して侮辱的な行為を取ったんだ。」
父は、信じられないものをみるような眼差しでこちらを見てきた。
それはそうだろう、父は物静かで、煩わしく口を挟まない大人しいフルストゥルが、大層気に入っていたのだ。
「彼女の何が気に食わない彼女がお前に何をしたんだ。」
あまりの信じられなさに頭を抱える父をなぜか背景のように感じながらそれに応じた。
「何も」
「だったら何故」
爛々と怒りに表情を歪ませる父に、自分の思いが自然と口からついて出てきた。
「俺が他の令嬢といるのを見ても、軽く挑発しても、怒ることも悲しむこともなんにもしませんでした。」
傍から見聞きすれば、不貞を見逃してくれる、ありがたい婚約者なのだろうけれど、逆に彼女が他の誰かと仲良くしているのを見たり、自分以外の誰かに笑顔を向けていたら、心がかき乱されてどうしようもないのに、彼女はそんなこともなかった。
俺がなにを、だれとしていても、あの呆れと不信を多く含んだ視線を向けられるだけで、激昂することも泣くこともない。
そのくせ、律儀に毎月手紙とプレゼントを送ってきて、怪我や風邪の心配をしてくるだけで、その手紙に特別に感情がぶちまけられたことはなかった。
「彼女からは俺への情を感じません。」
「試すためにこんなことをしたとでも?いい加減にしろ」
父は当たり前だが、フルストゥルの前では絶対に見せない怒りに満ちた表情で感情のまま、にテーブルを折れるほどの勢いで叩いた。
「……明日、チェーザレ殿とティルディア夫人が来る お前への沙汰はその後だ」
殴りかかりたいのを抑えて、それだけ告げると父は立ち上がった。
「まさかお前が、たった一人のレディすら守れずに虐げるような男だとは思ってなかったよ。」
父の瞳には、フルストゥルと同じように、失望が大きく映っていた。
けれど、この婚約がなくなることはないのだろう。
せいぜい金を払って解決するだけだ。
あの貧乏伯爵家が、こんないい縁談を反故にするなど、それこそ金を溝にすてる行為に等しい。
現に夫人は、フルストゥルを陰気で何を考えているかわからない、と毛嫌いしている。
伯爵からも、フルストゥルに対してあまり愛情を感じない。
こう考えると、少しフルストゥルが哀れに思い、今度泣いてすがってきたら、すこし位は優しくしてやってもいいかもな。
……と自分らしからぬ考えが頭に浮かんだ。
翌日、学院へいくと、意識すらしていないのに目がフルストゥルを追っていた。
相変わらず、あの気が強い公爵令嬢とまるで、双子のように仲良く歩いている。
そこに多分クラスメイトだろうか、男子生徒が二人に挨拶をすると、二人は挨拶をしてその男子生徒は先にいくのかと思いきや、フルストゥルと少し話をして、ようやく男子生徒は先に行った。
その雰囲気は、恋愛とは程遠いのはわかっているが、自分の前では見せない、和やかな雰囲気で気軽に話すその様子に、正直憤りを感じた。
自分と話すときは、緊張した面持ちか何の感情も覗かせない、がらんどうな瞳をしているのに、どうしてそんな関係の浅いやつに簡単に隙を見せるんだ、と。
でもまぁ、今日くらいは放っておこう、唯でさえ父に言われたばかりなのだから。
煩わしい噂と、何か言いたげな視線に煩わしさを感じながら一日を終え、食後また父親によばれ書斎へ行くと、自分の思惑とは違い、父はまるで悪霊に取りつかれたかのような表情で告げる。
「レヴィエ、この婚約は破談となった」
「は、ベルバニアが断ったと」
「あぁそうだ」
信じられない発言に、思わず乾いた笑いとともに、本心が口から漏れ出た。
「どうして あんな格下の伯爵家が……」
「格下?何を勘違いしているんだレヴィエ、この縁談は王室派の支持が欲しいこちら側が打診をした婚約だぞ」
「は?」
訳が分からず硬直してるのを無視して、父は知らされない事実をさも当たり前のように告げる。
「大体ベルバニアは、どんな災害が起きようとも王家からの救援を受けず、自力でいつも立て直してきた。それだけでなく、一般の伯爵家より多額の税金を王家に納めている。
何ならうちよりもだ。それに加えて、孤児院や、それを運営する慈善団体にも納めている。」
「だったらどうしてもっと……」
「チェーザレ殿も、ティルディア夫人も、あまり権力やそういったものに興味がない。
彼らは基本的に、領民の生活の質の向上と、それらの維持さえできればいいと思っている。
そこまで贅沢も望んでいないし、別に王家に恩を着せようとも思っていないから、公言していないだけで、多くの主に王室派は、ベルバニア家の王室への献身を知っている。」
知られざる事実に、驚愕する間もなく、書斎のドアが開き、静かに怒りを纏いながら母は、自分を睨みながら父の言葉に続けた。
「……それに、お姉さまの生家であるアーレンスマイヤ家は多くの鉱山を持つ資産家であり、お姉さま自身、あまり社交界に出ないのに、その影響力は計り知れないわ。」
「お母様……」
「もともと、この婚約にあちらは賛成をしてなかったのを、いろんな条件を出してようやく吞んでもらった婚約だったのに……。」
「そんなこと教えてくれなかったじゃ……」
「黙りなさい、あぁやっとここまできたのに、お前のせいで台無しよ。私はこれからどんな顔をしてお姉さまに会えばいいのよ。」
嘆き、叫び散らしかねない勢いで母は怒りをぶちまけるが、其のせいかこちらは変に冷静に対応してしまう。
「お母様、夫人はフルストゥルのことを毛嫌いしてるじゃないですか」
「お前の目は節穴なのレヴィエ、お姉さまはこの婚約が決まってからずっと心配していたわ」
母の言葉に驚く暇もなく父は続けた。
「……お前に何も言わなかったのは事実だ。けどそれは、お前とフルストゥル嬢が仲睦まじかったからだ。そこに変に情報を入れて、仲がこじれないか心配で言わなかっただけだ。」
「けれど……」
どうしてこうも急に、と言いたい気持ちを踏みつけるように、父は、この話をさっさと終わらせたいと言いたげに口を開いた。
「もう終わったことだ。今更何も、もう変わらん彼らの意志は固い。」
「フルストゥルちゃんはもうブランデンブルグとは関わりたくはないそうよ」
その言葉を聞いた時、どうしてこんなことにという思いとともに、幼い頃の記憶が呼び起された。
――レヴィエ様、私と一緒にいるときは楽にしていいですよ。私、誰にも言いませんから。――
あぁ、どうしてこんな時に、あの頃の穏やかな思い出を思い出してしまったんだ。
どうしてこんなことになってから、彼女の優しさを思い出してしまったんだろう。
「また明日、ベルバニア夫妻と話し合いがある、お前も来いそこで沙汰を決める」
「はい」
父のその言葉を最後に、部屋から出ていく両親は自分を、まるで廃棄物を見るような瞳と明らかすぎる侮蔑の表情ででていった。
もう、自分のこの愚かな行動の末に残ったのは、遅すぎる後悔と醜聞だけだった。
――レヴィエ様――
もう二度と、彼女が柔らかな笑みを自分に向けてくれないことを、痛感しながら心の中で、彼女をつなぎとめる術を探そうとしていた。
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